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第97話 戦いの後で

拘束したままのメイスを立たせて、エレイシアの方へと近づく。

 合気道はこういう連行術にも適している。

 メイスは大人しく従っていた。魔法使いのジョブの要である腕を取られていては、今はチャンスがないと踏んだのだろう。


 近づいたときには、もうラディッツオの意識は回復していた。スゲータフネスだ。

 この作戦を立てるときにエレイシアに確認したところ、ジョブレベル1とはいえ、C下位のオークですら倒したと聞いていたぞ。

 鎧がいいから死なんとは思っていたが、気絶すらしないとは。


 それでも、ご自慢の槍は手元から既に離れていて、今は俺が回収させてもらった。


「どうした、何故止めを刺さねえ? 一分も回復すれば、この態勢からでも隠れてたアンタならいい勝負だぜ。アンタを捉えてそこのメイスとの交換くらいならできちまうぞ。

 つかアンタ、どっから出てきたんだ?」


 ラディッツオが負け惜しみのセリフを、エレイシアに向けて吐く。

 いや、ハッタリに聞こえないから怖いけど。

 エレイシアが何処から出てきたか、俺のスキルを知っていれば簡単に想像がつくだろうに。


「おそらくは、商人のアイテムボックスだろう。魔法使いと、僧侶のジョブスキルを使ってきたんだ。

 まさか、まだ他にもスキルブック、それも有能なジョブスキルを隠し持っていたとはな。

 計画犯故に、上空から伏兵の警戒はしていたが、私が降りるまで隠していたということか」


 流石はメイス、こちらの作戦を説明せずとも理解し始める。

 最強二人を倒すには奇襲しかない、とは思っていた。しかし、ララの奪還や他の見張りや護衛もいる中で、二人への奇襲から作戦を実行するのも不可能だ。


 そこで考えたのがこの作戦だ。ユキにララを渡すのをわざと見せて逃走することで、他の兵を分断し、この二人は俺が足止めをしてエレイシアの奇襲で勝つと。


 俺も入ったからわかるが、商人のアイテムボックス内では意識はあるが体は知覚できない麻痺のような状態で、時間感覚すらなくなっていく。

 この状態からいつでも飛び出し、ジョブスキルを使う心の準備を維持しておくのは、非常に難しかった筈だ。

 ひとえに、エレイシアのララへの想いがこの戦いの勝敗を決したのだった。


「それと止めておけラディッツオ、私との人質交換など意味がない。

 私達の目的はあくまで婚約者の奪還だ。ここまで戦ってわかったが、相手はこちらの戦力を調べてから計画を実行している。

 おそらく、我々二人でなければ逃げた方は捕まえられん。動けるのならそのまま一人で逃げろ」


 それは、この婚約の後の森への討伐に全てを懸けていた男の、諦めのセリフだった。

 この婚約が破談になればヴァイアージ家は数年は森へ兵を出さないだろう。そうなればメイスもラディッツオも全盛期を過ぎてしまう。


 紳士なメイスは元々自身がどれほど目的のために行動しようと、無関係な犠牲を出してもいいというような男ではない。

 それでもララの犠牲を見過ごしていたのはもう彼には時間が残されていなかったからだ。


「勝手に話を進めないでもらえますか、まずはラディッツオさんの質問に答えましょう。

 単にお二人にお話があるからです。メイスさんも悪い話ではないのでまずは聞いてはもらえませんか?」


 どっかの誰かに似合わないといわれた荒事での解決はこれくらいにして、ここからはいつもの文官パートだ。

 敵対すると決めたときから甘くなってはいけないと、心の中でもメイスと呼び捨てにしてきたが、やっとこさ元に戻せる。これ、地味にキツかったんだよな。


 このまま天下の大貴族に追われ続ける逃亡生活ではハッピーエンドとはいかないだろう。

 他にも問題は残っているんだ。


 今後のための交渉に移る。


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