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私は神様のお力で幸せになりました。

掲載日:2023/02/19

「ねぇ、ご存知? 聖女様のいらっしゃる神殿にお参りすると必ず願いが叶うのですって」

「え、願いが?」

「それで、あの男爵家の地味女はセイクリッド様を射止めたらしいわ。どうりでね、あの地味女にはもったいないにも程があると……」


 夜会でミストレス伯爵夫人がささやいてきた。


 唐突な話題だが、今、皆が気になる話題だろう。

 ミストレス伯爵夫人のさげすむような視線の先には、マニュエル男爵家の次期女男爵とセイクリッド様がいる。

 セイクリッド様は流行りの中性的な美男で豊かな伯爵家の三男だ。


「セイクリッド様は皆の目の保養だったのよ、それをあの地味女は……」


 ミストレス伯爵夫人の批判はまだ続いている。


 マニュエル男爵の御息女様は清楚で可愛らしいと思うのだけれど。

 セイクリッド様とお似合いでいらっしゃるわ。これはミストレス伯爵夫人の前では言わない方がいいだろうけど。


 私はセイクリッド様の横にいる御親友の伯爵家次男レオンハルト様の方がいい。

 私の婚約者とは違う優しそうな眼差し、程よくついた筋肉、いつも控えめに微笑んでいらっしゃって……っと、婚約者の居る身で他のフリーの男性をあまり見ない方がいいわね。

 マナーが悪いわ。


 私もあの人と同じになりたくないもの。

 ……ふと振り返った視線の先には、相変わらず女と親そうに話している私の婚約者がいた。


 ---


 私はモンドーブル子爵の跡取り、マリア・フォン・モンドーブルだ。

 21才にもなるのに結婚できていない。

 それというのも、13才の時に婚約した婚約者が結婚を渋っているせいだ。


 レストア侯爵家の次男ユリウス。

 格上からの婿入りの申し込みで、多分ウチがそこそこ裕福だからだろう。

 おしゃべりな性格で着飾ることが好きなのが気になったが、そこは格上からの申し込みだ。

 文句は言えない。


 モンドーブル家の領地は魔石がそこそこ出るのと山の斜面を利用した果物がそこそこ人気だ。

 とにかくウチはすべてがそこそこなのだ。

 だから、頑張って更に子爵家を盛り立てていかなくてはならない。


 私はウチの家の為にとにかく早く結婚して子供を産みたかった。

 18歳ぐらいには結婚して、早めに子供を作り、子育ては乳母に任せて自分の子供たちも裕福に暮らせるように領民が豊かに暮らせるように、色々と基礎を固めたかった。

 そんな風に思うのは、私がモンドーブル家に生まれたから。

 今まで愛を注がれて育てられてきた領民もモンドーブル家に敬愛を向けてくれた、それが分かっているからだ。


 それなのに婚約者の言う事には、


「まだ遊びたい」


 だそうだ。クズ過ぎる。

 速攻で婚約破棄したかったが格上の家なのでできない。

 こちらから婚約破棄を申し込むことができない。

 私の婚約者は最近はほとんど交流もないのに、婿入りが魅力的なのか何なのか婚約破棄をしてくれない。

 こんな事、友達にも相談できないし、両親もそこら辺の難しさで頭を抱えている。


 詰んでいる。


 どうしたらいいのか。

 とうとう先日21歳になってしまい。

 私は焦っていた。

 誰も助けてくれない。



 ……。

 ………。

 ……パタパタパタ……。

 雨の音がする。


「え?」


 気づくと馬車の中だった。


「お嬢様大丈夫ですか? やはり夜の神殿など引き返した方がよろしいのではないでしょうか。いくら神殿は騎士が見回って治安が保たれていると言っても……」


 向かいに座っている侍女のアメリーが気遣わしげにこちらを見ていた。


 え、どういうこと?


「え? 私……」


 慌てて自分を見ると、乗馬用の格好をしている。

 動きやすい服装だ。


 何故、動きやすい格好をしてるのかしら、私は。


 ………………そうだ、昨日の夜会で聞いたミストレス伯爵夫人の話。


 私はそのお話をやってみようと思ったのだった。


 聖女様がいらっしゃる神殿にお参りすると願いが叶う。

 魔法でもスキルでもなく、神様が願いをかなえてくれるというお話だった。


 頭にミストレス伯爵夫人の言葉が蘇る。

 何を考えているかよく分からないミストレス伯爵夫人の妙な流し目が頭をよぎる。


『夜にね、聖女様のいる神殿の石段を行ったり来たりするのよ、聖女様が出てくるまで』


 ……聖女様は神殿の奥にいるという。

 いつ出てくるのかは誰も保証してくれない。


 私は馬車から出て、神殿の石段の前に立った。

 乗馬用の動きやすい服装に頭から革のマントを被っていたけれど、隙間から雨が入って来る。


 ……冷たい。


「お嬢様! 私、やっぱり反対です! 逆らって鞭うたれても構いません! 風邪をひいてしまうかもしれませんし……!」


 馬車の中から侍女のアメリーが叫んでくる。


「待ってて。もうやるって決めたから途中で中断はできないわ」


 私は石段を一段一段上り始めた。神殿を警備する騎士はこちらを見るものの不思議と注意はしてこなかった。

 もしかしたら私のような参拝者が結構いるのかもしれない。


『やりはじめたら中断してはいけないわ。願いを心の中で唱えながら神殿の前まで階段を上るの』


 願い、私の願い。


 ユリウスに婚約破棄して欲しい。

 そして、私とすぐに結婚してくれる人が欲しい。

 モンドーブル子爵家のモンドーブル領地の繁栄の為になる人なら誰でもいい。


 お願いします。

 お願いします。


 願いを心の中で唱えながらだから石段の数は数えてない。

 けれど、夜の雨の中でも白く光る石段は長かった。


 スキルでもなく魔法でもなく、『神様』どうかお願いします。


 今まで神様を直接感じたことはないけれど。

 魔法やスキルの力に神の力は宿っているから、『神様』はいるのだろう。


『魔法やスキルを使って行ったり来たりするのはダメなのですって』


 モンドーブル子爵の跡取りとして、女だけれど最大限体は鍛えている。

 だけれど、この石段を聖女様が出てくるまで上り下りできるのだろうか。


 ………いや、やらなくては。


 ユリウスに婚約破棄して欲しい。そして、私とすぐに結婚してくれる人が欲しい。

 お願いします。


『登ったら上った回数分だけ手を打ち合わせて降りるそうよ。それでやることは全部。それで願い事はすぐに叶うそうよ。でも願いが叶うなんてあるわけないわよね。とりあえず私はやらないわ。今の生活に満足してるもの』


 ミストレス伯爵夫人はにっこりと笑っていた。

 それはそうだろう。ミストレス伯爵家は領地経営もうまくいっていて、夫人は夜会や茶会を格下の貴族に話しかけつつブラブラしているだけで良いという。


 もしかして、私がこの話に飛びつくだろうと、見下げられたのだろうか。

 それとも可哀そうにと憐れんで、この幻想のような話を教えられたのだろうか。


 ……夜に始めたのは不味かっただろうか。聖女様が出てくることなんてあるのだろうか。

 何か祭事がないと聖女様は出てこないと聞いている。

 昼は聖女様は忙しいはずだ。

 もう始めてしまったけれど、雨の日なんか出てこないだろう。


「さむい……」


 時間だけがすぎていく。

 何度行ったり来たりしただろうか。

 指先がかじかんでいる。

 私は指に息を吹きかけた。気休めにしかならないけれど。


 ……。

 ………。


 気づくと石段の上の方に白いローブを着た人が立っていた。

 その他に傘をローブを着た人へ差し掛けてる人がいる。


 私は石段の途中だが、なんとか地べたに這いつくばって平伏した。

 白いローブを着た人がビクッと揺れる。


 聖女様だ。聖女様が現れてくださった。


『あー、あなたの願い叶えます。だから、家に帰って温かいお風呂に入ってきちんと自分のケアして寝なさい。ケアは毎日ちゃんとするのよ』


 声を届ける魔法で私の耳に柔らかいお声が届いた。

 この柔らかで心地よい女性の声はもちろん聖女様の声だろう。


「ありがとうございますっ……」


 その優しいお言葉に私は思った。

 私の願いは叶う、と。


 私は神殿への寄付を更に増やす事を決意した。


 自分の屋敷にビショビショのまま帰ると、家族が心配してくる。

 もちろん、私は堂々と神殿にお参りして聖女様からお言葉をもらえたことを説明した。


「無茶をする」

「風邪をひかないようにするのよ」


 など声をかけられてから、言われた通りお風呂に入り、髪や肌などのケアをしてから寝た。

 風邪をひかないように体を整えるポーションも飲んだ。


「これでよし!」


 久しぶりに気合を入れてケアしたせいかすっきりと寝れた。

 やることをやったのだ。聖女様を通して神様が願いを叶えてくれるはず。


 ---


 次の日、婚約者のユリウスが珍しくウチに来た。

 先ぶれもなく驚いたが、昨日ケアをきっちりとしてから寝たので、ドレスの着付けとヘアメイクは短時間で仕上がった。


 まずは、定型通りにお互い挨拶をしてから、ユリウスがお喋りなくせに言いにくそうに口を開いた。


「久しぶりに話をしようと………」

「話って婚約破棄の事ですかっ?」


 私は目を輝かせてユリウスに返事をした。


 やった! こんなにも早くお参りの効果が出たんだわ。

 聖女様が『あなたの願い叶えます』って言ってくれたんだもの。


「え、いや、婚約破棄? 違うが………」


 ユリウスが目を瞬かせる。


「え……違う? まだお参りが足りないんだわ。もしくは手入れが足りないのかしら。まあ………まだよね。早すぎるのよね。願いはかなうんだから」


 まだなのか………。

 私はいらいらして指を強く組み合わせた。

 だめよ、私。聖女様を神様を信じないと。


「昨日、夜会で先に帰っただろう? どうしたんだ?」

「聖女様のいらっしゃる神殿にお参りすると必ず願いが叶うというので、それでお参りをしようと先に失礼させていただきました」


 私はユリウスの問いによどみなく答える。


「聖女様は『あなたの願い叶えます』とおっしゃってくださいました。楽しみです。でも手入れをしないと」


 そう、私が焦りすぎたのよ。


「まさか、その願いとは俺との婚約破棄なのでは?」

「さあ………? どうでしょう?」


 今更ながら、子爵家の我が家は侯爵家には逆らえないことをきちんと考えて、とぼけて見せる。


 でも、私はもうこの馬鹿みたいな婚約者に付き合いたくなさ過ぎて頭がおかしくなってるのかもしれなかった。

 今までだったら、こんなあからさまで無礼だと突っ込まれてもおかしくない態度は取らなかったのに。


 なんといっても、聖女様に『願い叶えます』と言って頂いたのだ。

 もうユリウスとの縁は切れていると言っても過言ではない。


「さあ、お話はそれだけでしょうか?」


 私は笑顔でそう聞いた。


「うっ……」


 それからユリウスは口の中でもごもごと、「違う」とか「そんなつもりじゃ」とか何か煮え切らなくて訳の分からないことを呟きながら帰っていった。

 貴族令息らしくなくて情けない姿だ。



 その後、何日かして(もちろんその日々は自分のケアを毎日していた)レストア侯爵家から婚約解消の申し入れがあった。


「すまなかったね、最近ユリウスの様子がおかしいから問い詰めたら事情を聴いたよ」


 ユリウスの父親が直々に我がモンドーブル子爵家にに来て謝ってくださった。

 私はこみあげてくる微笑みを抑えて首をゆっくりと振る。


「いいえ、長い間ありがとうございました」


 円満な婚約解消という形ではあったが、ユリウスに長年我が子爵家が付き合っていたという形で謝礼金を貰える事になった。



 ……私は慎重にレストア侯爵様が帰るのを見送ってから、喜びの声をあげる。


「やったわ、聖女様を通して神様が願いを叶えてくださったのよ」


 思わず侍女のアメリーを喜びあまり抱きしめる。

 貴族令嬢としては感情を露にしすぎてはしたないけれど仕方ない。

 願いがかなったのだ。


「おめでとうございます。マリアお嬢様! 私、私、本当に心配でしたっ」


 アメリーも一緒に喜んでくれて目じりに涙さえ浮かべている。


「さあ、後はすぐに結婚してくれる令息を探さなくてはね」

「ええ、お嬢様なら大丈夫です」

「まあ、アメリーったらいくらなんでも婚約解消されたばかりの令嬢よ?」

「お嬢様は美人ですし、最近お手入れを念入りにしていらっしゃるから更に美しさに磨きがかかってますわ。婚約解消なんて問題じゃありません」

「まあ、ありがとう。じゃあ、ウチの子爵家も豊かなのもあるから大丈夫かしら。勉強も頑張らないと」


 私はアメリーと笑いあったのだった。


 その後、一か月もしない内にぽつぽつとありがたいことに婚約の申し込みが届き始めた。

 そして驚くことに、


「レオンハルト様からの婚約申し込みだわ」


 あの美貌で有名なセイクリッド様のいつも横にいる御親友レオンハルト様からの婚約申し込みが届いたのだ。

 レオンハルト様は、ユーステリア伯爵家次男で婿入りにも申し分ない。

 あの優しそうな眼差し、程よくついた筋肉、いつも控えめに微笑んで……っ。


 私はお父様にはしたなくない程度に急いで承諾のお返事を書いてくれるように頼んだのだった。



 ーーー聖女の視点ーーー


 ……今日も夜の神殿に参拝者が居た。

 それもこれもミストレス伯爵夫人が先頭に立ってばらまいている噂のせいだろう。


『聖女様のいらっしゃる神殿にお参りすると必ず願いが叶う』


 ミストレス伯爵夫人のお喋りババアは日常に飽き飽きしているのだ。

 ミストレス伯爵家は領地経営もうまくいっていて、夫人は夜会や茶会を格下の貴族に話しかけつつブラブラしているだけで良いという。

 良いご身分だ。


 女性の中で高い地位にある聖女の私が気に入らないから、聖女という私を敬っている姿勢を崩さないまま、そのような噂をバラまいて私を聖女から引きずり降ろそうとしているのだ。

 これで失敗したら、


『聖女様の祈りも神様に届かない時もあるのね」


 なんてあの蔑んだ目で噂をばらまくに違いない。


 ふん、聖女の祈りなんて神に届いてるのかどうかなんて分からない。

 せいぜい私の力なんて属性魔法の一種の『光魔法』がうまいだけなのだ。

 治癒とかはまあ人よりはできるだけれどそれだけだ。

 ノリ的には『水魔法』を使える人も治癒魔法みたいなものが使える人もいるし、『光魔法』がなんで特別視されているかが分からない。


 ただ、事態はとても面白い事になっていた。

 先日も、多分モンドーブル子爵家のご息女が神殿に参拝に来ていた。しかも雨の中だ。

 外を見張らせている騎士が、貴族令嬢がずぶぬれになっているのを見かねて私に報告に来たのだ。


 私は慌てて出ていって、モンドーブル子爵家のご息女に分からないように治癒魔法をかけた後に、


「願いを叶えます」


 と宣言した。

 願いが叶うかなんて分からない。

 最初は貴族なのに地べたに平伏する人の勢いに負けて「叶えます」と言った。


 でも、これでいいのだ。

 これで事態はいつも都合よく広がる。

 種も仕掛けも魔法もスキルもない。


 ただ単に夜の神殿に参拝をするという気合の入った人が、私にそう言われると本当に願いが叶う気になるだけなのだろう。

 そして事態の解決に向けて積極的になったり、あるいは心の余裕ができたりして、無意識に事態の解決に向かう。

 そんなものだと思っている。


 私はそれでいいと思っている。

 きっと神様は皆の心の中にいるんだわ。


 それよりもいつも会えば遠回しな嫌味ばっかり言ってくるミストレス伯爵夫人に、私こそ今度は事態の解決に向けて釘を差すかガツンと何かいってやらなければ気が済まないんだからね!

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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↓代表作です。良かったら読んでくださると嬉しいです。

「大好きだった花売りのNPCを利用する事にした」

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