LV73
「ねぇ? あなた、私に言う事無い?」
目の前に、初音さんがいる。
どういう事?
「あなた、12月25日になんの未練があったの?」
「未練か……」
不敵に微笑む顔を見て、
「あの日、初音さんに部屋に来るか聞かれて答えられなくてね。それがずっと引っかかってたんだけど、しばらく会えなかったから余計……そのくらい」
「あ~、あの日ね。覚えているわ。あなた、あの日、部屋に来ていたら、プレゼントは私だったのに残念ね」
薄ら笑っている。そうかぁ、残念だ。でも、嘘だろその顔。
「あのさっきの最後の私、何者なのかしら? 私達の観測結果は1/9から分岐した世界が現れて過去に戻って行ったのよ。それで、分岐した世界はこっちの世界と完全に同じでは無かったのね。例えば、分岐世界には私はいなかったでしょう? それに梨花も胡桃も途中で消えたわよね。それは、その世界に必要ないからだったのね。言い方変えればその世界を作り出したものにとって必要なかったからその世界から消されたのよ。その辺の事は、後でおばあちゃんにでも聞いておくわ」
俺を消したいって言ってたよなあの美麗とかいうやつ……てっきり初音さんの知り合いだと思ってたんだけど……知らないのか。
「今のあそこは1/9よ。分岐した世界にすぐ作った急ごしらえの世界。どうしても、あなたを戻したくなかったのかもしれないわね。12/31から戻る途中で私の一瞬の隙をついてあなたを奪って、そいつは消えたの。それで、カメ子ちゃんを元の世界に戻して、残りの力で直ぐにこうやって助けに来たっていうところよ」
「でも、どうやって見つけたの?」
「お守りあったでしょ?」
「あの、おもちゃ?」
「そうね。石の方はおもちゃでも、ネックレスは本物だったのよ。あの金属は我々一族の---」
「初音さん、嘘つこうとしてるよね? もういい」
「なによ、こういうのが楽しいのに私の楽しみ奪う気?」
「で? これいつ帰れるの?」
俺は暗黒の中、初音さんと抱き合って浮遊していた。何もない。完全な暗闇。音もしない。光も無いのに初音さんの姿は見える不思議な空間。そこで、俺は、俺と初音さんは宇宙遊泳よろしく、浮かんでいる。帰りの分の力が無くてガス欠のようなものらしい。
「もうすぐ、梨花か胡桃が気付くんじゃない?」
「そんな雑な感じ?」
「大丈夫よ。大丈夫。わからんけど」
抱き合う初音さんの身体から伝わる彼女の体温が、俺のこの数日の不思議な旅の終わりを実感させてくれる。
「ねぇ? 初音さん。お礼のキスしていい?」
「え? 何急に…… お礼がキスっておかしくない?」
「ダメなの?」
「ぃ、ぃぃけど」
「声小っさ、なに?」
初音さんは俺を見ていた目をつぶって待っている。
「ありがとう」
俺は初音さんの薄い血色の良い唇にそっと唇を合わせ、リップの匂いと初音さんの甘い吐息を頂いた。




