LV60 1/2(土)-4
「俺をこの旅から解放してくれないか? 頼む」
俺はベッドの中で鼻より上を出して掛布団をぎゅっと握って、視線だけこちらに向けるゆるふわちゃんに諭すように呟いたつもりだ。
「ねぇ? さっきからなんか怖い顔で何を言っているの? 意味わかんないんだけど」
相変わらずの可愛い声で、俺を見ながら目だけ出して続ける。
「どこから降りるって? 舞台って何? 解放って何? ねぇ、わかりやすく言ってよ」
「俺は、今まで暮らしていた世界に戻りたいんだよ。寝たら明日になる今までの生活に戻りたいんだ。頼むよ」
「ほんと、意味わかんない。だから、彼女もいなくなっちゃうんだよ」
俺を見つめていた瞳と声色に怒気が感じられる。
「ごめん。ごめんなさい。言い過ぎた。でも、ほんとわけわかんないこと言うから、でもね」
布団から暖かい手を出して俺の頬に当てると、
「私は居なくならないから、私は絶対あなたの事を悲しませない。私はず~っと、あなただけを見てきたから、だから、私と一緒に居て?」
俺の顔をまっすぐに見て瞳を潤ませて懇願するゆるふわちゃん。普段の俺なら、そのまま、よろこんで~と、居酒屋の挨拶よろしく、ベッドにもぐりこみそうなところだが、そんな事をしている場合ではないと俺の心と身体と政光殿は理解している。
今日は、いや、いつもだが。
俺の気持ちは固まっている。カチカチでコチコチだ。心の比喩表現だ。念のため。
「悪いけど、気持ちは変わらないよ。戻してくれ、頼む」
俺は頬にある彼女の手を握り頭を下げた。丁度、ベッドの高さと俺の頭の位置は同じくらい。手を出したことで随分と彼女の顔が近くにある。彼女の吐息がもろに俺の頬当たりに感じる。まずいまずい。俺の固い決意が、吐息ごときで簡単に崩壊しそうになるのを寸でで思いとどまり、柔らかい手を堪能しながら、もう一度、ゆるふわちゃんに向き直る。
「出来ないよ。そんな事、そもそも何の話をしているの?」
ゆるふわちゃんは俺の目の前の顔をこわばらせ、俺から視線を外して眉間にしわを寄せている。ゆるふわちゃん……俺が何も無しにこんな話をすると思っているのか。意を決して、そして、カメから降りるための話を始める。




