LV7 女神の覚悟、俺の覚悟
初音さんの部屋は店の目と鼻の先だ。大通りから路地を少し入った古そうなアパート群の一室である。俺もここまで来るのは初めてだが。
「ここ。部屋寄ってく?」
初音さんがアパートの前で立ち止まり部屋を指さすと俺の目を見ながら聞いて来たが、今は目を伏せて俺の答えを待っている。
俺も、その目を見て息をのんだ。大きな瞳は、もの言いたげで俺の表情を伺い、間抜けな俺は恐らく、多分、たじろいだのだと思う。いや、たじろいだ。
「………………」
俺と初音さんは無言で立っている。
大通りの車のクラクションだけがやかましく聞こえている。
しまった!おまけに間を開けてしまった。こういうのは即断即決を旨としてきた俺だが大事な時に言い淀んでしまった。
だが、俺にここで即決できるほどの覚悟があったのだろうか?目の前の初音さんの部屋に入ってこの時間に何もないのだろうか?いや、彼女もいい大人なら覚悟を決めたという意味と取っても間違いは無いと思う。
覚悟、覚悟、何の覚悟だ。多分、あれだ、あの力の事。初音さんもきっと同じなのだろう。その力の事も含めて許容できるのか?と言う事に他ならない訳だ。それでも、初音さんは一歩、俺に近づいてくれた。
ならば、俺も---
「今日は遅かったね、無理言って、ごめんね。それじゃあ、おやすみ」
と言って初音さんはアパートの中へと走り去っていった。俺が初音さんを目で追った時には、階段の入り口に消える寸前で俺の答えを待つフェーズでは既に無く、彼女が先に答えを見つけてしまっていた。
ああ、遅かった。
一人、路地に取り残され天を仰ぎ見るが、大きな判断だ。簡単に答えを出すべきではないと思う。
仕方がない。そう思い込んだ。
俺は大通りへと引き返すしかなかった。