LV35 1/9(土) 盛られた
「ねぇ?あなた、私に言う事無い?」
目の前で俺のテーブルに座り、おっぱいをテーブルの上に乗せ、きつめの視線を送り初音さんがそんな事を言ってきた。
俺はクリスマス以来になる初音さんのお店にやって来た。今日は1月の9日土曜日だから、17日ぶり。くらいか。こんなに間を開けたことあったかどうか。そのくらいの久しぶりだ。途中、メッセージのやり取りはしていたが……そもそも、あんたの妹の面倒だか何だか、とにかくいろいろやっていて、礼こそ言われても不遜な態度には猛抗議をしたいところだが、奴らとの、どの程度有効期間が設定されているのか知らないが、語るべからずの誓いがあるので、おとなしくいたぶられることにした。いや、もう、慣れたものです。どうぞ、いたぶってください。
でも、しばらくぶりに見る初音さんは相変わらず可愛いね。
「あら、随分とご無沙汰な……えっと……あ~、その全体から醸し出す貧相なオーラで思い出したわ」
と店先で俺を見て嬉しそうに笑ったのを俯いて隠してから、向き直り言ったのがこれ。通常運転だった。
そして、4人掛けのテーブル席に座りホッケ焼き定食を食べていると、いつもの様にではおかしいのだが、いつもの様に俺の前の席に座り冒頭のセリフをきつめの口調で言ってきた。
初音さんはいつもの黒服ミニスカスーツに身を包みポニーテールであらせられる。こう見ると胡桃ちゃん、やっぱり似てるんだね。
ああ、そうだ、言う事か?いっぱいあるぞ。
あんたの妹たちの事、広州で1ブロック消滅させてきたこと。
どれから話せば気が済むんだ?っていうかなぜそのことを知った?胡桃ちゃんあたりか?良心の呵責に押しつぶされ……るわけないか。彌耶か?
梨花ちゃんとの乱交ならぬ乱行がバレた。とか……とりあえず様子を探りながら。
「あなた、このホッケには我が一族に伝わる毒物を仕込んだわ。白状しないと10分後には死ぬことになるわ。さぁ、洗いざらい。白状することね」
こいつ、食べ物屋で毒を仕込んだとか言ってるよ。それでよくクビにならねぇな。
目の前の初音さんは解毒薬と手書きで書いてある小瓶を俺に見せて、胸の谷間にしまい込んで、顔を赤くして周囲を伺い、いそいそとブラウスのボタンを閉めている。
恥ずかしいならやるなよ。
「え~と、何でも話すから聞きたいことを聞いてくれ、初音さん」
俺は、自分のリスクを最小限にすべく身構える。自分の事は語らず相手に語らせる。どこかの詐欺師が使いそうな手練手管を用いた気になっていると、
「あなた、今度の休みにバーベキューに行くらしいじゃない」
身構える俺の背後から小刀を突っ込んできた。
確かに次の週末に俺は会社のレクで、車で30分のところにある、なんちゃら公園に会社の娘ども数十人とその他数十人で行く事になっていたが、さすがに世界第三位の面積を誇るこの国にいながら生活範囲が狭い俺の話などすぐにでもこの目の前の毒殺魔の耳に届くのには時間は要らないのだろう。いや、情報の出どこは、猛虎さんあたりだろうが……
「行くよ。それがどうしたの?」
「どうしたも、こうしたも、かかしもないわよ。私、誘われてないんですけど」
初音さんが眉を上げて怒っていらっしゃる。あんた仕事だろ。
「仕事じゃないの?」
「仕事よ、それが? ねぇ、そんな事が誘わない理由になるのかしら?」
なるだろ、いや、仕事しろよ。
その事か……ちょっと安心した。
安心したせいもあり、俺は普段なら言わないような。そんな言い方で、大上段から一気に振り下ろしてしまった。
「行きたいの? なら行きたいって言いなよ」
「ねぇ? その言い方……」
俺を上目遣いで一睨みすると、横を向いて小声で、
「……行きたくない」
小さく呟き、うなだれた。
もう知らね。面倒くさい。
ホッケがまずくなる!
と、テレビでしか見たことない昭和のお父さんの如く、テーブルの一つもひっくり返したいところだが……
初音さん、泣いてる……
「はははっははは!」
俺、大爆笑。大の大人がそんな事で泣くか?……
テーブルの目の前で俯いて、そっと涙を拭い小さく肩をすぼめる初音さん。
あ、あれ?初音さん……
このあたりでキレ返ししてくると読んでいた俺は、拍子抜けどころか、遠くから見て見ぬふりをしていた手下の娘共が一転、痛い視線を刺しこんできていることも併せ技に、や、やりすぎた、と……
「ごめん。軽い冗談のつもりだったんだけど。ごめんね」
俺が目の前のうなだれる初音さんに、あわわわわとなりながら詫びを入れると、そっと顔を上げ、
「ちょっと会えなくて、寂しくて、あったら誘ってくれるかと思って楽しみにしてたのに。ぅぅぅぅ」
ヤバい。本気泣きしている。嗚咽を漏らさないように俯いて泣いている。
「ちょっと、泣かないで。ねね、ね?」
俺はだらしなくひきつった顔をしてたと思う。テーブルの上にある彼女の手を必死に握っていた。
「もう時間切れよ……」
初音さんは、俺に呟き、それと同時に俺は目の前がブラックアウトしていった。
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