LV4 女神仕事中
「初音さん。かわいい!」
今、俺は初音さんのお店に来ている。お店の前で出迎えをしていた初音さんの格好を見て挨拶代わりの一言を発したまでだ。
いや、でも実際にかわいい。
目の前の初音さんはいつもの黒服ミニスカスーツからミニスカサンタになっていた。例の清涼飲料水メーカーの色をしたやつだ。
この国でクリスマスが、どの程度かは知らないが、いわゆる乗っかっとけ商売が横行し街中の売り子の娘どもはミニスカサンタに変身させられているのが現状だ。玉石混合だが。
「あら、誰かと思えば、私を幸せにするとかほざいておきながら、その後、一銭も貢いでこない永遠の若手じゃない」
と微笑んでいる。
今のセリフいくつか既に齟齬が生じているぞ。店先だが指摘するべきか……
俺がしばし逡巡していると、腕を取って
「まあ、いいわ。クリスマスに私に会いたくなって来るとは言い心がけね。その調子で励みなさい」
席に案内するために二人で入り口の暖簾をくぐり移動すると、
「いらっしゃいませ~」
初音さんの子分どもが挨拶をしてくる。
おいおい、店の女の子が、がん見してるぞ、初音さん。
そもそも、この店は正業のレストランだからな。ワンサイズ小さめ衣装に身を包むミニスカサンタが嬉しそうに腕に絡まりながら店の中を歩いていれば、そうなるよな。
業態が違くなるぞ。
ていうか
「初音さん、他の子達トナカイなの?」
店の中ですれ違う初音さんに顎でこき使われている子たちは俺が視認する全員が茶色の着ぐるみに角のカチューシャを装着している。
「さすが、気が付いたのね。この店にサンタは私一人で十分なのよ。あはははは」
高らかに宣言した。
初音さんによれば、企画、立案共に初音さんなので自分を目立たせることに主眼を置いての事らしい。まあそんなところだよね。
しかし、初音さん。
ワンサイズ小さいと思われるそのミニスカサンタコス。超ミニスカのうえに全体にはちきれそうだぞ。背中側だけ見ていればむしろ華奢な感じの初音さんの身体だが、胸はえらい事になっている。バックリ胸元が空いていて谷間どころか八合目付近まで露出しているぞ。白色の透き通った肌に浮かぶ血管が妙に生々しい。
どの店向けのサンタ衣装を買ったんだ。
「さぁ、今日は何にするの?」
既に俺のテーブルの前に座りメニューを渡してくれている。今夜は、見たところ、そこそこの入りだが、何故か俺の前でくつろぎ始めた。
「ちょっとこの衣装小さいのよ。失敗したわ。セクシー店舗向けが良くなかったのかしら」
いきなり正解を教えながら、お腹のあたりの生地を脚の方にズリズリしている。ほぼ余裕のない衣装は座る事でさらに酷い事になっているのだが、
顔を上げ俺の方を見てそんな事よりも、と言いたげだ。
「ねぇ? 何で私のメッセージ無視するの?」
初音さんが今夜の本題とばかりに無駄を省いた会話をしてくる。
初音さん。あんたの休みの日のメッセージ酷すぎるぞ。何せ5分おきに“何してる?”って送ってきやがられる。
何もしてねぇよ。仕事だよ。5分おきに物語は生まれねぇよ。そんな短時間で物語を作れたら大作家先生だよ。
「初音さん。5分おきのメッセージは対応しかねます」
「え?もっと短時間でなくてはダメって言うの?そこまで欲しがりなの?さすがの私も引くわよ。あなた、私のこと大好きでしょう」
ふふふふふと妙な笑いを浮かべ俺を見ている初音さん。
あ~やばい。目がやばい。引くのはこっちだわ。
「でもね。楽しいよ。毎日」
すっと真面目な顔してサラッと言ってきた。
初音さんは卑怯だ。時々、こういう事を突っ込んでくる。元から整った美人にこんな言われ方されたら言われているこっちが楽しくなる。
突然、俺にメッセージが届く。
「………………」
妙な間が空いたが
「初音さんごめん。猛虎さんからの呼び出しだ。また、会社に行かないといけなくなった。明日にでも出直してくるね」
俺が申し訳なさそうにしていたので初音さんも”仕方がないわよ“と、言いながら店の外まで送ってくれた。
すまん、初音さん。
俺は心で叫びながら、はす向かいの店に入った。
超不定期更新です。