LV30 彌耶 -みや-
俺は妹二人が一瞬で焦土にした、ところどころ白煙を上げている開発区の1ブロックの中心部、最初の炎撃を放ったと目される場所に向けて歩いている。
上妹をお姫様抱っこし、下妹は背中でおんぶだ。下の妹が靴を脱いで上妹の身体の上に足を投げ出している。どっちもそれほど重くは無いが、心情的にやり切れない。足場が悪いと歩かないのはこいつら一家の教えか何かか?まぁ、これでグランドスラム完成だとでも思えば良いか……
しかし、綺麗さっぱり消えている。ほんとにここにあのビル群があったのか?まあ、ところどころに見える地中の基礎部分の残りが遺跡のように往時をしのばせるには十分だが、それは数千年前の話でも何でもなく数分、もう少し嵩を上げたかったら数百秒前、数万ミリ秒前の出来事なのだ
「妹共、こんな建物も何もない状態で、生きていられるものなのか?」
俺は焦土を歩きながら思う一番の質問をぶつけた。
「おにいは何で生きてるの?」
俺の腕の中で上妹が満足そうな笑みを湛えておれの目を見ながら答えると、
「兄上、我が一族はこの程度では屠れませんぞ!」
耳元で後ろから補足する胡桃ちゃんの話を継いで梨花ちゃんが、
「今回の雷撃はおねえのぶっ放す威力の7倍くらいだから、大丈夫だよ。おねえ比11倍くらいになると難しいかな。11倍は私達にお姉を入れないと出来ないけどね」
おねえ比1倍がわからんわ!東京ドームいくつ分くらいわからん。
「でも……ちょっとやりすぎたかな……」
ちょっと、か?かなりやりすぎた感は否めないぞ。そして、だんだん梨花ちゃんの表情からやべぇと言う表情が見えてきている。
「おにい、私の傍にいて」
俺の両腕に抱かれていた梨花ちゃんが自らの御足で立つと、小声で暗闇の中から目を離さず俺に告げた。隣の胡桃ちゃんは雷刀の刀身を再び現して戦闘に備えている。
「あ……あれ? 梨花ちゃん?」
スマホの灯りを頼りに近づいたそいつは思いもかけず上妹の名前を呼んでいる。
「私よ、梨花ちゃん」
少女の様な甲高い声が真っ暗な焦土に響く。
花火ドーン!
「誰?」
スマホのLEDが眩しいのもそうなのだろうが、梨花ちゃんにはさっぱり声を掛けてきた主に覚えが無いらしい。
「私よ」
「誰よ」
近づくにつれ声の主の全容が見えてきた。
金髪、碧眼、ツインテール。すらっとした、ちびっ子がそこには立っていた。
「あ、あんた、もしかして、彌耶?」
「そう」
「あんた、ここで何してんのよ!」
梨花ちゃんが、怒りの矛先を、そのちびっこに向けて、何とかこのやべぇ状況から逃げ仰せようとしているのが、ありありの感じで伝わってくる。
「私。バイト中」
彌耶とかいう、ちびっ子は事も無げに答えているが、聞いている梨花ちゃんの怒りは収まらず。
「え? バイト中? 何が? なんでバイトで炎撃、撃つのよ。ふざけんじゃないわよ。こっちは死にそうになってんだから!」
普段、笑顔を絶やさない梨花ちゃんが今日はほんとにキレまくっている。そのラスボスが自分の一族である事からなおさらだ。
「だって、合図したら撃ってって花火の余興だからって言われたの」
「余興? いや、そうじゃなくて。私達の誇りをそんな風に金に換えて良いのかって話よ!」
驚いた!梨花ちゃんがこの一日で大人にでもなったのかと思うほどしっかりした事を言い出すしまつだ。俺の想像する緩い上妹、実はそれほど緩くもないのか?
「そういう事か、もともと、銃撃してた奴らは揺動で、ここにくぎ付けにするためにいたのね。それでそいつらが上手い事やられた風にいなくなったところで、彌耶の一撃で私らを始末しようとしたのか……どうりで無駄弾撃つわけね」
梨花ちゃんはフンと鼻で笑って彌耶の前に立つと、
「あんた、私達の先祖が、これまでこの国でどうやって戦ってきたか知らないわけじゃないでしょう? なのに何でこんな自分たちを貶める様な事をするの? 許せないよ。バイト? ふざけないで! あんたこんな事で力を誇示して誰かに利用されて、あんたが狙われる様な事になってら、最後に助けてくれるのはあんたの家族や私達一族しかいないのよ。わからないわけじゃないわよね?」
ちびっ子が梨花ちゃんのご指導に涙目になっている。
「あんた、次にこんな下卑たことしたら、私があんたを消滅させるわよ。私が出来なくても胡桃がやる。胡桃が出来なくても、きっと……必ず、おねえがやる。覚えておきなさい!」
花火ドーン!
梨花ちゃんが彌耶の前、すぐそばで立ち、睨みながら見下ろしている。梨花ちゃんの本気がビンビン伝わってくる。
うなだれて聞いていたちびっ子は消え入りそうな声で、
「ごめんなさい」
俯いて泣きながら謝っている。
「あんた、この事。おねえに報告に行きなよ」
梨花ちゃんがちびっこに凄んでいる。
「それだけは……ごめんなさい、だから……」
ちびっ子が震えあがっているぞ、初音さん。あんた一体どれほどの実力者なんだ。
「彌耶ちゃん何故ここに?」
胡桃ちゃんが、場の空気を変えたくなったのだろう。ふわっと入ってきた。
「今、私ここに住んでるの。大学入ったから。それで、冬休みのバイト始めたの」
「何で炎撃を撃つバイトがあるのよ。もう、その時点でおかしいでしょ」
「だって、ほら」
ポケットからチラシを出してきて、怪訝そうに不機嫌そうに見下ろす梨花ちゃんに手渡した。
“魔法少女募集!!委細面談、最低待機保証有り、完全出来高日払い制、指名チップ全額リータン”
いかがわしいバイトみてえだな。
“有限公司 秘密結社 青い龍”
自分で秘密結社って言ってるぞ。
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