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LV3 契約更新

「初音さん。あんた……何者なんだ」


俺は初音さんのリクエスト通りお姫様抱っこをしながら足元のしっかりしていない元地雷原を歩いている。


目の前にあった二重のフェンスは手前も奥も消し飛んで痕跡すら見えない。赤色灯を灯して近づいていた車もどこかに消え去っている。あれだけの爆風と爆音だ、騒ぎになってもおかしくはないだろう。速やかな撤収が最善だ。


「何者かって?あなた、そんなカテゴライズに何の意味を見ているの?つまらない男ね」


俺の腕の中で、意外に軽い初音さんが俺の首に手を回してため息をついている。


「そうね。それなら、あなた。かしずくならどのジャンルがいいの?姫?女王様?女神?悪役令嬢?これは乗っかり過ぎね。あなたの身体の芯がゾクゾクするパワーワードを選びなさい。私はそれになってあげるから。私のお勧めは、元天使のご令嬢が僕のご子息を喜ばせるので、僕は毎晩寝れません。よ」


「それじゃ、R15におさまんねぇよ……」


何か琴線に触れたのだろう。初音さんは、うふふと笑みを漏らしご満悦だ。


「それじゃあ、もう一つ付け加えて。寝れないので、されるままにしていたら超絶絶倫の---」


「もうやめて。初音さん」


そう?と、まだ言い足りていない様子の初音さんは一転、切れ長のはっきりとした目を俺に向けて真剣に会話を継いできた。


「あなた、そもそも、ここの国に来たのが偶然だとでも?この街に来て私と巡り合ったのが偶然と思っているの?私の勤めるお店に来たのは偶然?そして、この間、私をデートに誘ったのも偶然なのかしら?」


そう言われてみれば、ある日俺の机の上に航空チケットがポロリと置いてあった。上司に聞いても目も合わせることなく、その通り飛行機に乗れと一言だけ言った。不思議には思ったが俺は飛行機に乗った。


あそこのお店に行った理由……日本人が日本食を食べるのは当たり前だと思っていた。でも、何故、タクシーで15分もかかるあの店に……ほかにも選択肢はあったろう。


それに、何故俺はあの瞬間彼女を、初音さんを誘ったんだ?俺はあの日あの時までそんな事を考えてもいなかったのに……


「何を……言っているんだ」


「それを私が全て操っていたとしたらどうする?」


俺の目を真っ直ぐに見て答えを求めている。


「そんな事が出来るのか……」


「出来るわけないじゃない。あはははは」


今日一番のいい笑顔で腹を抱えて爆笑中だ。

このまま捨てていいですか?


地雷原だったところもあと少しで渡り切れそうだ。腕の中で嬉々として与太話に花を咲かせる初音さんを放り投げたい衝動に何度となくさいなまれているが、今は俺の日本人親切論のもとそれを思いとどまらせている。良かったな、初音さん。俺が生真面目な庶民ベース日本人で。


「あなた、この国の民族がいくつに分かれているか知っている?」


「確か56じゃなかったっけ?」


「……そう56。まさかあなたから正解が出るとは思わなかったから少し戸惑っているわ。用意しておいた罵りワードが使えないじゃない」


どんな言葉で罵っていただく予定だったんですか?初音さん。


「その民族数。実はもう一つあるのよ。つまり、57番目。公式には存在しない民族」


「ふ~ん」


「ちょっと、あなたそこは、”な、何だと”ぐらいの事言いなさい。物語の賑やかしでしょ。役目を全うしなさい」


「あ、ああ。うっかりしてた。次は頑張るよ。それで、その57番目がどうしたって?」


「最初に言っておくわ。私は女神。なぜなら、それは私が女神族だから。とても人口の少ない少数民族。だけど、特殊な力をもって生まれてくるから、とても恐れられているのよ。……そして、この国から存在を抹殺された民族。」


「……な、何だと……これでいい?」


「あなた真面目に聞かないんならやめるわよ」


あんただろ。言えって言ったのは。


「私は、村のある谷で暮らしていたの。そこにある日、黒メガネの三人組が来て私を拉致して飛行船に乗せると合言葉を教えろって迫ったわ」


「真面目に話さないなら聞かないぞ。初音さん」


俺は既に、こいつどっから何処まで本気なんだと思っている。

絶対あれが言いたいんだろ。


「バルス!」


「うるせぇよ」


全体に砂浜を歩くよううな足元の不安定な場所を通り抜け、恐らく初音さんのやらかし以前からあったと思われる路面まで歩を進めると、なるほど固い地面は歩きやすく。


しっかりした地面を数歩。歩きやすくなった。


俺の腕の中で笑みを浮かべ俺を見ていた初音さんは、体重を移動して自分から腕を離れ歩き出した。言葉なく前を歩く初音さんが暗闇に浮かぶ、彼方の迎えの車のヘッドライトを見ながら


「ねぇ。さっきの契約の話……無かった事にしてあげるわ。だって……」


前を歩く初音さんが背を向け俯きながら俺に話しかけている。


「怖いわよね。こんな得体の知れない女。みんなそうなのよ。あなたもきっとそう。いつか離れていく。だから、私ずっと壁を見て生きてきたのに。きれいな物もキラキラした物も私には関係ないって。なんで誘ったの?楽しい事を教えてくれるの?ずっと、これからも、私は誰ともかかわらずにそっと生きていくはずだったのに……」


初音さんは俺の方に向き直ると心の奥から振り絞る様に言葉を継いでくる。せつない声が暗闇に響き、自分の顔を手で覆いながら首を何度か振ってあふれてくる気持ちの一部を俺にぶつけると元の様に背を向け歩き出した。


初音さんの歩調が速くなる。

俺との距離を取りたいのだろう。そのまま、俺から離れていくつもりなのか?


でも、俺には悪い癖がある。知っているか初音さん?

……俺の悪い癖……


「初音さん!俺との契約を更新してくれ」


黙って肩を小さくすぼめ早足で歩く初音さんの背中に問いかけると


「更新?」


立ち止まりこちらに振り返ると明らかに驚いた表情を見せている。


「ああ、更新だ。

俺の出す報酬は、あんたを永遠に悲しませない生涯の友となろう。そして、俺が受け取る報酬は、あんたが楽しく笑っている笑顔だ!」


驚いた表情の初音さんが涙を浮かべて俺に駆け寄りその勢いのまま抱き着いてきた。

巨乳が……


耳元でかすれそうな小さな声を振り絞り


「あなたにそんな価値があるとでも思っているの?馬鹿じゃないの……悲しませないって何?どんなことしてくれるの?ねぇ、本当なの?」


「ああ、本当だとも俺は美女にだけは嘘をつかない」


そう言って俺は彼女に優しく口づけ---


「ぃぃぃぃぃ」


全身が硬直している。

ぃしか、言葉が出ない。


「あなた、心は許しても身体は簡単に許さないわよ。電圧は200V。安心しなさい、電流は最小に抑えてあるから心臓までは止まらないわ」


俺はオカシクなっていた。この国に来てから、いや、違う。元々か……

そもそも、そういう傾向があったんだ。


俺の悪い癖。


目の前の正解を選ばない。わざと遠回りをする。明らかに怪しい方を選択する。今回もそうだ。


自称女神の電撃美女との異国ライフ。契約内容は委細明らかにされず。

前回の契約内容も引き継ぐわよ。と、ちゃっかり初音さんが後から付け加えてきた。


正直、俺は今、身体の芯からゾクゾクしている。

電撃をぶっ放す美女とお近づきになって、ましてやこれからどう絡むかを考えただけで楽しくなる。

持って生まれた性分とあきらめるしかないのか。


隣で手を繋いでいる初音さんの笑顔が気のせいか前より楽しそうだ……う~ん。気のせいか。


超不定期更新です。

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