LV0 初音さん3 金曜日
毎日、朝食を食べると、ほどなく俺は歩いて数分の会社まで出かけるのだが、今日は部屋からホテルの門まで初音さんがお見送りをしてくれるらしい。この程度のホテルだ。広さもたいしたものでもないがその気持ちをありがたく頂戴しよう。
「あなた。気を付けてね。今日は早く帰ってきて。一緒にご飯食べましょう。それじゃバイバイ」
俺シスターズが見守る中、これ見よがしに日本語でしゃべり続ける。このまま、日本人で押し通すのか? でも、さっきレストランで北京語でまくし立ててたよね?
俺シスターズには俺は独身だと伝えてあったのだが、今のこの光景はどう映っているのだろうか? 後から検証したい。
昼になると
『寂しいわ。何してる?』
とメッセージをよこす。
さびしくねぇし。仕事中だ。
『今、門の前。入ろうとしたら生意気な守衛がダメだって言うからあなたの名前出したら、そんな奴しらんって。あなたマイナーなのね。総経理の名前出してもいいかしら?』
お前やばい奴だと思われているんだよ。それにこの辺の日本人の間ではあんた有名人なんだから無茶しない事だよ。初音さん。
なだめたりすかしたり時間稼ぎをして終業時間まで俺の遅滞作戦は継続された。
『仕事終わったよ。ご飯食べに行こう。何がいい?』
俺の気持ちに整理が付いたころにメッセージ送ったのは終業後60分ほどしてからだ。
『そう?それじゃ、門の前まで行くから待っててね』
俺が会社の正門で人込みの通りを眺めて10分もすると両手を振って嬉しそうに駆け寄ってくる初音さんを見つけた。
ふ~ん。あんな表情も出来るんだな……
夕闇が間近に迫る週末のドヤ街に、人目を引く美人のいつもと違う表情が、俺に今まで無かった感情を芽生えさせたことを自分で自覚した一瞬だった。
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