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Lv-外-10 朋友

 朋友ポンヨウ、広東語ではパンヤオ。

カタカナ通りに発音しても通じないのは保証します。


意味は、友達、親友。


しかし、この国の朋友のニュアンスはただの友達にあらず。もっと、もっと深い意味が込められている。結構、ヤバい時に使うこのパワーワード。どのくらいヤバいかというと、


「私達……付き合ってるんだよね?」


くらいにヤバい時に使われることがある。

分かりずらいか……


「おい! のび太! 俺達友達だよな!」


と、後ろからジャイアンにヘッドロックを掛けられているくらいのニュアンスで使う事が多い。



それは、俺がこの国に来て数日の事、仕事からホテルに帰ってきた時のこと。


「オカ……エ……リナサイ」


片言で俺に挨拶するホテルのフロントのお嬢さん。見た目普通なこの国のお嬢さん、確か20歳前後。お名前はヤンさん


まだ当時は、俺シスターズも結成していない頃、顔なんて全部同じに見えていたころ、そのヤンさんは、なんとか日本語でコミュニケーションを執ろうと俺に声を掛けてくる。


そんな事が10日も過ぎた頃、


筆談で、


「私、家に帰ります。また、戻って来るけど、しばらく会えなくなるのでご飯を食べに行きましょう!」


とのお誘いが……


朋友ポンヨウでしょう?」


しばし逡巡する俺に、パワーワードを突っ込むヤンさん。


お、おお、友達、友達。


このドヤ街からタクシーで15分ほどの街の中心へと向かう。


「ご飯の前に買い物しましょう!」


ヤンさんに求められるまま、アメリカ資本の大手モールへと行く俺達、筆談もたどたどしく店をまわる俺に、ヤンさんは、


「私、家に帰る時に持っていくバックが無いの……プレゼントして?」


は? 何で?


「だって……私達朋友でしょう」


すました顔で言うヤンさんに、言われるままに結構大き目のスーツケースを買い与える俺。

4,000円相当……結構高いよ、ここの貨幣価値では。


朋友だからね……マジ?


スーツケースガラガラしながら、歩くヤンさんに、


荷物もてや!


言われたので俺が代わりにガラガラ。店を一通り練り歩き、


「これ、この服、可愛いー、こうてぇな、朋友やんか!」


1,000円相当……


ここまで来ると、何だこいつと思いながらも、親切日本人代表の俺は造り笑顔で買い与え、ヤンさんの求めるまま、すぐそばの日本料理レストランへ、


「いらっしゃいませ、お二人様ですか? こちらへどうぞ」


日本語の上手な黒服美人が受付に立っていて、俺達とガラガラを4人掛けのテーブル席へと案内した。


「メニューです。お決まりになりましたらお呼びください。こちらでお荷物お預かりしましょうか?」


「お願します。日本語お上手ですね。日本の方ですか?」


その女性は少し笑みを浮かべ、


「ありがとうございます。日本語は勉強したもので、日本人ではありません……失礼します」


一礼すると奥へと消えていった。


ああ、そう言えば、この店、この国に来たばっかの頃、二週間ぐらい前、猛虎さんに連れられてきた店かもしれないな……

店内の内装、日本家屋の様な造りで個室は障子で仕切られて、さっきの黒服の美人もそう言えば見たことある様な……


運ばれたホッケ焼き定食とヤンさんがオムライスを食べ終わるころ、ヤンさんに携帯貸してと言われたので、俺は携帯を貸して続きを食べていると10分位してから、ヤンさんは、


「ごめん! 急用出来た! 先帰るね。ごめん」


的な事を言ったように思うが、その辺は曖昧……ガラガラを押して足早に店から出て行った。


俺は、ホッケの解剖を続け、ご飯を食べ続けていると、4人掛けのさっきまでヤンさんが座っていた席に、この店の入り口で最初に対応してくれた黒服美人がやおら座り、俺を見つめ、


「あなた、人が良いのもいい加減にしなさい。あの子、あなたから取れるだけ取って田舎に帰ってドロンする気よ」


ドロンって……その人は俺の前の席に座り、両腕をテーブルに置いて、その上に巨乳を鎮座させ、きつめの視線を俺に送り、


「あなた、ここでは取れる奴から採り尽くすような輩もいるのよ。


ここは、そういう国なの。


あなたの育った温室とは違うのよ。気が付いたら、身体をバラ売りにされて、部品にされて売られるような事になるわよ。今日の事は良い勉強になったくらいで、よく覚えておくことね。嘘だと思うのなら、あの子、戻ってなんか来ないわよ。それが何よりの証明よ」


言いたい事を言ってその人は席を立つとそのまま入り口で客を待って良い笑顔で挨拶をしていた。


黒服美人が言った通り、燕さんは帰ってこなかった。空には燕が舞飛んでいたが帰ってくることは無かった。


「あははは! そんな事もあったわね。旦那ちゃん、あんまり可哀そうだったから、私も余計な事とは思ったけど言ったわよ、あれほど気持ちよく引っかかるカモも少ないんじゃない? あの子大喜びで電話で成果を自慢していたからね。あの子に言っても無駄だと思ったし、どうせなら、この先、ここで生きていく方に注意したのが良いと思ったのよ」


リビングの椅子に座りクマちゃんカップで今日も茶色の液体を啜る初音さんが良い笑顔で俺を見ている。


「でもさ、今は旦那ちゃんもなかなか引っかからなくなったよね。時々、私を欺くときあるからさ、凄い凄い、立派なものよ」


笑顔だった初音さんが俺をまっすぐに見つめ言う。


「朋友なんてのは、ほんとの友達には使わないわ。大抵は、自分の要求をのませるために使う呪いの言葉よ。便利な言葉には注意しないといけないわ」


俺のこの国での最初の頃の話だ。


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