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LV1 深圳撤退戦

異世界ならぬ異国に搭乗チケット一枚で召喚された日本の中小企業サラリーマン。

永遠の若手の俺。


ここで知り合った日本食レストランの接客適当美人部長の初音さんと深圳に遊びに行ったのが全ての始まりだった。


街中に入るのに必要な身分証を持っていない初音さんは得意の日本語を駆使し日本人になり切るも、寸でのところで公安に看破される。


咄嗟に初音さんがとった行動は逃走だ。


俺達は近くの電脳城へと身を隠し、公安の手から辛くも逃れることが出来たが、帰りのルートがままならない。


そんな俺の心配をよそに初音さんは何処から連れてきたか知らないが、見かけは普通のおじさん、運び屋ジョーを伴ってきた。


運び屋ジョーに深圳の街境まで運ばれた俺たちがやって来た場所、そこは二重のフェンスで囲われた地雷原だった。

「初音さん。なんか言ってるよ」


運び屋ジョーは暗闇の真っただ中に愛車の白いレクサスを止めると俺たちに車から下りるように促した。

初音さんは運び屋ジョーが大通りから脇道に逸れ、さらに道が未舗装路のガタガタ道になったあたりから俺の膝枕でジョーの支給した黒いビニル袋へとさっき遊園地で食べたエビチリか何かをお戻しされていた。


「要小心,因为它是雷区。一路平安!」


そう言うとジョーは暗闇の彼方へと俺たちを置いて走り去った。


「初音さん、何って言ったの?」


「ふん、だから、広東人は嫌いよ。あいつら基本的に北の人間を馬鹿にしているのよ」


相変わらずの不遜な態度を見せながら、脚をスッと伸ばし、ミニスカワンピにナイスバディを強調させた初音さんがレクサスのテールランプを目で追っていた。


「迎えが来たら向こうから合図が来るわ。そしたら一気に駆け抜けるのよ」


おいおい、その言い方!

なんか穏やかじゃないぞ。

しかも、何て言ったかには答えてねえじゃねえか。


周囲は闇だ。遠くに街の明かりが見える。ごく小さく車のヘッドライトと思われるが、灯りが時々移動しているのが見えている。


それでも、人間は良くできたもので数分もするとそれなりに見易いものは見えてくるものなのだ

俺の前面にはフェンスがあったのか……フェンスは目立つ塗装がされていた。その恩恵を受けたと言ったところか。


「初音さん。これフェンス?」


「フェンスよ。それがどうしたの?私たちはここをこれから、突破するのよ」


「突破って……」


突破ってそんな簡単に言っているがそもそも、真っ暗でなんも見えねぇぞ。

だめだ、俺は目を凝らして集中する。


お!なんか見えてきた。もう一段フェンスが見えてきた。二重になっているのか?

二重じゃねぇか!!


ふと俺が掴んでいたフェンスの胸元あたりを見ると


“禁止进入 雷区“


なる看板が。


「前半は侵入禁止だよな。雷区、雷区?ってなに」


「え?ああ。それ」


腕に手を組んで巨乳を載せて右手を顎にあてながら、目を一度伏せて何か心に決めたような表情で俺をみて会話を継いできた。


「あなた、今まで運が良い方?悪い方?良いと思うなら、最初に行かせてあげる。悪いと思うなら最初に行かせてあげる」


「どっちも最初じゃねぇか!」


「それと、あなたの質問。あなたに分かるように言うならば地雷よ。今から私達は地雷原を突破するのよ。はははははは」


急に狂ったように高らかと笑いだす初音さんを背後に感じながら、目測300m幅程の原野を遠い眼で見た俺だ。地雷原とやらは草に覆われてとてもじゃないが普通に歩くのも難儀しそうなのだ。


「ははは。じゃねぇよ。」


「ここ深圳は東を香港との国境、南を海、そして、西と北の街境には地雷原で周囲を囲まれているのよ。ちなみに香港との国境の運河には人喰いワニが放してあるわ。だから、私達みたいに正規のルートを通れないものはこの地雷原を通るしかないの」


「私達じゃねぇだろ。あんただけだよ」


「過ぎたことをいつまでもしつこい男ね。見なさい、このフェンス。これをよじ登ると監視カメラで見られているからすぐに軍の奴らが駆けつけてくるわ。万が一」


「万が一ってなんだ」


「言葉の綾よ。万が一このフェンスを無事に通れたとしても」


「通れてねえじゃねえかよ」


「黙って聞きなさい。奥のフェンスには高電圧、高電流が流れているから触ったら真っ黒こげよ。うふふ」


「笑うところがずれてるぞ。初音さん」


「あら、談笑していたらお迎えが来たようね」


初音さんの指の先のかなたには懐中電灯の明かりが見えていた。懐中電灯の明かりが点滅を繰り返す。


「ニイタカヤマノボレ1930。作戦開始の暗号が来たわ」


「何で真珠湾……」


「作戦開始まであと5分あるわ。聞いておくんだけどあなた、死にたくない?」


「遊園地に遊びに来て生き死にの話する奴がいるのか?」


「そう?そうね。普通そうよね。なら、あなた私と契約しなさい」


「契約?何の契約?」


「まず、ここの地雷原を安全に渡れるというのがあなたが受け取る報酬よ」


「それで?俺は何をすればいいんだ?」


「あなた、保険の契約でそんな細かいところまで見るの?大抵何が支払われるかだけでしょう?それと同じよ。する?しない?それに時間ももうなさそうね」


初音さんが指を差す地平に赤色灯が近づいているのが見えた。


「監視カメラで気付いたのよ。さあ、どうする?」


まあ、大した話にはならないだろう。初音さんの事だ、近くに通れる道がありますよ、みたいなオチだろうと俺は考えて


「OKだ。頼む」


おれは右手でサムズアップして決め顔で答えた。暗くて見えたか知らんが。


「手を取って」


初音さんは掌をみせて俺の前に出してきた。言われた通り繋ぐと


「誰が恋人繋ぎしろって言った?まぁいいいわ」


そんな事を言って


「古の盟約により受諾せよ。我としもべの約を契らん」


初音さんの身体が徐々に青白く発光し始める。


「ちょちょちょちょちょちょ。ナニコレ?」


「これで、あなたとの契約は正式なものになったわ。あなたには私の加護がもたらされるの。さあ、下がってなさい。手荒くいくわよ!」


手を離し俺を後ろに下がらせた初音さんは深呼吸を一つして、肩幅に足を広げ巨乳の前に腕を差し出すと、


「天空の盟主。ティンワンよ。古の契約を執行する時が来た。天空のキュウシをもって我に答えよ」


初音さんが掌あたりに向かって静かに語りかけるように唱えていた。やたらと透き通った声で。


風だ。何処からともなく風が初音さんを中心に吹き出した。それはミニスカワンピの裾が揺れていることからもはっきりわかった。


全身を青白く光らせながら周囲に光の粒が生じてきた。やがて、粒は球形となり初音さんの差し出した掌の上に集まり、風はますます強くなる。ミニスカワンピからピンクのパンツがのぞくほど裾を大きくはためかせている。


発光と風が目を開けている事が困難になるぐらい強くなった。それが、数秒続くと、一転、初音さんの全身の発光と風が完全に止んだ。


静寂が訪れる。赤色灯も随分と近くに近づいてきていた。


掌には光球が浮いている。野球のボールくらいの大きさだ。

それを初音さんは軽く上に放ると何かの力が働いたのか風を大きく切り裂く音を出しながら、一気に上空へと舞い上がっていった。


今まで背を見せていた初音さんが俺の方に向き直り、歩み寄ると、俺を抱きしめ右手を上げ、


「打雷!!」


大声で唱えた。


何かが上空で破裂する音がした。おそらくあの火球か。

刹那、目の前に太陽が生じたかと思うほどの光が現れ、地雷原めがけ地を割る衝撃と空気を引き裂く高い音が聞こえ、その瞬間俺たちの周囲を爆風が襲ってきた。連続した爆発音が聞こえる。地雷なのか?誘爆を起こしているらしい。


「…………」


爆発は止んだが、砂塵で視界が効かなくなった。耳鳴りも凄い。瞬時に視力と聴力を奪われた。

どのくらいの時間がたったのだろう。恐らく、2,3分か。


俺の耳鳴りが収まり、遠くの街の喧騒が戻ってきた。その後にホワイトアウトしていた視力がうっすらとだが目の前の闇と遠くのヘッドライトを認識できるまでに戻ってきた。


「……」


視力の戻った俺は言葉を失った。

目の前のフェンスが跡かたなく消し飛んで、草に覆われていた300m幅の地雷原が大きくえぐれて、もはや跡かなどなく、もっと言えば小型の隕石でも落ちてきたのかと思う様なクレータを出現させていた。


俺は抱き合って初音さんの巨乳を味わっていたのだが、初音さんが俺から離れて


「さぁ、行きましょう。私、ハイヒールなの。とても歩けそうもないわ。お姫様抱っこで連れて行きなさい」


既に両手を俺に差し出して微笑んでいる。俺たちの周りだけ爆風も熱風も閃光も何も無かったかのように依然のままそこにあった。これが、初音さんが俺を抱きしめていた理由なのか……


「……初音さんこれは一体……」


「あ?ああ。これ?私の力のほんのさわりよ。さあ、行くわよ。これから長い付き合いになるのだから」


クレータを見つめる整った顔立ちから笑みがこぼれていた。


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