5年後の私たち(マリア&アーサー)
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わたくしの名前はマリア。
この国の王太子殿下、アーサー様の妃です。
殿下に嫁いでもう5年の歳月が経ちました。
私たちの間には、姫と産まれたばかりの王子がいます。
側から見れば幸せに見えるでしょう。
2人の子をもうけ、夫婦仲も良好の次期国王と王妃に。
男爵家に産まれた私が、王太子殿下に嫁ぐなど叶わぬ夢だと思っていました。
しかし殿下は成し遂げたのです。エミリア様と言う、殿下の初恋であり、最愛の方を使って。
エミリア様は完璧な淑女と、この国の貴族であれば誰もが知っているお美しい公爵家のお嬢様です。
私も殿下のお相手はエミリア様しかいないと思っていましたし、なかなか婚約発表がされない事が不思議でなりませんでした。
そんなある日、私は川のほとりで本を読んでいました。しばらくすると馬の蹄の音がしてきました。振り返ってみると、馬の上にはこの世にこんな方がいらっしゃるのかと思われる、素敵な王子様がいらっしゃったのです。
男爵家の娘である私には到底手の届かない、高貴な方だと一目で分かりましたから、話しかけられても普通に話す事ができました。自分の印象を良くした所でお目に叶う確率などないのですから。
馬を休憩させてる間、色々な話をしました。
でも王子様は自分の話より、私の話を聞きたがりました。
でも一つだけ仰った事があります。
「1番手に入れたいものを諦めるのは辛いね。
自分に手に入れる力があっても、それを使おうと思えない。使ってはいけないのだ」
これはエミリア様の事だと気付くのは先の事でしたが、この言葉がいまだに私から離れません。
殿下は自分の幸せより、エミリア様の幸せを願われたのでしょう。
エミリア様には大好きな方がいらっしゃいましたから。
それから何度となくこの川のほとりでお会いして、お話をしていたある日、この方がこの国の王太子殿下だと知りました。
そして私と結婚したいと仰ったのです。
殿下がわたしと
男爵家の私が王太子妃になどなれるはずはない
まず、なぜ殿下がこのような所に1人で来られていたのか?
そもそもなぜ私なのか?
もう混乱しました。
でも我が男爵家には、殿下の意見に逆らう事など出来ません。
それからはエミリア様を紹介していただき、王家主催の夜会で認められ、今に至ります。
いまでもきっと殿下の中にはエミリア様が住み着いているのだと思います。
初恋の方なのですから…
それを問いただそうとも思いません。
私もエミリア様が大好きです。
※※※
マリアと結婚して5年、姫と王子にも恵まれ、次期国王になるべく全てのことに勤しみ、頑張っていると自負できる。
私は次期国王、今は王太子であるアーサー。
私には初恋の相手がいる。それはエミリア。
今、私の側で近衛騎士として仕えているウルフの奥方だ。
エミリアを初めてみた時も、エミリアはウルフにまとわり付いていた。
ルバン公爵家の娘で、私のお妃候補の筆頭だと紹介された時の彼女の顔は完璧な淑女と言われる、笑顔を張り付けていた。
ウルフに見せていた、屈託ない、無邪気な笑顔ではない。社交的な笑み。
王太子である私への謁見の場なのだから、その笑顔が正しい事は分かっている。でもその瞬間、私の中で何かが崩れ落ちた。
エミリアは手に入らない、手に入れてはいけないのだと。
そう思っていても、どうしても目で追ってしまう。初恋とは厄介なものだ。
城を抜け出し、馬で遠乗りに出掛けた時にマリアに出会った。
初めは馬を休憩させている間の暇つぶしに相手になってもらっていた。
マリアは私が名乗らなかったのもあるが、媚びをうる他の令嬢と違い、普通に接してくれる。そんな彼女に好感を持った。
それから幾度となく城を抜け出した。
マリアは好きな男性はいないと言った。
ならば私がもらってしまっても良いのではないか?
そんな時、ウルフが女性と一緒にいる所を見かけた。
仕事一筋の男が珍しい事もあるものだと思った時、私の目に悲しそうに2人を見つめているエミリアの姿が入ってきた。
エミリアは、今では初恋の相手だった女性でしかない。
私にはマリアがいる。マリアを手に入れる為に、エミリアに協力してもらおう。
その時、私がずっと嫉妬し続け、エミリアの気持ちに全く気付かない鈍感男、ウルフを懲らしめてやろうと言う気持ちがなかった訳ではない。
エミリアの協力があり、私はマリアを手に入れる事ができた。
夜会の後、どこでどうなったのか、ウルフとエミリアも気持ちを通わせたようだ。
丸く収まって良かったと思う。
だが、マリアは私がまだエミリアを忘れていないと思っている節がある。
私の愛に偽りはない。いつか分かってくれる時がくるであろう。
お読みいただきありがとうございます。
第4部で一度完結させましたが、私自身が不完全燃焼でした。
アーサーとマリアの出会い部分を書いたらスッキリするかな?と付け足してみました。