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マリア様と初めてお会いしたのはアーサー殿下とお話をしてから数日後、ルバン公爵家の庭園でだった。
マリア様はビクビクとした感じで現れた。公爵令嬢に突然呼び出されたのだ。理由は分かっていても、ビクビクするものだろう。
「マリア男爵令嬢様でいらっしゃいますわね。私がエミリアでございます。アーサー殿下よりお話は伺っております。よろしくお願いしますね」
「マリアでございます。エミリア様には大変ご迷惑をお掛けいたします。でも…あの…わたくし…」
「何かお困りですか?私で良ければお伺いいたしますけど」
と微笑んでみる。今日からお友達関係を築き上げ、アーサー殿下と婚約して頂くのだ。お友達になるにはまずはお話をしなければと思い声を掛けてみる。
「ありがとうございます。私、殿下の事はとても素敵な方だと思っています。それに殿下からも…」
ここでポッと頬を赤らめるあたり、とても可愛らしい。そうマリア様はとても可愛らしいのだ。全てが小柄で、とても可愛らしい。もう守ってあげたくなる可愛らしさ。
あっ、私も美しいのですよ。なんと言っても興味はないですが、アーサー殿下のお妃候補の筆頭ですから、容姿も整って、完璧な淑女なのです。
「それに殿下からも…是非我が妃にと言って頂き、とても光栄に思っております。
でも我が家は男爵家です。父もそんな畏れ多い事を!と申しておりますし、私も王太子妃になどなれる訳もなくて。ですからお断りしたいのですが、お断りなんてできるはずもなく…どうかエミリア様、お助けくださいませ」
と涙ながらにお願いされてしまいました。
う〜ん、私は失恋したところなんですよね。思い人から思われている。なんて素晴らしい事なのだろう。それなのに贅沢な!
「マリア様は殿下の事を思われているのですよね?でしたら殿下の為に頑張ってみませんか?殿下もマリア様をお妃にしたいと、それはそれは必死でございましたのよ。
それに、好きな方が自分の事を好きでいてくださるなんて奇跡ですわ!そのような方が現れた事を手放してしまうのですか?やれるだけやってみましょうよ」
と思わず力が入り、熱弁してしまいました。
「エミリア様…できるでしょうか?でも私、殿下を忘れるなんてできません」
しばらく考えてマリア様はハッキリと仰いました。
「やれるだけやってみます」
そして王太子妃教育が始まったのです。
私も王太子妃になるかもしれないと言う程度の教育しか受けていないので、それほどたいした事もできませんが、やれるだけはやってみます。
※※※
マリア様とは気が合ってすぐにお友達になりました。マリア様と楽しくお茶をしたり、お勉強したり、お茶をしたり…
お茶をしながらのお話がとても多いのですが、楽しく過ごしていたある日、アーサー殿下から王宮でのお茶会のお誘いのお手紙を頂きました。
それまでも毎日のように私へお手紙が届けられていたのですがね。そうそうお花を一緒に届けられた事もありましたっけ。
内容はマリア様の事がほとんどで、陛下へはなんでも何度も何度もマリア様への想いを伝えに行ってるのだとか。陛下もお暇ではないだろうに。
私へのお手紙はついでで、同封されているマリア様へのお手紙がメインです。
そしてもちろんマリア様もお返事を書いて私に託すものだから、殿下と私はあつ〜い目で見られています。
違うんだけどなー。
私との事が噂になって、殿下は困らないのでしょうか?収拾は付けてくださるのかしら?
ウルフ様との事を諦めた私は、もうどうなってもよいのですが、殿下とマリア様が本当にうまくいくのか、それだけが気がかりです。
※※※
そして王宮へ行く日になりました。
マリア様はピンクのドレスに身を包み、とても可憐な妖精のようなお姿です。
私はシルバーのドレスにしました。まだ悲しみが癒えていませんから、派手な色や可愛らしい色のドレスで王宮へ行くのは少し気持ち的に追いつきませんでした。
王宮の庭園に到着するや否や殿下は足早に私たちの元へやってきました。もうマリア様しか見えていないのはあからさまですが、ハッと気付いたのか私に向かって
「エミリア、お友達を連れてきたんだね。さぁ、あちらにお茶の準備をしているから行こうか」
と、私の腰に手を当ててテーブルへと向かいます。
もちろんマリア様もご存知の事なので、ニコニコと私たちの後ろをついて来られます。
側から見たら、殿下は私を大切にしているようにみえるでしょう。これで良いのです。
紅茶と美味しいケーキを頂き、お邪魔だよねーと思いつつ、離席する事もできず、ニコニコと相槌を打ちながら庭園に目をやると、そこには近衛騎士の制服を着たウルフ様の姿が!ウルフ様は任務中だから、真っ直ぐに視線をむけているので、私と視線が合う事はありません。でも私はウルフ様から目が離せませんでした。
ますます素敵になってる。
そうだった、ウルフ様はアーサー殿下付きの近衛騎士になる人だった。失恋の辛さに失念していただなんて。
殿下の偽想い人の間は、いやでもウルフ様を目にすることになるのだ。早くこのお役目を終えたい。
「エミリア、聞いてる?エミリア」
殿下からお声がかかっていました。
「エミリア、どうしたの?さっきからボーっとしてるけど。気になる事でもあった?」
「いえ、申し訳ありません。王宮の庭園がとても素敵で、見惚れておりましたわ」
「そっか。ここは母上の大好きな庭園なんだよ。私の妃になったら、この庭園で毎日お散歩できるね」
と最後の辺りはマリア様へ向かって仰ってます。
とにかく早く陛下から、婚約の承諾を取って来てくださいと願わずにいれません。
すると突然殿下から
「エミリア、半年後にある王家主催の夜会には必ず出てくれるね」
と言われました。
あー、この夜会でハッキリさせるつもりなんだな!と分かり
「もちろんですわ、殿下!楽しみにしています。やっとですのね」
と思わず大声で言ってしまいました。
次話はウルフ目線を書きたいと思います。
お付き合い頂けたら嬉しいです。