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初投稿です。
「ウルフさま〜」
私はパタパタとウルフ様に駆け寄るが、ウルフ様はいつも通りの冷たい視線を私に向けるだけだ。でもそれで構わない。いつもの通常運転。そして今日が最後なのだから。
「ウルフさま、今までご迷惑をお掛けしました。もうこれからはこの様な事は致しませんので」
そう伝えると、完璧な淑女と言われる微笑みを浮かべた。今までの私はどちらかと言うと無邪気な笑顔をウルフ様へは向けていたが、今日は完璧な淑女なのだ。
※※※
私の名前はエミリア。ルバン公爵家の長女。
ルバン公爵家は王家に忠誠を誓い、この国では1・2を争う家柄だ。
私は産まれた時から、この国の王太子に嫁ぐ可能性のある娘と育てられてきたのだ。あくまで可能性だが。その為に物心つく頃から、王太子妃になっても恥ずかしくない様に教育を受けてきた。私自身、その教育を嫌だと思った事はない。むしろ大歓迎だった。それ故に完璧な淑女と言われるまでになったのだ。
王太子殿下の事は正直言ってあまり興味がない。会えばお話はする。でもそれだけの関係。
殿下のお名前はアーサー様。それはそれはお美しいお顔をしていらっしゃる。微笑みを浮かべれば、女性はみな頬を染めるほどのお顔だ。そんなアーサー殿下のお妃の座に着こうと狙っているご令嬢は星の数ほどいる。こう言ってはなんだが、私が殿下に相応しいご令嬢の筆頭なのだから、私が側にいれば婚約もそろそろなのでは?と噂になる。それでは殿下にご迷惑をお掛けする。だからあまり近付きたくない。
だって私には大好きな人がいるから…
私の大好きな人。そうウルフ様。
ウルフ様は代々王家の近衛騎士を輩出している侯爵家の嫡男。初めてお会いしたのは私が12歳の時だった。
どこで会ったのかすら覚えていない。
ウルフ様を見た瞬間、そこだけがキラキラと輝いていた。その時はどこのどなたかも知らなかった。ただそこに居る男の子を見つめることしかできなかった。
アルデン侯爵家の嫡男、ウルフ様だと知ったのはしばらく経ってからだった。そしてウルフ様がアーサー殿下の近衛騎士になるべく鍛錬されている事もその時に知った。
そして私はウルフ様を見かけると少しでも私を見て欲しくて「ウルフさま〜」と駆け寄ってしまう。5年もの間それを続けていたのだから、今考えたら迷惑だったと思う。でも私にすこしでも興味を持って欲しかった。叶わなかったけれど。
17歳。本来なら婚約者がいておかしくない年齢。いや、いない方がおかしいのかもしれない。
でも私はもしかしたら王太子妃になるかもしれないとの理由から、婚約者はいなかった。もしかしたらウルフ様と!なんて淡い期待も持っていた。でも殿下に婚約者が現れない限り、私は婚約出来ないのだろうと漠然と思っていたし、ウルフ様以外の方に嫁ぐぐらいなら一生独身でも良いと思っていた。
あの日、ウルフ様が女性と一緒にいるのを見るまでは…
冒頭のウルフ様へのお別れの言葉。それは数日前に遡る。
アーサー殿下に突然呼び出しを受けたのだ。
「エミリア、完璧な淑女の君にお願いがある。私は運命の女性を見つけたのだが、男爵家の娘なのだ。
男爵家の娘が王太子に嫁ぐ事ができないわけではない。しかし…父上に申し上げたところ、反対だと言われてしまってな。
もちろん礼儀作法はなんら心配はない。しかし王家へ嫁ぐにはなかなか難しい話でな。」
何が言いたいのだ⁇前置きが長い。ようは私にお妃教育をして欲しいと言う事だろうか?
陛下が反対したと言う事は、王家の教育係にお願いするのは難しいのだろう。
「殿下、殿下にそのようなお相手が現れた事、心よりお祝い申し上げます。しかしそれで私にお願いとは⁇
いえ、失礼を承知で申し上げますが、殿下は回りくどいですわ。私に教育係をして欲しいとの事でございますね」
「!話が早い。そう、そうだ。それともう一つ…私の婚約者ではないか…私の想い人ではないか…と思われるフリをして欲しい」
「えっ!!」
唖然としてしまった。
殿下にはマリア様と言う想い人がいる。しかし男爵家のマリア様と会う事はできない。公爵家の私であれば、王宮に行く事はおかしい事ではない。私にマリア様を連れて殿下に会いにきて欲しいとの事だ。そしてマリア様とお友達になり、王太子妃に相応しい教育をして欲しいと。
なんて自分勝手な!でも殿下の気持ちは痛いほど分かる。恋は盲目なのだ。そして私は失恋したところで、殿下に対しては全く恋心はない。失恋を忘れる為にも良いのではないかと思い
「分かりました。どこまでお力になれるか分かりませんが、殿下に協力致します」
と答えていた。
この時、ウルフ様がアーサー殿下の近衛騎士になる為に、今現在見習いで殿下におつかえしているとは知らなかったのだ。
お話を書いてみたくて、思い切って投稿しました。
数話で終わる予定です。よろしくお願いします。