2秒間、宙に浮ける男
燦々と陽が射す穏やかな日曜日。幅3メートルといった住宅街の道を、俺は彼女と手を繋ぎ、歩きながらにとある告白をした。
「実はさ……」
「何?」
「俺、2秒間だけ宙に浮く事だ出来るんだ」
「……えっ?」
唐突な告白に彼女は足を留め、驚いた様子で以って俺の顔をジッと見つめた。
「俺、2秒間だけ宙に浮く事だ出来るんだ」
「えっと……」
「俺、2秒間だけ宙に浮く事だ出来るんだ」
「それ、マジでいってんの? 2秒間だけ宙に浮けるって……浮けるにしても2秒って短くない? それとも滞空時間の長いジャンプが出来るって意味?」
「いや、文字通り浮くんだよ」
「はあ? あ、でもそれを連続ですればずっと宙に浮いてられるって事? だとしたら凄い事……かな?」
彼女は小馬鹿にしたような眼で以って見つめた。
「いや、それは出来ない」
「あっそ……。まあ、でも便利……な時もありそうな。とりあえずちょっと浮いて見せてよ」
吐く息も白く、今にも雪が降り出しそうな昨年の冬、爺ちゃんが亡くなった。その爺ちゃんの遺品整理をしている時、俺宛の手紙を見つけた。
『お前には2秒間だけ宙に浮く事が出来る能力がある。だがそれを使えるのは一生に一度だけだ。だから注意してここぞという時に使え。爺ちゃんはこの話を爺ちゃんの爺ちゃんから聞いた。その時は冗談かと思ってその場で試してしまった。それは本当だったがそれ以降使えなくなった。だから注意しろよ』
そんな事が書いてあった。いわゆる隔世遺伝の能力。「何言ってんだ爺ちゃんは」と、俺は半信半疑ながらにその場で試した。そしてそれは本当だった。立っている時に足に力が入らなくなるあの感覚。2秒間だけではあったが確かに浮いていた。高さにして30センチ程ではあったが浮いていた。引力重力を感じるものの確かに浮いていた。そして2秒後、ストンと地面に降り立った。
「いや、それは一生に一度しか使えない能力で既に使ってしまった」
「いやいや、それを私に話してどうするつもりだったの? それを信じれるとでも思うの?」
「確かに……信じれないよな……」
「だよね……」
彼女は苦笑いする。どうやらつまらない冗談と受け止められたようだ。まあそうだろう。もう使えない能力だし……。とりあえず本当の話である事に間違いはない。俺も爺ちゃんを真似て、いつか俺に孫が生まれた時にはこの事を伝えよう。
2020年02月24日 初版