2秒先の未来から来た男
燦々と陽が射す穏やかな日曜日。幅4メートルといった住宅街の道を、俺は彼女と手を繋ぎ、歩きながらにとある告白をした。
「実はさ……」
「何?」
「俺、2秒先の未来から来たんだ」
「……えっ?」
唐突な告白に彼女は足を留め、驚いた様子で以って俺の顔をジッと見つめた。
「2秒先の未来から来たんだ」
「えっと……」
「2秒先の未来から来たんだ」
「それ、マジでいってんの? 2秒先の未来って……つうか今時点は私と同じ時間を生きてるし、私が知らない何らかの未来を知っている訳でも無いんでしょ?」
彼女は小馬鹿にしたような眼で以って見つめた。
「そうだね。2秒なんてアっという間だからね。だから瞬間的と言える程の未来から来た……だから未来の事は全く知らない」
「それ意味無いよね? あ、それって2秒間過去へ遡れるって事だよね。だったらそれを連続で繰り返せば結構な時間、過去に遡れるって事? ひょっとして戦国時代とかを見れちゃうとか?」
桜舞い散る昨年の春、爺ちゃんが亡くなった。その爺ちゃんの遺品整理をしている時、俺宛の手紙を見つけた。
『お前には2秒間だけ過去に戻れる能力がある。だがそれを使えるのは一生に一度だけだ。だから注意してここぞという時に使え。爺ちゃんはこの話を爺ちゃんの爺ちゃんから聞いた。その時は冗談かと思ってその場で試してしまった。それは本当だったがそれ以降使えなくなった。だから注意しろよ』
そんな事が書いてあった。いわゆる隔世遺伝の能力。「何言ってんだ爺ちゃんは」と、俺は半信半疑ながらにその場で試した。だがそれが本当かどうかは分からなかった。試した2秒前と2秒後とで何か違う事をしていた訳でも無く、違う場所にいた訳でも無い。故にそれが本当かどうかは一切分からなかった。だが爺ちゃんがわざわざ手紙に書いてまで残していた事でもある訳で、それが嘘とも思えない。
「残念ながらその能力は一生に一度しか使えない物でさ、既に使ってしまった」
「全く意味無くない?」
「確かに……意味は無いな……」
「だよね……」
彼女は苦笑いする。どうやらつまらない冗談と受け止められたようだ。まあそうだろう。もう使えない能力だし、そもそも俺自身本当に2秒過去へ戻ったのかも分からない。まあ、爺ちゃんの言葉を信じて、いつか俺に孫という存在が生まれたのなら、この事を笑い話として伝えてみるか。
2020年02月24日 初版