エピローグ
便箋には、希望通り整形外科に入局したこと、同僚の循環器医師と結婚する旨が記載されていた。
癖のある右上がりの字が、彼女本人だということを現している。
「『写真、お返しします』か、別に捨てて良かったけど。旦那さんが気にするのかな」
写真は、先輩が引退する際に撮ってもらったツーショット写真だった。
「まだ持ってたんだな」
苦笑いが出てきた。
どこまでも心を抉られる。
自分は彼女の邪魔にしかなっていなかった筈なのに。
写真を破ろうかと手に掛けた時、たまたま裏の白い面が目に留まる。
文字が見えた。
掠れた字と、消されかけの字が並んでいる。
「祐介くんと一緒に過ごせて幸せ」
昔の字のようだった。
消されかけの字にも目をやる。どうやら、こちらの方が実際に新しい文字のようだ。小さくて、眼を凝らさないと読めない。
「『誰でも良いわけじゃない。家族が支えにならなかったあの時、貴方を好きでなかったら、優しい貴方でなかったら、ここまでこれませんでした』……」
「『本当に、ありがとう』」
写真を胸に、彼女の優しさに、俺はひとしきり泣いたのだった。
そのまま写真を封にしまった。
空にはちょうど、あの時のように朧気な弓張り月がかかっていた。
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初短編なので、色々とご指摘・御指導いただけましたら幸いです。