高校2年冬
秋になった。
あの夏の出来事以来、彼女は俺の部屋によく来るようになった。
美人で有名な先輩を、自分の手に入れたつもりになっていたのかもしれない。
それと同時に、なぜ彼女は俺を選んだのだろうかという疑問を抱くようになっていった。
一つ年上の先輩と付き合っていたと言ってたし、彼とも何かあっているのかもしれない。
たまたま告白したのが俺というだけで、それこそ先に海川に告白されていたら、あちらと付き合っていたのかもしれない。
有頂天な気持ちと疑心暗鬼が折り混ざっていく。
自分の事しか考えきれなくなった俺は、彼女の家庭環境の辛さなど全く考えたりもしていなかった。
彼女が一番辛い時期に何もしなかった。
どんどん、些細なことで喧嘩するようになっていく。
一度激しい口論になった。
「別に俺じゃなくても良かったんだろう?!」
彼女は愕然としていた。
しばらくして、彼女から言われた。
「勉強に集中したいから」
そう言って、どんどん距離が遠くなっていった。
彼女の試験日も差し迫っていた。
※※※
彼女の受験が終わった。
だが俺は、彼女がどこの学校を受けたのかさえ知らなかった。
県内の医学部を受験したいと話していたが、そこを受けたのだろうか。
何も分からないまま、時間だけが過ぎた。
そうして呼び出されたのは、国公立大学の前期試験の発表の後だった。
「県外の学校に?」
「県内は難しかったの。現役で、女でもとってくれる医学部に進路変更したら、運良く合格出来たの」
県内に留まれないのかという身勝手な希望も、俺は口に出した。
「今年受かったから、来年も受かる……そんな生半可な学部じゃないの。私は医師になりたい。父に言われたからじゃない」
浮かれすぎて、彼女がどれだけ医師になりたいのかなんて知ろうともしていなかった。
そうして彼女は、県外へと旅立って行った。
そう。
俺の届かない遠くへとーー。