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高校1年~2年春

 海川の話だと、彼女は才色兼備で有名な女子弓道部の部長らしい。

 俺は先程の女性会いたさに、さっさと入部届けを書いて提出することにした。書く時に少しだけ震えが来た。

 彼女にもう一度会えると言う期待があった。

 同時に話し掛けて相手をしてもらえるのかという不安が同時に去来したまま、弓道場へと向かった。



 遠目で見ている分には簡単に的に矢を当てていそうだと思っていたが、実際は運動初心者にはかなり難しい競技だった。

 弓道部は、名目上は男女で別れていたが、実際には共同で練習を行っていた。


「千葉菜々子と言って、女子部長を任されています」


 クールな見た目とは裏腹に、笑うとえくぼができて愛らしく、とても印象的だ。

 自分の胸が壊れるんじゃないかと言うぐらい高鳴った。

 しなるような指で握手を求められ、ますます緊張する。

 彼女の手は少しひんやりとしていて繊細で、この手で矢をつがえたりしているのかと考えただけで、頭の中が沸騰した。



 これが彼女との出会いだった。

 



※※※




 それからは部員も少ない事もあり、彼女とはよく話す仲になった。

 話すと言っても、部活の事や、他愛のない日常の話だった。

 放課後、彼女と話せるかもしれないと思うと、憂鬱な授業もなんとなくやり過ごすことが出来た。


 一月も終わる頃だろうか。彼女に憂い顔が増えてきた。

 そんな中、彼女にはつい最近まで付き合っていた男性がいたことを知った。

 相手は最近、県外の有名大学にある薬学部へと合格したそうだ。遠距離恋愛は無理だと言われ、一方的に別れを告げられたそうだ。


「彼も、私と同じ県内の医学部に行く予定だったの。だけど、浪人はしたくないんだって。後から、医学部に編入しようかなとか言ってね」


 そう話す彼女の表情には、彼への失望も見え隠れしているように俺は感じた。そうして、彼女に誰か相手がいたのだと思うと、胸が軋んだ。



「なんだろう。天野くん、優しいから、つい甘えちゃうな」


 そう言って首を傾げ、髪をかきあげる彼女の項。

 胸当てを外して袴姿の襟元から覗く、透けるような白い肌。

 俺は、彼女を直視できない。


 季節は春を迎えていた。


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