高校1年の冬
高校1年の途中、冬の最中に転校になった。
父親が海上自衛隊勤務であることも影響し、幼少期から転校は多かった。
人々からの好奇の目にはなれている。高校生にもなって、あからさまにそんな視線を送ってくる奴等もいなかったが。
転校初日。
クラスで気さくに話し掛けてきた同級生がいた。大体こういう奴が一人はいるから、転校のプレッシャーにもわりと耐えられる。
「天野くん?祐介くん?どっちで呼べばいい?」
明るい調子で声を掛けてきたのは、スポーツ刈りをしたいかにも運動部な男子だ。ちょっと吊った目をしている。そして締まった体つきで、ひょろりとした体型の俺は羨ましく感じた。
漠然と、こいつバスケとかしてそうだなと思った。
海川孝太郎と名乗ったその男からは、天野と呼ばれる事になった。『くん』が何処に行ったのかは分からない。
そして海川に、自分のとこの部活を見に来ないかと誘われた。
断って角が立つのも面倒だし、そいつの言う通り、俺は見学に向かうとした。
※※※
てっきり、バリバリの運動部に連れていかれると思っていた俺は拍子抜けした。
吹き抜けの道場。青々とした芝生は、今朝の雨粒を含んで瑞々しく輝いている。
芝生の先には、黒白の的が置いてあり、所々に矢が刺さっているのが見える。
一人の女性が、道場の入り口とおぼしき場所から入場してきた。
掲げられた神棚に向かい、彼女は一礼する。
ポニーテールの黒髪が揺れる。
顔を上げた彼女の凛とした表情。胸当ての上からでも分かる、なだらかな曲線が視界に入った。
俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。
両足を交互にゆっくりと交わしながら、指定の場所に向かう。
足を真横に開き、一度構えた後、そのまま弓に矢をつがえる。
的へ視線を移した。
彼女の白い首筋が露になる。
そうして、ゆるりと弓を持ち上げた。
高く上げた腕はしなやかに弦を張り詰め始める。
しばらくの後、矢から手を離す。
両腕が一の字を描いた後、静寂が訪れた。
緊迫した空気が周囲を凪ぐ。
とても静かな競技の筈なのに、俺の心の内に何か突き上げてくるものがあった。
初めて見た時、なんて美しいんだろうと思った。