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安楽死で人は殺せる

作者: ザ・ディル


 僕の父親は60という年齢を越えている。対して僕は、14歳で中学生。

 今日も学校が終わり、家に帰る。

 カレンダーを見る。

 2030年4月27日。

 

 話は変わるが、2025年。

 この年、日本人の60歳以上の人間は3分の2までに、減少した。それ以降も、さらに60歳以上の日本人は減少した。

 

 リビングにいた父さんは、絶望していた。

 あまりの恐怖で、息が乱れていた。

 あまりの恐怖で、ガクガクと震えていた。

 あまりの恐怖で、絶望の淵に立っていた。

 椅子に座りながらも、自身のあまりの震えで今にも落ちそうで。今にも、死んでしまいそうで。

 

 

 僕が生きているから、僕が成人でないから、父さんは生きているのだそうだ。あと4年経ったら死ぬのだと、父さんは言っていた。

 寂しいけど、仕方ない。

 既に父さんの中では死ぬことが決まっているのだ。

 父さんは、優しい。日本人の性質がカチリと当てはまるように、優しい。

 その優しさは、日本人の性質――他人に同調する性質、他人と同じ行動をする性質。規律を乱さず、ルールに、法律に則るような生き方。

 だから父さんは、死ぬ。僕という息子を成人に育てたら、死ぬ。

 

 僕は父さんに話しかける。

 

「今日も……あるんだろ、地区会議」

 

 今日も、きっとあるのだろう――地区会議というものが。地区の人が集まって会議をするものが。

 地区ごと――僕の住んでいる地区は林地区というところで、その林地区は年配の方が多い。特に、2,30代が多い。60代以上は父さんただ一人。

 

「嫌だ……行きたく……ない」

 

 まるで、子どものように駄々をこねる。まぁ、僕も同じ状況なら耐えられない。だから言うのだ。

 

「行かなければ、いいんじゃないの?」

 

「…………」

 

 無視。否、怯えている。

 

「それも、駄目だ……」

 

 八方塞がり。どうにもならない。父さんは死の袋小路から逃げられない。

 逃げて、走って、走って走って走って走って走って疲れて疲れて疲れて、止まって、絶望し、死ぬ。それほどまでに、追い詰められている。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 地区会議が終わり、父さんは帰って来た。

 今日も、相当に堪えたものがあるらしい。もう、精気がない。

 母さんもすでに帰ってきてる。

 

「あら、お帰りなさい」

「……ただいま」

 

 父さんは怯えている。

 全てに怯えている。

 きっと、全てのものが死を迫っているように感じているのだろう。

 きっと、全てに恐怖しているのだろう。

 きっと、全てが敵に見えているのだろう。

 きっと、全てに絶望しているのだろう――死にたくなるほどに。

 

「俺、もう死ぬよ」

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 父さんは死んだ。

 安楽死。

 

 それは2025年の、3分の1以上の60の齢を超える年配たちが死んだ原因。

 法律てして、日本は60歳から安楽死が可能となった。

 齢60以上の有名人――何人もが、死ぬと言って安楽死。

 そこから、日本が完全に崩壊した。

 高齢化社会が崩壊した。

 有名人が死んだから、お前も死ねという、若者の行いが、最初の崩壊。

 さらに、日本は狂う。

 60歳以上が死ぬことが、まるで文化のようになった。

 街に出れば、老人の悪口が溢れる社会となった。

 まるで、社会全体が打ち合わせでもしたかのように、60を越えた人間を死に急かした。

 そして、耐えれなくなった3分の1の人間が安楽死。

 否。

 安楽死ではない。

 父さんは苦しみながら死んでいった。

 これではまるで苦しんで死んだのと変わらない。

 安楽死とは真逆だ。

 

 

 

 

 ……僕もそろそろ耐え切れない。苦しみが、耐えれない。

 老人は、安楽死によって殺される。

 もう、僕は重圧に耐え切れない。

 さっさと死なないと、みんなに迷惑だ。

 死なないと、死なないと、死なないと、死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと死なないと――

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