新具蘇姫命
モドキ「最後に大田市吉永の吉永神社。正式には新具蘇姫命神社。この神社の祭神は新具蘇姫命。「にいくそ」と呼ぶから、つまりウンチの神さまだね」
はんなり「酷いネーミングだよね」
モドキ「石見八重葎では土神、埴山姫命のことだとしているね」
はんなり「ふんふん、なるほど」
モドキ「今は『蘇』の字があるからチーズの神さま、牧畜の神さまとしても信仰を集めているらしい」
はんなり「現代的な解釈ね。それで、この姫神には何か伝説があるの?」
モドキ「いや、無い」
はんなり「じゃあ、私が考える。創作昔話だよ」
モドキ「あくまで創作だからね」
はんなり「昔、大田の吉永に加藤藩という小さな藩があった時代の話。あるとき外国から伝わった牛疫という伝染病の所為で西日本の多くの牛が死んでしまったんだ」
モドキ「当時の牛は貴重な労働力だったからね。家の財産だったんだ」
はんなり「困った人々は相談した。そんなあるとき、加藤藩の殿様の夢枕に女神が立って、三瓶山の麓を切り開いてそこで牛を育てるとよいと告げたの」
モドキ「それで種牛を買ってくる訳だね」
はんなり「そうして牛の数はまた増えたのだけど、殿様の夢枕に立った女神は吉永神社の神さまらしい。それで、人々は新具蘇姫命を盛大にお祀りしたんだとさ」
モドキ「牛疫の蔓延という実際の歴史を盛り込んであるけれど、あくまで創作だからね」
モドキ「……そんなこんなで島根県の神さまにまつわる伝説――神話といっていいかな、を取り上げてきたけれど、いかがだったでしょうか。実際に訪れてみると現地の空気を吸うことができて、また趣きがありますよ」
はんなり「ちなみにはんなりとは半成、つまり般若の一歩手前という意味」
モドキ「怒らせたら怖いんだよなあ」
はんなり「モドキは中国地方では茶利ね」
モドキ&はんなり「それでは長時間の読書にお付き合いくださいまして、まことに有難うございました」