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櫛代賀姫命と忌部族と厳島明神

はんなり「ねえ、モドキさん。益田市の鎌手大浜に行ってみない?」

モドキ「何しに行くの?」

はんなり「雄島と雌島があるんですって。そしてそこで櫛代賀姫(くしろかひめ)命と櫛色天蘿箇彦くしろあめのこけつひこ命とが逢引きするんですって」

モドキ「前に言った古代クシロ族の神さまだね」

はんなり「櫛代賀姫命は益田市久城町の櫛代賀姫神社の祭神で、櫛色天蘿箇彦命は浜田市久代町の櫛色天蘿箇彦命神社の祭神ですって。ペアの神さまなのね」

モドキ「クシロって地名が浜田と益田にあるんだね」



はんなり「で、鎌手まで来てみたんだけど、なるほど、これが雄島と雌島かあ」

モドキ「伝説によると、賀姫とコケツ彦はここで逢引きするのが常だった。コケツ彦は頬かむりをしてやって来るんだけど、いつの間にか頬かむりがズレてしまう。それが月の満ち欠けになるんだそうな」

はんなり「コケツ彦は月の神さまなのね」

モドキ「ということは、賀姫は太陽の神さまということになる」

はんなり「月の神様が男神で、太陽の神様が女神なのね」

モドキ「益田の郷土史家の矢富熊一郎はこう考察している。鎌手大浜の亀島には大日霊神社が鎮座しているけれど、元々はここに櫛代賀姫神社があったらしいと」

はんなり「久城まで遷座したのね」

モドキ「あくまで仮説だけどね」



はんなり「ところでモドキさん、島根県浜田市に大麻山(たいまさん)って山があるでしょう?」

モドキ「テレビの電波塔がある山だね」

はんなり「こんな伝説があるの。海を渡ってきた忌部(いんべ)族の大麻比古(ひこ)命が浜田市折居(おりい)の海岸から大麻山に入ったの」

モドキ「それで?」

はんなり「それで、付近に暮らしていた小野族の住民に岩を投げて追い払ったんですって」

モドキ「小野神社という神社が益田市にある。その小野族だね」

はんなり「小野族は山口県の須佐まで後退、そしてそこから岩を投げ合ったそうだけど、結局勝負がつかず、忌部族は山を領分として小野族は小野に帰ることになったって伝説があるんですって」

モドキ「それだと侵略者が先住民を追い払った話みたいだな。本当なの?」

はんなり「じゃあ、図書館に行ってみましょうか」


モドキ「伝説は確かに載っていたけれど……、三隅町誌にあった。この話は『三隅地方の神話と伝説』という本を書いた寺井実郎が三隅町の歴史を踏まえつつ神話を織り込んだものだと書いている」

はんなり「じゃあ、どういうことなの?」

モドキ「この伝説は寺井実郎という人が独自の解釈を踏まえつつ再話した伝説なんだ」

はんなり「再話ってことは……じゃあ元の伝説は?」

モドキ「分からない。調べてみよう」



モドキ「島根県立図書館に所蔵されている旧島根県史に清水真三郎『石見神祇史稿』という石見国の式内社を取り上げた論考が引用されているんだ」

はんなり「そういえば、大麻山にある大麻山神社って忌部族の神さまを祀っているわね」

モドキ「浜田市内にある三宮(さんくう)神社でも忌部族の神さまを祀っている」

はんなり「じゃあ、浜田に忌部族がやって来たってこと?」

モドキ「それは分からない。ただ、四国から神社を勧請したのは確かなんだ」

はんなり「へえ」

モドキ「島根県西部には春日族、小野族、クシロ族といった氏族が移住したという言い伝えがあるんだ。それぞれの祖神を祀った神社が各地にある」

はんなり「前にそんなことを言ってたわね」

モドキ「話を元に戻すと、旧島根県史に井野の近隣騒動が載っていた。ただ、井野で近隣騒動があって天馬が駆け巡ったとしか書いてない」

はんなり「元の伝説はそんなにシンプルなのね」

モドキ「うん。それを浜田市三隅町近隣の伝説や歴史を盛り込みつつ再話したら、その再話した伝説だけが残ってしまった……ということらしい」

はんなり「元の伝説が分からなくなってしまったのね」



はんなり「大麻山の麓には室谷(むろだに)という地区があって棚田100選で有名なんだけど、ここに厳島明神の伝説が伝わっているの」

モドキ「どんな伝説?」

はんなり「厳島明神は室谷に住んでいるのだけど、水の神さまだからいつも海まで出かけて舟に乗るの」

モドキ「それで?」

はんなり「そうしている内に通うのが段々と面倒になって。あるとき『私はここが気に入った。ここを海にしようと思う』と言ったんですって」

モドキ「室谷の棚田が海に沈むのか」

はんなり「それを村人に言ったら、海の底に沈められてはかなわんと反発されて、室谷から追い出されてしまったの」

モドキ「村人も血気盛んだな」

はんなり「それで逃げ出した厳島明神は散々な目にあってようやく広島の宮島までたどり着いたというお話。厳島明神を追い出した浜田はだから発展しないんだってさ」

モドキ「そういう由来譚だね。しかし、厳島明神って宗像三女神でもあるけれど、随分イメージが違うものだね」



はんなり「三隅町には龍雲寺というお寺があって、そのお寺の方丈さんの夢枕に厳島明神が立って、家が火事で困っているから参道にある大岩に水をかけて欲しいと頼まれたの」

モドキ「そんな話もあるんだ」

はんなり「目が覚めた方丈さんは寺の者に声をかけて大岩に水をかけた。そうしたら火事は収まったということで厳島明神が現れて、蓮の糸で織った袈裟を収めた。その袈裟は今でも伝わっているという……というお話」

モドキ「色々あるものだなあ」


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