スマホになれなかった男
女ってのは分からない生き物だ。
「話を聞いて」と言うから真面目に聞いていたら、「ちゃんと聞いてるの?」とくる。
相槌を増やして、意見を交えたりすると、「黙って聞いて」とくる。
どうしろってんだ。
そういう女とは、総じて長く続かない。
「私の事好き?」と言うから、恥を忍んで答えると、「本当に?」とくる。
いちいち疑われるのも面倒なので、先に言ってみると、「何、急に」とくる。
どうしろってんだ。
その女は、ある日一方的に「好かれてると信じる事が出来ない」と言って去っていった。
翌日、人づてに他の男と婚約した事を知らされた。
信じられないのはどっちだ。
流石にちょっと荒れた。
「この新しい店に行ってみたい」と言うから、ネットで営業時間と行き方を調べてやった。
後日、「友達と行ってきたよー」という報告と、写真が届いた。
一緒に行くんじゃないのかよ。
返せ、俺の時間と労力。
重ねて言う。
女ってのは分からない生き物だ。
やさぐれた気持ちでいると、外で雷が鳴っているのが聞こえた。
俺はアプリの入った端末に声をかける。
「明日の天気は?」
スマホは淡々と、明日の天気を教えてくれる。
明日は傘必須だな。
「癒される音楽、かけて」
スマホは従順に、ヒーリングミュージックを流してくれる。
雷がうるさい。
「音量、上げて」
スマホは文句一つ言わず、音量を上げてくれる。
あぁ、と気付く。
彼女達にとっての俺は、このスマホみたいなものだったのだろう。
使える時は便利だが、意に介さない事もするスマホに、価値は無かったのだ。
俺はそっと自分のスマホを撫でた。
初の童話以外の短編です。