真夜中の電話
時刻は、午前4時前。
「うわ、もうこんな時間か。
意外と、盛り上がるもんだなあ」
軽く伸びをしながら、中学2年生の石獏 藍は、そう一人ごちる。
インターネット上で面白そうなネタを見つけた彼であったが、スレ主が消えてしまったのだ。
珍しいことではない。
特に、こういう夏休みには往々にして起こることではあるのだ。
しかし、スレ主がいなくなっても参加者が面白がって過疎にならないというのは珍しい。
実際、未だにスレではスレ主が投下したネタに侃々諤々の論争が繰り広げられていた。
「これでスレ主がいれば、まとめサイトに載るレベルになったかもしれないのに……もったいないねー……」
今回のネタは結構楽しかっただけに、藍が脱力感を感じるのも無理はないことであった。
まあでも。
PLLLLLL!
「……ん?こんな時間に、電話か?」
そんな脱力感を感じるのは、今だけになるのである、が。
「もしもし、藍ですが」
『ういうい、藍くん』
「おう、え、なんだ、橙か」
電話の向こうからは、聞きなれた声が響いた。
時村 橙
彼は、藍をオカルトの道に引き込んだ元凶ともいえる同級生であった。
いつも飄々として、笑っているような彼が、なぜか今回は、余裕のない声を出している。
『君、『油女様』の>6で書き込んでるだろ』
「う、え、え、お、おう」
『私は>2で書き込んでいるんだが』
「お、お、お、おう?」
全てを見通したような彼特有のしゃべり方に、藍は2の句が告げない。
どうやら、彼は藍が『油女様』スレに書き込んでいることを理解していたようであった。
理解した上で……彼は、こう、呟く。
『一応言っておくが……これ、相当ヤバイぜ』
「なに、いってるん、だ?」
『たぶん、>1は、死んでる』
「……は?」
『これ、参加した人間を殺すタイプの呪いだわ』
橙は、言葉を続けた。
『……それにしても>1のやつ、相当説明をはしょったな……。
あまりにも情報がなさ過ぎて、ちょっと詳細の推理ができない……』
「へ、へえ?」
『まあ、たぶん、4時間ごとに人が死んで、24時間後に術式が完成、といったところだな』
「そ、そうか」
藍藍は、わけもわからずに、答える。
その答えに、時村橙は、言葉を続けた。
『なんで急にこんなことを言い出したかって?』
「お、おう、なんでだよ……」
『聞こえるか、藍くん、この、音が……』
時刻は午前4時過ぎ。
電話の向こうからは。
……ねばねばしたものが、這いずり回るような音。
「な、なんだ、この音!?」
『部屋のドアの向こうから、だ。
多分……油女様だよ。
橙は、観念したように、呟いた。
『どうやら次に死ぬのは。
……私っぽい、わ』