34/エピローグ
こうして事件のことを思い返すと、本当に良く無事だったなと思う。
騎士団や冒険者達には十分な報奨が出て、私達も功労者として、結構な額の金子を頂いた。
(子供達へや自分の生活費に少し頂いたけれど……)
それでも手元に置いておくには多すぎたので、一部はグレゴリー経由で匿名での寄付として仕送りにした。
オズちゃんやウォードは、自分達の装備や、道具の買い替えをしたらしい。
ジャスさんは、自分を買い取る資金に回したと聞いている。
お陰でもう少しで完済出来るという事で、お師匠様に本格的に冒険者としての仕事を自由に行っていいと許可を貰った。
なので、今日のように自由に出歩けるようになったのだ。
(それに奴隷印も隠しても良くなったし……本当良かったわ)
奴隷でも、目覚ましい活躍をした者は恩赦……とまではいかないものの、奴隷印を隠す事を許可されることがある。
今回の討伐で、ジャスさんの攻撃がキングに致命傷を与えたことや、彼自身の人となりをクロード様が認めて、降りた許可だ。
代わりに、首に許可証代わりのメダルを下げていなければいなくなったけれど、「奴隷だが認められた人間である」という証拠があれば、蔑まれるようなことはない。
ちらりと男性陣達を見ると、まだじゃれ合って口喧嘩をしている。
(オズちゃんまだかな……)
皆で食べるのは異論ないけれど、今日は彼女との先約がある。
(魔術師ギルドは今大変だものねぇ……)
今回の討伐で、非協力的と言ってもいい魔術師ギルドは、事件終了後、キングの遺体を素材として、研究対象として欲しいと、領主様に申し出たらしい。
その厚顔無恥な態度に――流石に領主様も怒った。
詳しいやり取りは、あまり聞いていないけれど、魔術師ギルドへの領地からの援助を減らし、その分を冒険者ギルドへ増額。
当然魔術師ギルドは怒った。どう考えても非は向こうにあるのに。
それで色々と話し合った結果、次回同じようなことが起きた場合は完全に援助の打ち切り。
その上で、今回のキングの遺体は冒険者ギルドから購入するという形を取ることになったそうな。
契約魔術を使用しての取り決めなので、次回大きな事件が起きた時は、魔術師ギルドもちゃんと協力してくれることだろう。
(でも、次回なんてない方が本当はいいけれど……)
ともあれ、色々と魔術師ギルドは風当たりが強くなってきて、そこに所属しているオズちゃんも忙しい。
一番忙しい理由は、キングの調査や研究だと言うのだから、本当に研究者というのはどうしようもないとしみじみ思う。
――と、そこでギルドの扉が開いた。
入ってきたのは待ち人のオズちゃんだ。
「オズちゃんっ!」
笑顔で手を振れば、彼女も小走りで駆け寄ってきてくれる。
「おまたせ! じゃあ、食事に行こうか」
「あ、それなんだけれどね……」
言いながら、私達を見る男性陣三人へと視線を向ける。
オズちゃんも察したんだろう。苦笑してから肩をすくめて「いいんじゃない?」と言った。
「――では、皆でご飯を食べに行きませんか?」
声をかければピタリと口喧嘩は終わる。
「はい。シアさん。喜んで」
「そうだね。皆で食べるのも悪くない、か」
「よし。行こうぜ」
やっぱり口喧嘩はじゃれ合いだったようだ。
三人の変わり身具合に、思わず笑いが零れる。
「それではイーズさん、先に食事に行ってきますね」
「はいはーい。行ってらっしゃーい」
イーズさんに見送られ、皆で何を食べようかと話しながら歩いていく。
実家での毎日が、格別辛かった訳じゃない。
けれど、ここでの生活は毎日が鮮やかに色づいているような感覚がする。
(……グレゴリーにまた手紙を書かなくっちゃ)
今回の事件の事を彼に教えたら、戻ってこいと怒られてしまうだろうか。
(でも、帰りたくないな)
確かに怖い事や、危険が今後もあるんだろう。
それが開拓領という場所だから。
けれど、帰ってもお師匠様や友達がいない生活に戻れる気がしない。
それに何より――この活気あふれる街が私は好き。
故郷のイングリッド領が嫌いになったわけではないけれど、もっとここに居たいのだ。
「シア? どうかしたの?」
気がついたら止まっていたらしい。
不思議そうに少し離れた所で、私を見る友人達の顔。
「ううん。なんでもないよ」
笑って皆のもとへと小走りで駆け寄る。
――私の居場所はここだ。
だから、いろんな事が起きるだろうけれど。
それでもここで、頑張っていこうと思う。
長い物語を最後までお読み頂きありがとうございました。
切りの良い所まで書き終わりましたので、ここでひとまず完結とさせていただこうと思います。
初めての投稿作品に、多くの評価とブックマークを頂き、感謝感激しております。
次回作も温めておりますので、もしお見かけの際はお読みいただけると大変嬉しいです。
最後に繰り返しとなりますが、お読み頂きありがとうございました。