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33/大蛾討伐

 雨のお陰で鱗粉の飛散は抑えられた。

 これでオズちゃんが本格的に攻撃に回れる。


 解毒剤を彼女に飲ませていると、視界の済でウォードも同じように解毒剤を飲んでいるのが見えた。

 これで毒に影響されていた二人が自由に動けるはずだ。


 ノームさんに足元付近以外の、小屋の空いていた壁の部分を土壁で埋めてもらう。

 これで雨が降ってる今なら、鱗粉も心配いらないし、少しくらい彼らを放置していても大丈夫。これなら幅は狭いからワームも入れない。

 起きたらびっくりするかもだけれど……その頃には多分、全部終わってるはずだし。


(よしっ……)


 錬成瓶で魔力の液体を作って、準備をしてからジャスさんのもとへ駆け寄る。


「ジャスさんっ! さっきの矢はまだ残ってますよね!?」

「あ、あぁ。まだあるけれど……」


 そう言って苦々しい顔でキングを見上げるジャスさん。

 きっとさっきの事を思い出してるんだろう。


「現状あの矢が一番キングを倒せる可能性が高いんです。隙が出来れば当てられませんか?」

「隙って言っても……作れるのか?

 あの矢、大分じゃじゃ馬だからしっかりと狙う時間がいるぞ……?」


 大きい的な分、ある程度は当てやすいだろうけれど、そんなに弓で射るのが難しいのだろうか。

 弓を使ったことがないので良く分からないが、逆に言えば狙う時間があればなんとかなるという事だろう。


 それならば――その時間さえあればいい。


 私はジャスさんの眼をしっかり見て、頷く。


「大丈夫です。私が絶対に隙を作ります。

 どうか、私を信じて下さい」


 ひた、と見つめ合ったのはほんの数秒。


「――分かった。頼む」

「はい。ラフィーク、ジャスさんの護衛をお願い」

「にゃぁ」


 頭を撫でてから、魔力の液体を与えてラフィークに巨大化してもらう。

 この大きさならジャスさんを背負って森の中を移動することも出来るはず。


「お願いします!」


 ジャスさん達を見送ってから私はオズちゃんとウォードへと駆け寄った。

 二人にも作戦を伝えて、とりあえず現状維持を任せる。


 改めて周囲を見回す。


 ここはキャンプ地に使えそうな程の広さはない。

 ノームさんに簡易小屋を作ってもらうのだって本当は厳しかった。


 でも、どういうわけか木が少し移動して彼らを寝かせられる範囲を広げてくれたのだ。


(……どういう原理なんだろう?)


 地面に生えてる木を移動させたのだろうか。

 そうなると密集しているような気がするけれど……何か他に不思議な力が働いているのかもしれない。


(いや、そんな事考えてる場合じゃないわ)


 軽く頭を振って、思考を改める。


 雨のお陰で鱗粉を気にしなくなって良くなった分、オズちゃんとウォードの動きが良くなった。

 けれど、木や茂みが多い分、死角が多いので消化液や毒液が降ってくるので油断は出来ない。


(……ジャスさん達は弓で狙いやすい場所、見つかったかしら)


 氷の爆弾を使い、何匹かのワームを氷漬けにする。

 生命力が強くても、凍ってしまえば行動できないだろう。


 念の為少し見つめて確認するけれど、動く気配はない。


「なるほど、それ良いわねっ!」


 オズちゃんが氷漬けになったワームを見て、同じように氷の魔術を使い始める。

 今までは火事や地形を気にして、風の魔術を使ってたらしい。


(……自分でやっておいてなんだけれど、なんか寒くなってきたな)


 夏とはいえ、雨が降る中で氷をばんばん生み出してるのだ。

 寒くなるのも当然だろう。


 それに雨のせいで、『虫除け香水』の効果が薄まったらしくて、先程よりも数が増えている気がする。


(長引くと拙いわね……)


 ワームやモスも冷気に対してあまり強くはないみたいだけれど、こちらの方が先に寒さで動けなくなるだろう。

 そうでなくてもずっと連戦しているのだ。疲労で動きが鈍くなる。


 焦る中、足がつんつんと軽く突かれて、視線を向けるとノームさんが私を見上げていた。


「なんでしょう?」

『小僧たちの動きが止まったぞぃ。

 あのでっかい木じゃ』


 そう言って指を指してくれたけれど……良く分からない。


 でも高い所に陣取れたというのなら、そろそろ準備が出来たという事だろう。


(私もそろそろ足止めの準備をしなくちゃ)


 二人の動きも疲労のせいか、鈍くなってきてる。

 彼女たちに頼らず、私一人でどうにかしなくてはいけない。


(……作戦自体はある)


 動きを止める方法は考えてあるけれど、問題なのはおびき寄せる方だ。

 それに、ここで足止めをするには周囲への被害を考えると難しい。


 必要なのは、移動とおびき寄せる手段。


(おびき寄せるのは……やっぱり魔力を餌にするのが一番良いわよね)


 けれど、羅喉石を外すのは流石に危険。

 お師匠様に口を酸っぱく、絶対に外すなと言われている。


 ――もし外したせいでさらに魔物が増えたりしたら、確実に全滅してしまう。


(ならやっぱり……スライムの時みたいに髪の毛とか使う?)


 でもそれなら、魔力の液体を作った方が魔力効率がいいかもしれない。


(”悠久の黄水晶”の魔力は……もう少し足したほうがいいかな)


 錬成瓶で追加の魔力液体を作ってる間に、今度はノームさんに声を掛ける。


「ノームさん。あの大きいのを足止めしたいんですけれど、どこか開けた場所がこの周辺にありませんか?」

『む? 少しの間なら作ってやるぞ?』

「……えぇと、意味がよくわかりませんが、少し離れた場所にお願いしますっ!」


 お願いすると、彼は頷いて地面に手を付く。

 すると、少し先の方で木々が動いているのが見えた。


 小屋を作った時に見た現象は、やはり見間違いではなかったらしい。


 ”悠久の黄水晶”に魔力を追加して、追加で今度は餌用の魔力液を作り始める。


「オズちゃん、ウォードっ! 今からキングを誘き寄せますっ!

 警戒と少しだけ援護をお願いしますっ!」

「わかったっ!」

「了解致しましたっ」


 二人の返事を聞いてから、ノームさんを肩に乗せ、私は用意された広場に向かう。


「ノームさん、サポートお願いしますね」

『うむ。わかったぞぃ』


 離れた所にとお願いしたけれど、さして距離はない。

 走ってしまえばほんの数秒。


 魔力の液体をハンカチに染み込ませ、適当に拾った石を包む。

 そしてそれを持ったまま、ノームさんが用意してくれた広場の中心へと移動してから地面に置いた。


 これは賭け。


 道中、魔力のある木が枯れてるのを何度か見かけた。

 だからグラットンモスやワームが魔力を好むのは間違いない。


 でも、あれだけ巨大化したキングにこの程度の量で誘き寄せられる程の効果があるだろうか。


 よしんば興味を示したとして、一応知恵のある魔物。

 罠と気づいて近づいて来ない可能性だって高い。


(――お願いっ)


 祈るような気持ちで、上空を見上げる。


 先程までただ、空を飛んでるだけのキングに動きがあった。

 その複眼がこちらを見ている――気がする。


 大きくキングが羽ばたく。

 その次の瞬間には、私の方――いや、魔力に引き寄せられるようにこちらへ迫ってくる。


 オズちゃんとウォードが同じように近寄ってきたワームとモスを蹴散らす。


 タイミングを図り、”悠久の黄水晶”の魔力を全て使い切る勢いで地面に叩きつけた。


 込められた魔力に応じて、地面から塔のように大きく高い土壁が生まれ伸びていく。


 キングが慌てて、ぶつからぬように羽ばたいて止まろうとするけれど、もう遅い。


 この土壁は”悠久の黄水晶”で生み出した土。

 そして、この土はノームさん力の一部。つまりは彼の意のままに操れるのだ。


『そぉぃっ!』


 ノームさんが声を上げ、私の肩で何やら手を動かすと土壁がまるで粘土のように柔らかくなり、形を変えていく。

 人の手のようになった”ソレ”は、キングを鷲掴むとまた元通りの土に戻る。


 土と言っても、いざという時に障壁にできるほどの強度がある土だ。

 そう簡単には壊せない。


 ――それでも、あれだけの巨体。


 必死にもがけばそのうち脱出してしまうかもしれない。


 祈るように、睨むように。


 ぱらぱらと土が落ちてくる。

 予想よりも、あの固定が壊れるのは早そうだ。


(お願いっ。ジャスさん……っ!!)


 祈りが通じたかのように、物凄い速度で何かが飛んできて――キングを撃ち抜く。


 捕縛していた土壁もろとも、キングの胴体に穴が空いたのだ。


 今の衝撃のせいか、土壁が一気にもろくなったらしい。

 傾きがどんどん大きくなり、ゆっくりと倒れ始めた。


『これ、早く逃げんかっ!!』

「は、はいっ」


 呆然と見上げていたのを、ノームさんに叱咤され、慌てて逃げる。

 その直後に背後で物凄い轟音を立てて、キングと土壁が落ちてきた。


 まさに危機一髪。

 逃げてなかったら巻き込まれてたかもしれない。


 ばくばくと心臓が煩いのを、手を当ててどうにか収めつつ、キングの様子を見守る。

 ぴくぴくと痙攣をしているけれど、胴体にかなり大きな穴が空いている。――文字通り虫の息。


「大丈夫ですかっ!?」

「え、えぇ……大丈夫よ」


 ウォードに声を掛けられ、視線はキングに向けたまま答える。


(本当に死んだかな……?)


 虫は基本的にしぶとい。

 魔物化したら、それはさらに強化されるし、そもそも生命力に優れた種だ。


 本当に死んだか、心配になって見ていると、ふいに複眼がぎょろりと私を睨む。


「ひっ」


 慌てて氷の爆弾をありったけ投げて、キングを氷漬けにする。


 最初からこうしておけばよかったなと少し後悔。

 氷漬けになったキングは流石にもう、完全に死んだように見えた。


「……終わった?」


 オズちゃんが不安そうに言うけれど、魔物ならこれでも生きてるかもしれない。


 不安に思っていると、周囲に居たモスとワームが一斉に逃げ出すように散り散りになっていく。


(もしかして、キングが死んで統率が崩れた?)


 だとしたらこれで本当に終わりだ。


 ほっと息を吐いて、地面に座り込む。

 囮で殿をするだけだったのに、思った以上の大事になってしまった。


(……雨降ってこなかったら詰んでた……)


 生きてるって素晴らしい。

 切実にそう思う。


(あぁ……でも座り込んでる場合じゃないわ……)


 もうこのまま疲れたから、休憩してしまいたいけれど、そうもいかない。

 散り散りに逃げたモスやワームを出来うる限り退治しなければならないのだ。


 さもなければ、第二第三のキングが生まれかねない。


(ここが頑張りどころよね)


 気合を入れて立ち上がる。


 億劫だけれど、同じことがまた起きるよりよっぽど良い。


 あともうちょっとだけ頑張ろう。

お読み頂きありがとうございました。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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