表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/88

31/異変の元凶

 すっかり少人数(と言っても騎士団含めて十五人くらいは居るけれど)でずんずん森の中を進んでいく。

 私達が担当するのは、奥地の一部地域だ。


 奥地に付いてからある程度歩いて、キャンプ地になりそうな場所を見つけ、そこで交代で昼食を取ることに。

 『虫除け香水』を使っていたお陰か、食事中には特に魔物の襲撃はなかった。


 食事中、クロード様に行動指針を説明される。

 ここをベースキャンプとして、騎士団の面々は二班に分かれ、周囲を索敵しつつ討伐。

 そして、一定時間毎に戻ってくるという流れになる。


 今回の全体的な討伐の目標としては、あの巨大蛹の羽化個体の討伐、それ以外でも目につく巨大化したモスの討伐がメイン。

 流石に小さいワームやモスをすべて狩るのは難しいという事での目標だ。


 前者二つが達成されてからは、冒険者達への依頼で処理していく予定らしい。


 なお、私達はベースキャンプの居残り組。

 回復担当チームだから、当然と言えば当然なのだろう。


 ここを守りつつ周囲を軽く散策して討伐するのがお仕事になった。


「では、君たちはここで待機をするように。

 囲まれる恐れがあるので、索敵をするのは構わないが、ベースキャンプからの移動はあまり推奨出来ない。

 くれぐれも、十分注意するように」


 クロード様が真面目な顔で、私達に念押し――いや、主に私に対して念押ししてくる。

 心配してくれるのはありがたいけれど、そこまで私は信用出来ないのだろうか。


(……まぁ、心配の方が強いのよね、多分)


 苦笑しつつ、クロード様に治療用と解毒用の水薬をいくつか手渡す。

 それから、安心させるように微笑んだ。


「はい。十分に理解しております。

 薬は遠慮なく使用して下さい。足らなくなったり、重傷者が出たら戻ってきて下さいね」


 そう言って、私達は騎士団の面々を見送った。


* * *


 集合地点でもあるベースキャンプから離れることはあまり出来ない。

 でも、クロード様の言ってた通り、周囲の索敵をしないと気づいたら囲まれていた、という状況になってしまう。


 適当な岩に座りながら考える。


(ワームは足が遅いから良いけれど、囲まれて毒液とか消化液を吐かれるとやっかいだし……。

 モスはモスで飛んでるから音が分かりにくいし、先に毒鱗粉で攻撃をしてくるから面倒なのよね……)


 前回の襲撃を踏まえて、今回は皆口元を布で覆っている。

 毒には抵抗力があると言っていたジャスさんにも、念の為やってもらっているので、前回よりは楽に戦えるはずだ。


(……でも鱗粉っていうのが問題なのよ……)


 鱗粉のように小さなものだと、どうしても避けれない。

 そして、皮膚からも少しづつ吸収してしまう。


 森の中では出来るだけ肌の出ない服を着ているとはいえ、顔を全部覆うのは難しい。


 少なからず、被害は出るだろう。


(毒の抵抗力問題もあるけれど……問題なのは、毒草を食べて進化すると毒性が高まりそうなところね)


 そうなれば、対策をしても意味がないかもしれない。


(……きっと大丈夫)


 ちゃんとそれに備えて、専用の解毒剤を調合してきたのだ。

 あれなら多少毒性が強くなっていても、動いて逃げれる程度には解毒できるはず。


 幸いなことに道中モスには遭わなかったから、解毒薬には余裕がある。


(――あれ? モスに一度でも遭遇したっけ……?)


 前回の調査の時は、巣に近づいた時にモスと遭遇した。

 だが、すでに巣は事前調査で軒並み壊滅させてきたとクロード様は言っている。


 もちろん、未だ見つからない場所――例えばもっと森の奥とかにある可能性は高い。


(でも、街周辺の魔物はまだ弱い方だけれど、奥に行けば奥に行くほど強力な魔物がいるのよね……?)


 人間にはモスの毒や、数は脅威だ。

 けれど強力な魔物にとってはその限りではない。


 強い魔物になればなるほど、毒物などへの抵抗力が高いので、モスの最大の武器が効かないからだ。

 そうなると、多少大きくても簡単に狩られてしまうだろう。


 だからこそモスは、この辺りまでを縄張りにして、周囲の生き物を駆逐する勢いで繁殖している。


(そう考えると、いくら巨大な個体が居ても奥地のさらに奥には、まず行かないわよね……)


 だというのに何故、森の中で一度もモスを見かけないのか。


 元々群れる習性のある魔物だ。

 一番巨大な個体と共に、居るという可能性が高い。


「にゃぁ?」


 考え込んでいると、ラフィークが膝にちょこんと乗って私を見上げてくる。

 多分「何考えてるの?」とでも言いたいのだろう。


 苦笑しつつ、彼の頭を撫でながら「なんでモスを見かけないんだろうね」と呟く。


 当然だけれど応えはない。

 ただ、撫でられながら気持ち良さそうにしてるだけ。


(そういえば魔物になると知性が上がるって書いてあったな……)


 昆虫の知性と言われると、正直想像出来ないけれど、魔物になったならば、感情や知恵も働くかもしれない。

 そうなったのならば――


(感情があるなら、やっぱり巣を壊した人間を許さないわよね)


 その上で、人間の区別など付かないだろうし、人間を無差別に襲ってもおかしくないかも。


(……もしも知性があるのなら……)


 少なくとも、人間が自分達を敵視しているのには気づいてるはず。


 そして、グラットンモスは元々群れる習性がある。

 だとしたら――一番大きい個体を長として、復讐をするために決起の時を伺っているかもしれない。


(……それだと森でモスを見かけない辻褄はあう……のかな)


 幼体のワームが大量にいたのは、斥候か、それとも知性がないのか。

 どちらにせよ、断定出来なくても可能性がある以上は、検討した方が良いのかもしれない。


 とりあえず、今いる皆に相談しようと声を掛けようとした時だった。


 聞こえてくる複数人の足音。


 慌ててそちらを見るとクロード様達が帰ってきた。続いて分かれていたもう一班も戻って来る。


 一瞬魔物かと思って、警戒したのが恥ずかしい。

 冷静に考えると、ワームはもっと這いずるような音だから、全然違うね……。


 内心の動揺を笑顔でごまかしつつ、立ち上がってクロード様へと近づく。


「お帰りなさい、皆さん」

「あぁ、戻った――こちらは何か変化は?」


 クロード様の視線がジャスさんへと向けられる。


「特にないな」

「あの、待ってる間に考えたんですけれど……」


 軽く手を上げて、私が声を掛けると皆の視線がこちらを向く。

 それに少しだけ怖気づきながらも、先程の私の考察――と呼べる程でないけれど、考えを述べた。


 それぞれ反応は違う。

 確かに、魔物に知性があると言っても、原種が昆虫だと想像しにくい。

 けれど同時に、モスが一向に姿を見せないのも気になるのだろう。


「なるほど……一理あるかもしれない。

 我々もワームは相当数討伐したが、モスは一度も発見しなかった。当然一番大きい個体――キングもな。

 それと……途中からワームも一切見かけることがなくなって……そちらはどうだった?」


 戻ってきたもう片方の班のリーダーに視線を向けると、頷いてから彼も同じく見かけなくなったと言う。


「――きな臭いな」


 クロード様が呟いたその時だった。


 強い風が上空から吹いてくる。――同時にどこか甘い香りも。


 ベースキャンプにしたのは、森の中でもたまたま開けている場所を使っている。

 風向きによっては、風が上から吹いてくる事も、無いことはないとだろう。


(――でもっ……この匂いって……っ)


 甘みを錯覚させるものの、花でもなくはちみつでもない香りは――グラットンモスの鱗粉の特徴だ。


 強い風を感じたのは最初だけ。

 私だけはすぐにお師匠様がくれた髪飾りのお陰で、風の影響が弱まる。


 だから皆が耐えてる中、空を見上げた。


 最初は小さな点だったソレは、だんだんと大きくなってきてその姿がよく分かる。

 森の中で襲われたのと同じ姿形。


 しかし――その大きさは段違いだ。


(確かに蛹の段階で、牛とか馬がすっぽり入る程の大きさだったけれど、これは成長しすぎじゃない……!?)


 胴体だけでも縦横牛二頭分はありそうだし、羽に至っては胴体の三倍以上はありそう。

 そして、その周囲を取り巻くように小さい何か――恐らく、通常のグラットンモスが飛んでいた。


 異常個体――キング。


 その複眼が私達を見下ろしながら、睨んでいるように見えるのは私の先入観のせい?


 キングが羽ばたく度に、皆がよろけて倒れそうだ。

 オズちゃんとその周囲にいた、クロード様とウォードだけは無事に見える。

 きっと、私の髪飾りと同じように風の魔術で相殺してるんだろう。


(ジャスさんは大丈夫かしら)


 騎士団の人たちは、しっかりとした金属鎧の分重みがあるから大丈夫だろうけれど、彼は軽装だ。

 簡単に煽られてしまうんじゃないだろうか。


 心配になって姿を探すと――木の陰で耐えているのを発見した。


 ほっと息を吐いたところで、奥歯を噛む。


 この強風では、弓矢などの遠距離武器では当てにならない。

 かといって、今のオズちゃんは攻撃魔術を使ってる余裕はないだろう。


(それに……)


 目に見えて鱗粉が舞っている。


 これだけの量だ。

 口元を覆うだけでは、きっと足らない。


 焦っていると予想通りに、周囲からうめき声が聞こえてきた。


 風のせいで口元の布がめくれたりしてるし、そうでなくても顔や、耳、少しだけ露出した肌から摂取してしまっているのだろう。

 キングになる過程で、毒性が強くなったのか、それとも集団での鱗粉攻撃で効果が上がっているのかは、分からない。


 ただ一つ分かるのは――今が最悪の状況だという事だけ。


「――ちっ。総員撤退!! この大きさと風では想定していた武器での応戦は不可能っ!

 撤退し、街目前の広場にて攻城兵器を使い応戦するっ!!」


 クロード様が叫び、周囲の騎士達は従おうとするけれど――その大多数が動けない。


(このままじゃ……全員で撤退は無理……っ)


 私は皆の顔を見る。


 オズちゃんは、風の魔法を維持するか、戦うか悩んでいた。

 ウォードは、近くにいた騎士を抱えて立たせていた。

 ジャスさんは、何か出来ることがないかと周囲を忙しなく見ていた。


 やがて、皆の視線が私と交わる。


 私は空を見上げた。


 あの大蛾をどうにかしなければ、逃げることすらままならない。

 全員を解毒するだけの時間もない。


 何より――解毒をしても、この状況ならばすぐにまた毒に侵される。


 私はもう一度皆を見た。

 皆は頷いてくれる。


 だから、私は必死に撤退命令を出すクロード様へと駆け寄った。


「クロード様っ!」

「君も早く逃げろっ!」


 部下の一人に肩を貸しながら、私を怒鳴るクロード様。


「私達が殿を務めます。

 どうかその間に皆さんは撤退を。特に毒の進行が早い方には、こちらを飲ませてから逃げてください」


 そう言って、比較的動けそうな騎士に解毒用の水薬を手渡す。


 その間もクロード様は私をじっと見ていた。

 逡巡しながらも――すぐに彼は口を開く。


「――すまない。頼む」

「はい。お任せください」


 出来るだけ安心させるように、私はいつもの笑顔を浮かべて言う。


「皆が逃げきれたら、機をみて私達も逃げますから」

お読み頂き有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ