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29/騎士団からの要請

 ギルドの受付業務をしながら、そわそわとクロード様の姿を待つ。

 せっかく用意した資料。早く渡したい。


 ……困ったことに、隣のイーズさんに微笑ましそうに見られてるけれど。


(違うと言っても多分、聞いてくれませんよね……)


 普通の一般人でも困るのに、領主一族のクロード様に対して勘違いをされるのは本当に困る。


 ため息を付きつつ、ちらりと入り口に視線を向けた。

 平時であれば、そろそろ契約の水薬を受け取りに来るはずだ。


(でも、今は対策会議でそれどころじゃない可能性もあるかな……)


 今日来なかったら、帰りに騎士団へと納品ついでに報告書を渡しに行こう。


 そう決意した時――扉が開いて見慣れた姿が入って来た。


「おっ。やっと着たわよ、シアちゃん」


 楽しげにイーズさんが言ってる間に、クロード様が目の前にやって来る。


「こんにちは、シアちゃん、イーズさん」

「納品の件ですよね?」

「うん。できれば追加納品もちょっと依頼したいところなんだけれど……」

「では私も少々お話したいことがあるので、応接間でお話しませんか? 許可は既にとってありますので」


 提案すると、二つ返事で少し嬉しそうにクロード様は頷いてくれる。

 「ごゆっくり~」とイーズさんに見送られて、私達は応接間へと向かう。


「そう言えば今日は忠犬君居ないんだね」

「忠犬……あぁ、もしかしてウォードですか?」

「うん」


 言い得て妙だ。

 でも実際に彼は少し犬っぽいところがあると私も思ってた。


「彼には畑に向かう子どもたちの護衛をお願いしてます」

「なるほど」


 言いながら、向かい合う形でテーブルを挟んでソファに着く。


「早速だけれどこちらの要件からでも?」


 頷くと、彼は羊皮紙を取り出して私へと手渡す。


 中に目を通すと――先ほど言った通り、薬の納品についての依頼だった。


「現在、森の調査を行っている。

 最低限の情報が入り次第、森の本格的な探索を行い――討伐を行うつもりだ。

 これは、騎士団だけではなく、冒険者ギルドや魔術師ギルドも巻き込んでの大掛かりなものとなる。

 大規模討伐になるため、薬の備蓄が心もとないんだ。

 それで、個数制限はこちらからの要請だったけれど、急遽作成して欲しい」

「なるほど……」


 数が最低でも百とあるのは、出来ることならもっと欲しいという事かな。

 結構な量だけれど作れるかな……。材料もだけれど、納品日が三日……。


「急な依頼な分、材料の薬草については畑の納品分を使ってくれていい」

「はい、畏まりました。……善処します」

「――すまない。流石に数は理想値なので、届かなくても罰則はないから安心して。

 足らない場合は一本辺りの値段で計算させてもらうので、多少報酬が落ちるけれど」


 それは当然だろう。

 ……でも、百以上となると三日間で作れるか怪しい。


 比較的大量生産が出来る方だけれど、今の私じゃ一度に作れるのは十個分。


 一日に調合を何回可能だろう?

 下準備を他の人にも手伝ってもらえば、短縮可能かな?


 ……それでも足らない気がする。


(お師匠様に頼めば、手伝ってくれるかしら……)


 普段なら嫌な顔をするかもしれないけれど、今は非常事態だ。

 人の為にもなるし、街の危機なら多分大丈夫だろうと思いたい。


「あの……お師匠様に手伝って頂いても大丈夫ですか?」

「……出来るの?」

「流石に状況が状況ですから……。普段なら断るでしょうけれど」

「薬の備蓄が一番の不安要素だから、協力が得られるというのなら、むしろ歓迎するよ。

 報酬についても、もし問題があるなら遠慮なく言ってくれ。出来る限り対応する」


 お師匠様への信頼度が凄い。


「――と、それでそちらの要件ってなんだろう」


 心配事が減ったのか、ほっと緩んだ顔で軽く首を傾げて言う。

 私はいそいそと纏めた資料を取り出して、クロード様の前に差し出した。


「こちら、昨日大図書館で調べて、あの巨大蛾の元になった魔物についてのレポートです」

「レポート……?」


 原種と呼ばれる、本来の動物(今回の場合は昆虫)が、魔力の影響を受けて変異したのが魔物だ。

 だから、多少魔物の姿は原種に影響を受けるため、毎回同じ見た目ではない。


 それでも、生態、行動、能力はある程度変異時に固定されるため、それで魔物の種類を特定する。


「魔術師ギルドの方も協力しているみたいなので、もう知ってるかもしれませんが……」


 渡されたレポートを読む速度は早い。

 まるで、やっと見つけた手がかりを必死に読み込むように。


(……あれ? なんでだろう?)


 あんなに簡単にオズちゃんの兄弟子さんが見つけてくれた情報だ。

 すでに既知情報だと思っていたのに。


 読み終わると、彼は目を輝かせて私を見る。


「凄いな……確かに、これはあの巨大蛾――グラットンモス、だったか――同じようだ。

 ありがとうっ!! 本当に助かるよっ!!」


 今にも両手を掴んで拝む勢いで喜ぶクロード様。


「あの……もしかして、まだ知らなかったんですか……?

 魔術師ギルドの方も協力しているんですよね……?」


 私が問うと、彼は座った目で笑いながら言う。


「あぁ、したよ?

 そしたら名のある術士はみんな弟子を寄越すか、完全無視を決め込んでな?

 やってきた弟子は弟子で、真面目だけが取り柄で、知識自体はまだ未熟で役に立たなくてな?

 もちろん、ちゃんと調べてはくれてるよ?

 けれど、君が一日で見つけた情報をまだ見つけられてないってどういうことだろうな?」


 ……相当鬱憤が溜まってるみたい。


「領主、命令なんですよね?」

「――魔術師ギルドは、割と独立した組織だからな……。

 それに今回みたいに魔物被害が起きた時に、冒険者ギルドと魔術師ギルドは貴重な戦力だ。

 無理強いして、いざという時に根に持たれて、連携が取れなくなっても困る。

 ……そのせいで一応弟子を送ってくる以上、強く言えないんだよ……」

「あの……それで街に被害が出たら、自分の身にも降りかかるのに、そんな態度を……?」

「普通はそう考えるんだろうが――考えないのが、魔術師ギルドの研究バカ共なんだろうよ」


 ため息を吐きつつ、同時に小さく「くたばれ」と毒も吐く。


 苦笑して、私は精神を落ち着けてくれるハーブティを入れて、彼に出して改めて席に着く。


「ところで討伐はいつ行うのですか?」

「薬をある程度用意してからになるから、最短でも四日後。

 場合によってはもう少し伸びるかもしれないけれど、どれだけ長くても一週間以内になるだろう」

「なるほど。なら四日を目安に準備をしたほうが良いですね」

「え、なんの?」

「もちろん、討伐の手伝いのですけれど」


 私が答えると、目を丸くしてクロード様が驚く。


「駄目だ」

「何故です?」

「危険だからだよ!」


 聞き分けのない子供に怒鳴るように言う。

 心配してくれるのは分かるけれど、盗賊討伐とどう違うのだろうか。


 危険度としては大差がない。


「その、心配してくれるのはわかりますが、街の危機なんですよね?

 なら私も何かしたいです。薬作り以外でも私には出来ることがあります。

 グラットンモスには毒があるので、絶対に役に立てますよ? 実際前回解毒したじゃないですか」


 私の言葉に、クロード様は思案顔だ。

 言ってることは分かるけれど、許可はしたくない。


 ……そんな感じだろうか。


「どちらにせよ、冒険者ギルドも巻き込むんですよね?

 私は一応冒険者の資格を持っているので、クロード様の許可は要りません。

 先程のは、私の意思表示に過ぎませんよ?」


 確認するように言うと、クロード様はじとりとした目で私を見る。


「……まさか一人じゃないよね?」

「流石にそれは皆が止めると思います」


 苦笑する。

 もともとそういう話は皆としてあるのだ。


「はぁ……分かった。期待しておくよ」


 彼は疲れ切った顔で、重いため息を吐いて言った。


「そうだよな、実績はあるし、実際に役に立っちゃってるもんな……」

「……足手まといでしょうか……?」


 前回の討伐も私自身は、基本的に出番が無いはずだったのだ。

 盗賊団の頭領を捕まえる手伝いをしたのは、成り行きに過ぎない。


 団体行動が必須とされる状況で、足手まといがいるのが好ましくないのは確かだろう。


「――いや、事実居れば役に立ってくれるだろうし……何より、そういう君を好ましいと思ってるのも事実だからね。

 いいさ、その辺りはこっちで対策すれば良い」

「対策……?」

「その辺りは当日に、ね。

 ――それじゃ、これはありがたく貰っておく。依頼の件もよろしく頼む」

「はい」


 力強く頷いて、クロード様を見送る。


 やることは山積みだ。

 お師匠様への協力要請、オズちゃん達に今回の討伐についての話、それから大量の薬作り。


 大変だろうけれど、出来ることがある。


(――なら、何も不安になる事なんてない)


 自分に出来ることを一つ一つこなしていけばいい。


(頑張らなきゃっ)



お読み頂きありがとうございました。


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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
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 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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