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28/対策会議と正体調査

 森で蛹を発見した後、私達は急いで街に戻る。


 あの恐ろしい巣は、見本として死体と空の蛹と卵を数個(体)残し、まとめてノームさんに洞窟ごと埋めてもらった。

 可哀想かもしれないが、あんな厄介な生物をこれ以上誕生させるわけにはいかない。


 そして強行軍で街へ辿り着くと、当然だけれど門は閉まっていた。

 普段なら大人しく街の外で野宿するけれど、今回は緊急時のためクロード様が徽章を見せて街へと入る。


 これが一昨日の出来事。


 それから彼とは会っていない。

 薬草畑にも午前中にしか行かないように子供たちに声をかけてあるけれど、少し不安だ。


 あの巨大な蛹の主から、森の生き物が逃げていたというのならば、いつ森から出てくるか分からないのだから。


 これが開拓領が未だ開拓しきれない理由かと思うと、恐ろしいとも感じる。


 また、騎士団だけではなく冒険者ギルドも慌ただしい。

 領地全体での驚異だから、当然だろうけれど。


 ギルド上層部や、高レベル冒険者は騎士団本部へと招かれて、今度対策会議を行うと聞いた。


 私はスケッチを鞄に詰め込み、目的地へと急ぐ。


 スケッチには、例の巨大蛾と蛹、そして卵の形状が事細かに描かれている。

 

 ちなみに、スケッチしたのは例のごとくウォード。


(本当に優秀よね。ありがたいけれど、本当に私が主人で良いのかしら……)


 そうは思うが、とりあえず後回しだ。――今はやるべき事がある。


 私は街の中でもかなり大きい建物を見上げた。領主の屋敷くらい大きいのではないだろうか。


 ここは、魔術師ギルドが運営している巨大図書館。

 会員となるための対価を払えば、基本的に誰でも本を読むことが出来る。


 調べ物にはもってこいだろう。


 もちろん、私より頭のいい人はたくさんいるし、領地の問題だから魔術師ギルドも例の会議には参加するはず。

 でも、捜し物にはやはり人海戦術が一番。例え無駄足になっても、何かしたい。


(私は私で出来ることをやってみよう)


 気合を胸に、図書館へと足を踏み入れた。


* * *


 入り口にて、会員になるための三百Gを支払う。


(以前オズちゃんも言ってたけれど、確かに平民が払うには高いね)


 私の場合は錬金術のお陰で材料費が比較的安く、しかし値段は正規で売るという若干暴利なことをしているお陰でそこまで問題ない。

 もう少し蓄えが出来たら、どこかに寄付をした方が良いかもと思う程度には暴利だと思う。


 その上で、文字が読めるのが少数となれば、利用客が減るのも納得する。

 もっぱら一部の冒険者や、魔術師ギルドに所属しているくらいしか利用していないらしい。

 そのせいか一般的にも、そういった職種の人のみが利用可能だと勘違いしているとも聞いた。


 ともあれ、会員費を払って図書館の中を歩く。


 本を読む場所は決まっていて、館内での飲食禁止。

 一応館内には食事処があるらしいので、どうしても食事が必要ならそこでどうぞという形になる。当然本は持ち込み禁止。


 それと館内(食事処も)への入退室時に軽く身体検査と荷物検査を行われる。

 盗んだりこっそり持ち込み対策で、本は基本的に大きいので軽くで済むそうだ。


 一冊単位の値段が恐ろしく高価だからこその処置だろう。


 そんな事を考えながら、周囲を見回していく。


(それにしてもすごい本……)


 壁いっぱい、天井いっぱいに本棚が並べられ、さらには本来は通路であった広い部分に並べられた低めの本棚。

 蔵書量は何冊くらいだろうか。


(万は下らないかも……)


 ここまで来ると、管理するのも大変だと思う。

 基本的には分類されて、配置されていると説明されたけれど……。


 周囲を見回しながら、本棚の分類を確認していく。

 目的地は当然魔物関連の分類だ。

 ややあって、目的地付近へと辿り着く――が。


(発見は……した……けれど)


 思わず絶句する。


 範囲が広い。物凄く広い。

 ここだけで一万冊くらいあるんじゃないかと思うくらいに、魔物分類の蔵書がたくさんあった。


(ど、どうしよう……)


 狼狽えつつも、とりあえず一冊手にとって見る。

 中身を軽く見た感じ、一種類の魔物についての考察、生態、さらにはその亜種について書かれていた。


 全部が全部この通りではないにせよ、きっとこういう蔵書がたくさんあるのだろう。

 中には内容が被っているものもあるはず。


 そう考えると――とても一人で調べきる事ができない量だ。


 魔物と近い領地とはいえ、ここまで魔物に関する蔵書があるとは考えてなかった。


(……これは……私一人じゃ無理ね)


 受付司書に聞けば教えてもらえるだろうか。


(これだけの蔵書量ともなると、分類で見てねとしか言えないかも……)


 タイトルが分かっている本を探すのと、内容の宛を述べるのとでは探し方も違ってくる。

 となると、申し訳ないけれど他の利用者に聞いて回るしかないかもしれない。


(問題は魔物分類の本を見てる人がいるかしら……)


 まさに今この場にいてくれると、凄く助かる。

 ……そうそう上手く詳しい人が居るとも思えないけれど、当てもなく探すよりは先に人に聞いたほうが早いだろう。


 せめて、もう少し範囲を絞りたい。


 少しだけ期待して、誰か居ないか探し歩く。


(……誰も居ない)


 元々利用者が少ないと聞いていたし、今はどこも対策会議の為に忙しい。

 それによく考えたら、魔物に詳しい人ならば会議に呼ばれてこんな所にいないのでは……?


 私が諦めかけたその時。


「――探し物?」


 ふいに背後から静かな声が聞こえた。

 慌てて振り返ると、長い紫色の髪をした中性的な顔立ちの男性。

 服装がずるりとしたローブで、手にはオズちゃんと同じ杖。


 魔術師の人?

 なら、質問したら答えてもらえるだろうか。


 どうしようか迷っていると、彼も不思議そうにこちらを見つめ首を傾げている。


「探し物?」


 もう一度問われ、私は頷く。


「……」


(これって、探してる物を言えってことかしら?)


 黙ったままじっと見られているのも居たたまれないので、思い切って聞いてみる。


「あの、実は魔物の本を探していまして、この蛹に似た魔物の本があればと……。

 探そうにも量が凄くて何処から手を着けたらいいか……」


 スケッチを見せ尋ねると、彼はじっとスケッチを見つめ――小さく頷いてから静かに歩き出す。

 慌てて私も追いかけるようについて行くと、暫くして彼は止まった。


 それから本棚をじっと見て、何冊か本を取り出して中身を確認し――おもむろに頷く。

 そして手にした本を私へと差し出した。


「あの……?」

「多分、これ」


 意味が分からないままに、中身を軽く確認すると――挿絵に見覚えがある。

 そう、スケッチに描いてもらい、私達が襲われたあの巨大蛾にそっくり。


(今の短時間で見つけてくれたの?)


 そんなに有名な魔物なのだろうか。

 それとも格別この人が優秀なのだろうか。

 あるいは偶然知っていた?


 なんにせよ、ちゃんとお礼をしなくては。


「有難う御座います」


 お礼を言うと彼は頷くだけ。


 さっきからずっと、片言しか話してくれない。

 もう少し、意志疎通をしたいと思うのは私だけだろうか。


「えっと……その、見ず知らずの私に――」

「知ってる」

「へ?」

「白い髪のシア」


 ……何故この人は私の名前を知ってるんだろう……?


「……?」


 困惑してる私を、不思議そうに見てくる。


「オズの友達のシア。――違う?」

「い、いえ、合ってますけれど……」


 戸惑っていると、詳しく説明してくれた。

 どうやら彼はオズちゃんの兄弟子さんらしい。


 確かに特徴のある私を、同一人物と判断するのは分かる。

 でもいきなり言われても分かりませんよ……。


「また困ったら聞くと良い。――オズを宜しく」


 そう言って、軽く会釈をすると去って行った。


(独特の空気を持つ人ね……)


 少しだけ呆然と見送ってから、私は渡してもらった本に視線を落とす。


 さて、この本をどうしよう。

 これだけあっさり見つかったのだ。


 すでにクロード様達もこの情報を得ているかもしれない。


(でも……せっかく見つけてくれたのだし)


 必要そうな部分はそこまで多くない。

 無心で書き写していれば、すぐ書き終わるだろう。


(うん。資料として、本のタイトルと本棚の位置も書いておけば、役には立つわよね)


 そう考えて写本作業を進めていく。

 程なくして、予想通りレポートが完成した。


 ふぅ、と息を吐く。

 疲れたというのもあるけれど、満足行く仕事が出来たからだ。


 明日はこれをクロード様に渡さなければ!

お読み頂き有難うございました。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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