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27/災厄の巣

 とりあえず武器になりそうな物を――と考えて、鞄からフライパンを取り出す。

 間抜けかもしれないけれど、困ったことに私の武器は他に爆弾くらいしかないのだ。


 一応頑丈だし、鈍器にもなるしで、何もないよりはマシだろう。


 立ち上がり、横にいるラフィークと共に蛾を睨みつける。


(うう。気持ち悪い)


 小さいのならまだ良いが、あれだけ巨大だと本当に気持ち悪い。

 でもそんな弱気を言ってる場合ではないのだ。


 フライパンを構え、襲ってきたら叩くつもりでいると巨大蛾がお尻(?)をこちらへ突き出し、何度かそこを動かす。

 何事かと思っていると、液体が降ってきた。


 迷わずフライパンを頭に翳して身を守っていると、手足に火傷した時のような痛みが小さく走る。

 周囲でも、皆が小さく悲鳴を上げている辺り結構な範囲で降ったらしい。


(これって……森の中で見かけた溶け跡の正体!?)


 だとしたら、この巨大蛾が森の異変の原因だろうか。


「上っ!!」


 周囲を見回し、溶け跡の事を考えていると、誰かの叫び声が聞こえる。

 弾かれるように上を見たけれど――もう遅い。


 目前に近づく巨大蛾。


(虫の腹って気持ち悪い)


 そんな感想を抱く事しか出来ず、棒立ちしていると――横から何かが突き刺さり、蛾の態勢が崩れた。

 そこへ私の背後から投げられた槍と二本の剣が、巨大蛾に突き刺さる。


 突き刺さった勢いで吹っ飛び――地面に落ちてもなお、巨大蛾は動き続けた。

 体液を撒き散らし、気持ち悪い音を鳴らし、ジタバタと藻掻く。


 そこへやってきたジャスさんが、刺さっていた剣を一本引き抜き、頭部へと改めて突き刺す。


 普通、頭を破壊されて生きている生き物なんていない。

 だというのに、ソレはまだ動き、悲鳴を上げ――やがてようやく動きを止めた。


 安堵のため息が聞こえる。

 自分か、それとも周囲全員か。


 一部始終を見守りながら――私はその場に崩れるように座り込んでしまう。

 足の力が抜けたのだ。


 気持ち悪かったし、怖かったし、危機を目の前に何も出来なかった自分が、悔しい。


「シア、大丈夫?」

「えぇ……だい、じょうぶ。……ちょっと怖かったけれど」


 オズちゃんの問いに、答えて槍と剣の刺さった巨大蛾を見る。

 ソレは、クロード様とウォードの武器だ。


 とっさに、攻撃してくれたんだろう。


 そして巨大蛾には矢が一本刺さっていた。

 あの時、体勢を崩させたのはきっとこれだ。


「最初の、弓でジャスさんが助けてくれたんですね」

「……すげぇびっくりしたよ」

「クロード様とウォードも、ありがとうございます」

「当たり前の事をしただけです」

「君も助けてくれただろう?」


(……あぁ、皆無事だ)


 ようやく身体に力が戻ってきた気がする。

 ラフィークもいつの間にか、小さくなって私の足元にすり寄っていた。


 さっきの巨大蛾の攻撃を受けたせいか、少し毛並みが荒れている。


 とりあえず、皆の治療をしながらジャスさんの報告を聞くことになった。


 どうやら彼は彼で、先程倒した巨大蛾を小さく―― 一般的なサイズよりもちょっと大きい程度の蛾複数に襲われていたらしい。


「毒は大丈夫だったのか?」

「あぁ、大抵の毒は基本効かないから大丈夫だ。

 即死するような奴だと流石に不安だけれど……あれくらいならな」


 どうやらジャスさんは毒に耐性があるらしい。

 ……王族は毒殺を防ぐために、毒を摂取する事があると聞いたけれど、似たようなものだろうか。


 気にはなるが、今はそれよりも現状把握の方が優先だ。


「んで、どうにか倒して、洞窟を見つけて、中を軽く見た後、戻ってきたら皆が襲われてたから弓で攻撃したって感じだな」

「なるほど……。それでジャス、洞窟と言ったが中は見たか?」

「見た。見たけれど、お前らも見たほうが早い」


 そう言って、彼は巨大蛾に視線を向ける。

 恐らく、この生き物に関係のある物がそこにあるのだろう。


 手当を終え、ジャスさんに案内をしてもらい洞窟を進むと――ソレがあった。


 大小様々な夥しいほどの卵と蛹。

 そしてその中央に、洞窟の天井が抜けたのか、太陽の光を受けて存在する巨大な蛹。


 一際巨大な蛹はそれこそ、馬や牛がそのまま入れそうな程だ。

 オズちゃんの小さな悲鳴が聞こえる。

 虫にはそれなりに耐性がある方だけれど、私でもこの光景は悲鳴を上げたくなるのだから仕方ない。


 ぱき、と小さな音が聞こえる。

 皆が一斉にそちらを向くと、蛹の中から何かが羽化し始めていた。


 ウォードが走り、即座にソレに剣を突き立てる。

 ――先ほどと同じ様に、少しだけ生きながらもやがて、それは死んだ。


「……これ、先程のと同じ……ですよね?」


 中身を剣でそのまま引っ張るように取り出すと――蛹から出てきていたのは、先程の巨大蛾と同じ。

 違うのは大きさが、先程の蛾よりも大きく大型犬くらいという事だろうか。


「さっきのより大きくない……?」

「形は同じだが……成長速度の問題か……?」

「同じ虫がさらに変化した……いや進化したのでしょうか? さっきのを第一世代とするなら、これは第二世代……ですかね」

「じゃあ、世代を重ねることで進化してるの……?」


 きっと皆現実を見たくないんだろう。

 眼の前の問題にだけ、集中してる。


 でも、誰かが言わないといけないのだ。


「――あの、同じ見た目の蛹はたくさん、ありますよね」


 そう言いながら、私は蛹を指差す。


 周囲には孵った後らしい、夥しいほどの大きさの違う卵の殻と、羽化した後の蛹が山程ある。


 これが全部孵ったかと考えると気持ち悪い。


 恐ろしいのはそれだけじゃないのだ。


 中央に座す、他とは一線を画した超巨大な蛹。


 他の蛹には中身があるように見えるが、これには中身があるように見えない。

 それが意味するのは、すでに羽化済みで、私達が倒した蛾よりも巨大だという事実だ。


 オズちゃんも想像したのだろう、がくがくとしつつ私の服を掴んでくる。

 ……彼女の場合は、光景そのものが脅威というよりは怖いんだろうけれども。


 でも実際にその状況を想像したら、私もすごく気持ち悪いし怖いと思うので気持ちはわかる。


「とんだ厄ネタだなおい……」


 かすれた声でクロード様が呟く。


 状況は最悪。

 ――街に危険が迫っている。

お読み頂き有難うございました。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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