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25/森の奥

 黙々と森の中を進む。

 相変わらず静かで私達の足音ばかりが響く。


 ノームさんと出会った辺りは、すでに通り過ぎて大分経っている。


 空を見上げれば、大分日が傾いているので、そろそろ野営の準備が必要かもしれない。


「……あまり暗くなる前に野営の準備をしたほうが良いかもしれませんね」


 同じことを考えたのか、後ろを歩くウォードが言う。


「確かに。ジャス、良さそうな場所がないかちょっと周囲を見てこれるか?」

「分かった。少し待ってろ」


 クロード様が尋ねると、ジャスさんは二つ返事で頷いて一人進んでいく。

 少し心配だけれど、森歩きは一番慣れてるようだから、彼一人の方が安全なのだろう。


「ジャスが戻るまで、一旦休憩しないー?」


 疲れた声でオズちゃんが言う。

 彼女には森歩きが大分堪えたみたい。


 苦笑しながらクロード様の方を見ると、彼も同じ様に苦笑して頷く。


「オズちゃん。お茶どうぞ」

「ありがと」


 水筒を取り出して、彼女に渡す。

 クロード様とウォードにも渡して、最後に自分の分を飲む。


 森の中が涼しいとはいえ、それでも歩き続けていればやっぱり暑い。

 冷えた飲水がすぅっと身体に馴染む感覚がした。


(生き返るわ……)


 私もそれなりに疲れていたようだ。


 そんな事を考えながら、道中で知り得た情報をメモ帳でもう一度確認する。


 まず、上層――街から比較的近い距離。


 生き物の気配をほとんど感じない状態だった。

 ただ、狩人が狩りをするのもこの付近が多いため、ある程度は良くあることとも取れる。


 それと葉がよく喰われた跡を見かけたので、虫はそれなりにいるみたい。


(……でも、セミの音もほとんどなかったのよね……)


 だというのに、葉を食べる虫だけ残っているのだろう?

 それは少しおかしい。


 とりあえず上層部分についてはこんな所だろうか。


 次は中層。つまりは今私達がいる付近。

 街に帰ることを考えると、日帰りの限界距離がこの辺りになる。


 今の所上層と状況はほぼ変わらない。

 ただ、付近の葉だけではなく、石や木の一部に溶けたような跡が見かけられた。


 これが意味することが何なのかは分からないが、とりあえずの情報としてはこんな所だろうか。


(うーん……何が起きてるんだろう)


 何か異常が起きているのは分かるのに、それがはっきりしないというのは、なんだかモヤモヤする。

 それに得体の知れない何かがいるような気がして、やはり怖い。


 考え事をしながらジャスさんを待っていると、足音が聞こえてきた。

 しかし彼ではない気がする。彼は音をあまり立てない歩き方をするし、ラフィークが警戒しているという事は――


(――他の何かが来る?)


 そう考えたのと同時に、クロード様とウォードも警戒態勢を取る。


 私も同じ様に何が出てくるのか見守りつつ、道具に手を伸ばして――それは現れた。


 唸り声を上げ、ゆっくりと近づいてくるソレはファングウルフに見える。

 ただ、彼等は群れで人を獲物を襲うはずなのに、一匹だけだった。


 それに妙に弱っている。


 それは間違いではなかったようで、私が相手の姿を確認するのと同時に、クロード様とウォードが動いて瞬く間に倒してしまった。


 二人共更に周囲を伺うけれど、ラフィークが警戒を解いたことだし、多分もういないのかな。

 ほっと安堵のため息を付いてから、オズちゃんの方を見た。


 ……どうやら疲れ切っていて、今の騒動にも気づいていないみたい。


「大丈夫? オズちゃん」


 声を掛けると、億劫そうに顔を上げてくる。

 うん。あまり大丈夫そうではないみたい。


「とりあえず休んでて」


 私の言葉にゆっくりと頷いて、そのまま休憩を続ける。

 まぁ、さっきの騒動に気づいてないなら、それはそれで問題ないだろう。


 ひとまずオズちゃんの様子は置いておくとして、クロード様達の方へと視線を向ける。

 どうやら、先程の魔物の様子がおかしいことに彼らも気づいていたようで、倒した魔物の様子を調べているみたい。


「そちらはどうですか?」


 声を掛けると――うん。声を掛けないほうが良かったかしら。

 二人は魔物を解体していた。ちょっと気持ち悪い。……仕方ないけれど。


「あ、ごめん」

「いえ、私が不用意に近づいたんですし」


 苦笑しつつ視線をそらす。

 解体はまだ苦手で、あまり好ましいことじゃない。


 ……でも冒険者のお仕事してるなら、慣れた方が良いだろうし、出来るようになった方がいいんだろうけれど。


「えっと、何か分かりました?」

「……そうですね、この個体はもともと怪我をしていたようです」


 私の質問にウォードが答える。

 弱ってるとは思っていたけれど怪我だったんだ。


 ウォードによると、怪我は腐食しているような状態であり、また毒に侵されてじわじわと生命力を失っているように見えるらしい。

 ちょっと見ただけで、そこまで分かるとは凄い。本当に彼は優秀だ。


 それにしても……腐食?

 道中で見た、溶けたような跡と何か関係あるのだろうか。


「おーい、帰ったぞー」


 そうこうしていると、今度はジャスさんの声が聞こえる。

 すぐに彼の姿が見えた。多分先程の声掛けは、こちらが間違えて攻撃しない配慮だろう。


「お帰りなさい、ジャスさん」

「こっちでも何かあったみたいだな」


 ウォード達の方へと視線を向けて、ジャスさんが言った。


「”も”ってことは、偵察で何か見つけたのか?」

「あぁ。とりあえず奥に行くのは明日にした方が良い。

 先に進むと結構な死骸があったから、気分悪くなると思う」

「死骸……?」


 なんとも物騒な……。

 ジャスさんが続けて説明すると、この先の方は動物、魔物問わず、死骸を良く見かけるという。

 死んでから大分期間が空いてるようで、夏というのも相まって結構な腐食が進んでいるとか。


 確かにそういう状況ならば、野営は避けたい。


「それから、やっぱりこの辺の薬草もかじられた跡が多かった。

 未熟な物も多かったし、人間が採取したというよりは、噛みちぎった感じだな。これは道中見たのと同じ原因だと思う」

「なるほど……。助かった、ジャス」


 報告を聞いてクロード様が彼を労う。


 結論として、少し早いけれどこの辺りで野営する事になった。

 奥地で野営するには少々危険が伴うし、ちょうど良かったのかもしれない。


 そんなわけで皆で食事を取って、就寝準備を始めることに。

 男性陣は焚き火に追加するための薪拾い。私達は野営の準備だ。


「この辺なら、テントというか小屋を作っても大丈夫かな」

「……あたしの聞き間違い? 今小屋って言った?」


 横で野営準備をしようとしていたオズちゃんが、訝しげに私を見てくる。


「うん。今回に備えて、これを作ってみたの」


 そう言って、私は”黄水晶の石鎚”をオズちゃんに見せてから、髪を一本抜いて錬成瓶へ。

 魔力の液体が出来たら、黄水晶部分に掛けると淡く黄色に輝いた。


「ちょっと離れててね」

「え、えぇ」


 オズちゃんが下がったのを確認すると、私は地面を石鎚でとんと叩く。

 叩いた場所のすぐ後ろから石壁が地面から生えるように生まれた。


(よし。少し魔力消費量を多くすればちゃんと大きいのが出来るわね)


 一応畑で小さいのを作って実証済みだったけれど、魔力を込めれば大きい物も作れるとこれで実証された。


 何度か同じように石壁を作り、四角になるように三辺作って、最後の一辺は入り口だからそのままに、天井を作るべく、天井の辺りを石鎚でもう一度叩いて……。


「――これで完成っ!」


 手元の石鎚に視線を向けると、まだほんのりと淡く輝いているけれど、最初に比べたら大分弱々しい。

 二人でゆったり、三人だと少し狭い、くらいの大きさで作ったから結構魔力を消費したようだ。


「……あんた、本当に何でも作るわね」

「便利でしょう?」

「魔術師の立つ瀬ないわね。……でもこういう地魔術の応用はありかも」


 ぶつぶつと呟きながら考え込むオズちゃん。


 蒔き拾いから帰ってきた面々は、とても驚いていたが、便利だねと褒めてくれた。


 その後は入り口部分近くに突起を石鎚で作って、紐で布を吊るして簡単なカーテンに。

 虫除け香水を忘れずに入り口に置いての就寝。


 野外での野営は初めてだったけれど、思ったよりは快適に過ごせた。やはり頑丈な壁があると安心感が違う。


 夜の見張り番は、男性陣が買って出てくれた。

 三人いるし、交代制にすれば問題ないと言ってくれていたので甘えてしまったのだ。

 一応、オズちゃんが周囲に警戒用の魔術を施してくれたというのもある。


 そんなこんなで、私はゆっくりと体を休めることが出来たのだった。

お読み頂き有難うございました。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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