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24/調合と、調査開始

 クロード様の依頼から数日。


 オズちゃんや、ウォードからは快諾してもらい、ジャスさんに関してもお師匠様から許可と彼自身のお返事を貰った。


 最低でも一泊二日という事で、準備は入念にしないといけない。

 まずは食料と、携帯食料。それから野営道具。


 幸いなことにウンディーネの力を借りれば、水には困らない。……まあ、念の為持っては行くんですけれど。

 それから軽く調理道具もあった方が良いだろう。鍋があれば良いかな?


(そういえば、よく考えるとお泊りで採取に向かうのって初めてかも……)


 寝る時の虫よけ香水はあったほうが良いと思う。

 それから……何が必要だろう?


 ちょっと不安だったので、泊りで遠出したことがあるらしいオズちゃんに話を聞いて参考にさせてもらう。


(こんなものかしら)


 リュックが結構なサイズに膨らんでいる。

 あれもこれもと考えていたら、結構な量になってしまったのだ。


(……まあ、これくらいなら背負って走るくらいは出来るし、問題ないかな?)


 幸いなことに、お師匠様との訓練では荷物を背負ってのマラソンもあった。

 今でも畑に行く時などに走り込みをしているので、まだまだ衰えてはいないと思う。


(――よし。後はこれね)


 問題がないのを確認してから、”悠久の黄水晶”の調合について考える。


 やはり”浄化の雫”と同じくアクセサリーにするのが良いだろうか。


 今回は具体的な何かというイメージが無いので少し難しい。


 しかしよく考えてみると、ウンディーネの時は解呪道具を作ろうとした結果、あの指輪を作った。

 だけれど、実際にはその能力はあるものの、ウンディーネを呼び出すことによって色々な事が出来る。


(……なら、具体的にこれといった物を決めなくてもいいのかも)


 ”浄化の雫”の事を考えるなら、このままでも良いかもしれない。

 ただ、丸みのままでは落としやすいし、ノームさんを呼び出す事くらいしか出来ないだろう。


(それに……調合の材料にすることで、私の魔力を馴染ませているのよね)


 むき身の状態で持ち歩くよりは、やはり調合で魔力を注いだほうが良い気がする。

 となると、どんな道具にするかだ。


 お師匠様は良く、イメージが大事だと言っていた。


 ならば、私はこの”悠久の黄水晶”に何を求めるのだろうか。


 一つはノームさんに力を借りるための窓口。

 それが出来れば、いざという時に頼りになる。


 ただし、これは調合素材にすれば多分問題なく出来るようになるはずだ。


 なら別の何かを求めた方が良いだろう。


(土……土は……確か、成長、再生、崩壊、防御……がカテゴリに入っていたわよね)


 この中で自分に必要な物。


 再生はイメージが湧かないのでなし。崩壊は危険な気がするから当然却下。

 成長……は、植物を育てるのに良いかもしれないが、どうなんだろう?


 畑の事を考えると、とりあえずノームさんが居れば良い気がする。


(となると……防御?)


 消去法だけれど、意外としっくりした。


 攻撃は爆弾もあるし、問題ない。

 今私に出来る防御はウンディーネによる、氷の壁だけ。


 精霊を呼ぶには、錬成瓶で魔力液を作る必要があるので少し手間だ。

 それが省略出来るのならば、なかなか良い気がする。


(次は……どういう形にしたいか、かな)


 魔術での防御は、魔力でのコーティングだと聞いた。


(……でも、土でそれはちょっと……)


 土を固く出来たとしても、鎧みたいにして身につけるのは何か違う気がする。


 やはり、利便性は下がるかもしれないが、土なのだから大地から何かする形が良いだろう。


(防御……防御……――あ、壁なら良いかも)


 大地から生える壁なら、攻撃を防ぐ盾として使えるだろうし、他にも使い道がありそうだ。


 次に必要なのは、どういう形にするか。


 解呪道具の時には”祈り”をキーワードに指輪という形を選んだ。

 ならば、今回は?


 装飾品にできるのなら、持ち歩く分には楽だろう。

 ただ、壁を作る動作となると、装飾品というのはなにか違う気もする。


(地面に何かするのが動作としてはそれっぽいよね……?)


 掘る、叩く、触れる。


 思いつくのはこれくらいだろうか。


 掘る……だと、スコップかシャベル。問題は大きくなりそうで困ること。

 叩く……だと、ハンマーか金槌だろうか。大きさはまぁ良いかもしれない。

 触れる……だと、手袋か何かだろうか。……黄水晶をどうやって扱おう?


(……なら、叩くが無難かな?)


 それならさっきは要らないといった”崩壊”の要素――の一歩手前である”破壊”を付与するのも良いかもしれない。

 対象を無機物のみにして、使用には魔力を流す必要があるという形にすれば、多分ご作動も防げる。

 土壁を作り出すのも、魔力を流してから地面か壁を叩けば飛び出る形にしたら良いだろうか。


(――中々良いのでは?)


 気分が乗ってきたので、他に必要な材料などを書き出して、お師匠様に提出してレシピ作成の許可をもらう。


 次の日一日掛けて、”黄水晶の石鎚”を作った。

 頭部が黄水晶で出来てるので、ぱっと見た感じは全く石鎚っぽくはないけれど……まぁ、問題ないと思う。


 街の外で試しに使ってみたけれど、問題なく壁が出せたし、石も壊せた。

 ついでに、ノームさんの呼び出しも可能だったので一安心。


 これで準備は万全だ。


* * *


 黄水晶の石鎚を作ってからさらに数日後。


 私達は森へと向かう。


 同行者は前もって決めていた通り、私、クロード様、オズちゃん、ジャスさん、ウォード……と、猫のラフィーク。

 道中は特に問題なく進めている。


 ……むしろ少し順調過ぎるだろうか。


「ちょっと静か過ぎません?」

「確かに」


 思わず出た言葉にクロード様が同意し、他の皆も頷く。


 別に何にも遭遇せずに、戦闘にならないのがおかしいわけじゃない。

 魔物ならば襲ってくるかもしれないけれど、動物であれば基本的には向こうが避ける。


 そして魔物の絶対数はそこまで多くない。


 だから戦闘にならないのは別におかしいことじゃないし、問題もない。……何より安全だし。


 問題なのは、静かすぎること。


 さっきからほとんど動物の気配がしない。

 森の中に居るというのに、鳥の鳴き声も虫の音もないのはどう考えても変。


 聞こえてくるのは葉擦れの音と、私達の足音くらいだ。


 現在地は、以前ノームさんと出会った中層より少し手前。

 街の近くでならもともと少ない方だけれど、ここまで来たらむしろ多いはず。


「……思ったより深刻なんじゃない? この状況って」

「確かに。異常と言えます。――確か他にも調査隊を派遣したのですよね? いつ頃のことですか?」

「えーっと……この間上がった報告が一週間前だったかな。

 確かにその時も、森の生き物が減少している印象があるって報告があったと思う」


 顎に手を当て、クロード様が少し考えてから答える。


 一週間前から予兆があったとすれば、全滅したというよりは逃げたという事だろうか。


 ……では、何から?


「とりあえず異常があるのは確定だな。

 こういう変化って、過去にあったか?」


 ジャズさんの問にもう一度考え込むクロード様。

 しかし、すぐに心当たりがあったのか顔を上げて言った。


「――ある。強い魔物が現れた時だ」


 皆が息を呑む。


 私も身体が緊張して強張るのを感じていた。


 森の生き物が逃げるほどの、”強い魔物”とはどれくらいなのだろうか。

 情報でしか知らないけれど――竜とかだったりするのだろうか。


 竜にも強さには色々あるので、一概に倒せない相手とは言えないと聞くけれど……。


(……でも、竜とは限らないし……)


 怯えるように早くなる胸に手を当てながら、私はクロード様を見る。

 他の皆も、同じ様にどうするのかと彼へと視線を向けていた。


「本来なら、一度戻って騎士団で調査を再開するか、高ランクの冒険者に依頼を出すべきだとは思う。

 ――だがたった一週間でこの変化だ。調査隊を用意するには、時間がかかる」


 真面目な顔で皆に告げる。


 皆何も言わずに、彼の言葉をじっと待つ。


「……だから、このまま調査を続けたい。

 無論、明らかに危険だと判断すれば撤退するし、これ以上は無理と判断したら退くつもりだ。

 ――どうか、協力してもらえないだろうか」


 そう言って深く頭を下げるクロード様。


 彼が領主一族だと知ってるのは、私とウォードだけ。

 立場を考えれば、気持ちはよく分かる。

 私自身、調査は続行するべきだろうと思う。


 ジャスさんやオズちゃんをちらりと見る。


 彼等はクロード様の正体を知らない。

 それでも、彼が頭を下げて我々に頼んでいるのは良く分かると思う。


 見つめてる間も、クロード様は微動だにせずじっと私達の反応を待っているのだ。

 きっと、ここで断られても怒らないだろう。

 もともと危険がある程度ある可能性はあったが、そこまでとは彼自身考えてもなかったのだから。


「――ま、放置しておくとヤバイのだけは確かだしな」

「そうねー。流石にここで逃げるのはちょっと早いと思う」

「街の事を考えれば、確かに退くのは早すぎます」


 ジャスさんが苦笑して。

 オズちゃんが笑いながら。

 ウォードが真面目な顔をして。


 それぞれ了承するように言った。


 クロード様が顔を上げる。

 困ったような、嬉しいような、なんとも言えない複雑そうな笑みが浮かんでいた。


「私ももちろん異論ありません。

 さ、クロード様。――調査を続行しましょう?」


 そう言って微笑むと、彼も柔らかく微笑んで頷いた。

お読み頂きありがとうございます。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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