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21/薬草畑が荒らされた



 薬草畑は順調な成果を上げている。

 最初の収穫を終え、領主様に納品された薬草のおかげで、ある程度は需要と共有にいい影響を与えられたという。


 このまま、二回目三回目の収穫も、頑張っていこうと思っていたその矢先のこと――


 眼前に広がる薬草畑。

 その一部が荒らされていた。


 力任せに千切ったような感じで――人とも動物との仕業とも思える。


 この畑の警備体制ははっきり言って甘い。

 だが、それでも領主の私有地とはっきりと示してある場所に入り、そこから物を盗む人間がいるとは思えなかった。


 そんな事をすれば、良くて領地からの追放、最悪処刑になってしまう。

 これは領主へ反抗する者に対しての見せしめでもあるので、絶対に領主はその犯人を捕まえて罰する。


 今は需要があるとはいえ、たかが薬草。

 一つ辺りの値段を考えれば、命を掛ける程のものじゃない。


 それもあって、昼間は子供達の安全確保の意味も含め、騎士団員による警備もあるけど、夜はまったくの放置だった。

 柵のような塀では、動物は防げないだろう。


 ノームさんが森の畑でやっていた目くらましは、彼(?)自身の能力ではなくてドリアードと呼ばれる植物の精霊の力らしいので、それを当てには出来ない。


(防虫対策はしたけど、そっちの対策をしてなかったのが裏目に出たな……)


 しゃがみこんで、薬草の状態を確認する。

 千切られてはいるけど、一応まだ葉を付けてくれそうだ。


「シアさん、どうしましょうか」

「そうね……動物対策に何かした方がいいかも……」


 二回目の収穫は目前。

 このまま何も対策しないで、動物がここを薬草のある場所と認識してしまえば、今後の収穫にも差し支えるだろう。


 それでは困る。

 この畑のお陰で、薬草不足は多少解消されつつあるが、恒常的に行えなければそれも焼け石に水。

 またすぐに品薄の状態が続いて、水薬が高くなってしまう。


(それに何より――畑を荒らされるのは凄く悲しい)


 子供達の努力が無駄になるのも嫌だし、畑を荒らされて困窮する故郷の領民を思い出す。


 あれは見ている方も辛い。しかも今回は自分がそちらの側。

 こんな被害が続くと、絶対に気が滅入る。そして泣く。


(えっと……動物被害を減らす方法は……)


 昔習った知識を必死に思い出す。


 一、近寄らせない。


 これは、被害のある動物がまず、周囲に近寄らないように食料になるものを間引いたり、嫌いな匂いを周囲に設置する方法。

 予防の面が強い手段で、特定の動物が相手なら効果もあると思うけど――今回は何が犯人か良く分からないので難しいかもしれない。


 ニ、見えなくする。


 柵に板を貼り付けるなどして、視界を防ぐことでその先に餌(今回は薬草)があると気づかせない方法。

 ……今回与えられた範囲が広いので、それを出来るだけの板を用意するのが正直難しいかも。


 三、罠を使う。


 捕まえる、ないし脅す方法。

 前者であれば、落とし穴だとか檻だとかの少々攻撃的な手段になり、後者であれば鳴子などを使って脅かしたりする。

 後は退治するという意味で、毒の入った餌をわざと用意する手段もある。――けど、今回それはちょっと使いにくいな。


 だって怪我をしたから薬草を求めに来たのに、それを殺すというのは流石にあんまりな気がする。

 もちろん、薬草を求めてきたのを追い返したら、結局死ぬかもしれないのは分かっているけど。


(……現実的なのは、脅かして逃がす、かな?)


 鳴子であれば、用意は簡単。

 真っ暗だし、引っかかると思う。

 幸いなことに、街から離れているから大きい音を立ててもさほど問題もないし。


(あとは……錬金術でトリモチっぽい物を作って配置すればいいかな)


 逃げずに突撃してきた動物をそれで捕獲し、次の日に保護してから怪我を治療して外に放せば良い。

 ……いや、それだとまた来てしまうから脅かさないといけないだろうか。


(でもまぁ……あって損はないわよね。毒よりは良いだろうし)


「――さん、シアさん」


 ふいに耳元でウォードの声が響く。


「どうしたの?」

「いえ……話してる最中にいきなり黙ってしまったので……」

「あら、ごめんなさい」


 また没頭して考え事に夢中になってたみたい。

 うぅん。治さないとなぁ……。何度思ったことか。それでもなかなか治らないから癖なのだろうけど。


「それでどうしましょうか」

「罠を設置しましょう。鳴子とトリモチを柵の外と内にしかけようと思うの」

「なるほど。――では何から取り掛かりましょうか」


 鳴子の仕組みは簡単だ。

 長いロープを複数と音を出すための仕掛け。


 音を出す仕掛けも、堅くて乾いた音のなる木材があればいい。

 これならば、ウォードや子供達に任せきりでも問題ないと思う。


「子供達と一緒に鳴子の作成と、その設置お願いしてもいいかしら?

 必要な材料は後で届けてもらうから、まずは材料の必要量を計算しておいて頂戴」

「はい。かしこまりました」


 二つ返事で頷き、彼は子供達に指示を出していく。

 少し経てば買い出しの準備も整うだろう。


 その間に、私は畑の一番奥へ向かった。


 私達が世話をしている畑とは別に、少しだけ離れた位置に用意された畑。

 これがノームさん用の薬草畑だ。


 一番奥だったからか、幸いなことに被害は特に受けていないみたい。


(良かった)


 ほとんど無償で手伝ってくれてるのだし、被害がなくて本当に良かったと思う。


『おい、娘っ子』


 ふいに足元からノームさんの声が聞こえる。


「あ、こんにちは。ノームさん。こちらは無事なようで何よりですね」


 笑って言うと、彼(?)は目を瞬いて私を見上げた。

 その後、被害のあった畑の方を見る。


『あちらは被害が出たみたいじゃの』

「えぇ。動物対策に今準備をしてるところです。今日中に準備出来るといいんですけど……」


 鳴子は簡易な物であれば、すぐ用意出来ると思う。

 問題なのは、トリモチ。作るのにどれくらい時間がかかるだろうか。


『わしは二回目の収穫を今日のうちにさっさかやるのをオススメするがの』

「今日のうちに、ですか? まだ収穫には少し早そうですけど……」

『被害が拡大していいなら、そのままでも良かろ』


 そっぽ向いて、髭をいじりながら言う。


 確かに対策が間に合ってないうちに、また被害が出るのは避けたい。

 少し未熟だけど、収穫出来ないほどでもないし、ノームさんのアドバイス通り収穫したほうが良いかも。


「そうですね。皆に話して収穫してもらいます」

『それが良いじゃろうな。――畑を守れるかの?』

「頑張って守ります」


 どこか試すように言うので、私は決意をもって答える。


『――なるほどの。ちゃんと畑を守れたら認めてやるかの』

「認める? 何をでしょう?」


(農家としてかな。……薬草だから、花農家としてと言ったほうが正しい?)


 内心で首を傾げていると、ノームさんはとても楽しそうだ。


『おんしが守りきれるか、楽しみにしておるからの。

 期待はずれにならんよう、頑張るんじゃぞ』

「はいっ!」


 元気よく返事をして、私はウォードたちに二回目の収穫を早める事を提案しに行く。

 そして鳴子を設置して、数日の間は何も問題はなかった。



* * *



 三回目の収穫を迎える間際の事。

 数日前にトリモチを設置して、今日までは何も問題はなく、畑へ被害もなかった。


 鳴子が効いたのだろう。


 そう――思っていた。


 眼前に広がる、薬草畑の半分程の面積が荒らされている。

 葉を千切っているのもあれば、一株丸々掘り起こして持っていかれた形跡もあった。


 決め手になったのは、トリモチに残された片方だけの靴。


 ――犯人は人間だ。


 最初から思い違いをしていたらしい。


 周囲で皆が何故か私に怯えている気がする。

 しかし、そんな事は今はどうだって良いんです。


(――絶対に許さない……っ!!)


 うちの畑を荒らす奴は絶対に捕まえるんだからっ!!



お読み頂きありがとうございます。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
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