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20/横柄な客がやってきた



 乱暴に開かれる扉から現れたのは、少々柄の悪い二人の男性。

 目つきの悪いままに、店内を――というか、子供達を睨んでから私を見て、口元に笑みを浮かべて怒鳴りだす。


「おうおうここで買った水薬、全然効かなかったんですけれどぉー! ただの水なんですけれどぉ!」

「どぉしてくれるんだぁ!? 返金? おいおい、俺の仲間は怪我して入院しちまったんだぜぇえええ」


 ……物凄く失礼なお客さんだ。


 というか、私を睨みつけるのはともかく、子供達を睨むのは止めてほしい。

 怯えてクロード様やセドリック様の背後に隠れてしまってるじゃないですか。


 内心眉をしかめつつ、二人の顔を観察する。


(開店してからはずっとお店に出てるけど……見覚えはないかな)


 つまり、さっきの言葉は完全に嘘。

 何より私は、作ったものにそれなりの自信と責任を持っている。


 私が何も言わなかったのを怯えと捉えたのか、彼らはさらに調子に乗って商品を掴む。


「落とし前つけてもらおうじゃねーか。このアイテムは賠償には良さそうだなもらっていくぜ」

「困りますっ!!」


 流石に止めようと叫ぶけど、男性の一人がカウンターをどんと叩いて、再度私を睨みつけてくる。

 その上で、先程と同じように、「この店の商品は駄目だ、ゴミだ」等とまた言い出してきた。


 カウンターを叩かれた瞬間、私が少し怯えてしまったのも原因だろう。

 調子に乗らせてしまったから、これ幸いとグチグチと嘘八百を得意げに彼は語っている。


(――でも、いくらなんでもやりすぎでしょう?)


 先に暴力に訴えれば、こちらが不利になるとちゃんと分かっている――けど。

 いい加減、我慢も限界です。


(うちの子達を怯えさせないでっ!)


 カッとなって、カウンターから出てかんしゃく玉を使おうとした瞬間だった。


「ここの商品は良い品だし、騎士団にも卸してもらっているのだが?」


 そう言いながら、するりと私の前に入ってくるクロード様。

 彼が前にいるので、男性がどんな顔をしているか分からないが、少し戸惑ってるように感じる。


「――そもそも、彼らを見たことある?」

「いえ、ありません」


 私は即座に首を横に振って断言する。

 最初に確認したことだ。子供達にも視線をクロード様は向けるけど、彼女たちも首を横に振った。


「俺の仲間が買いに来たんだよ!!」

「そいつはここの水薬が効かなくて死んじまったんだよ、悲しぃなぁ?」


 先程よりも、若干勢いの削がれた口調で男性達はなおも吠える。

 しかし、気圧されてる時点で彼らの負け。


 クロード様はやや呆れた様子で、ため息と付きながらトントン、と自分の胸元を指差す。

 そこにあるのは、騎士団の一員であることを示す徽章。


 その上で彼はにこやかに言った。


「――業務妨害罪の現行犯だね」


 二人の男性がお互いを見合い、一瞬悩む。

 次の瞬間、彼らが出した答えは――愚かにも破れかぶれに暴れ、逃走する事だった。


 だが、今この場にいるのはセドリック様を始めとする武人の方々。

 彼らは瞬く間に捕縛されて、後ろ手に拘束された。


 鮮やかな手並み。

 一瞬の事過ぎて先程までの少々の恐怖など飛んでいったくらい。


 子供達も同じようで、目を丸くして「すごい、すごい!」とはしゃいでいる。


「申し訳ありません。ありがとうございます」

「いやなに、この程度の事問題ないとも」


 セドリック様に頭を下げると、彼はにこやかな笑みを浮かべて答えてくれた。


「さて、それはそうとしてこの者たちだが――」


 目をすぅと細め、やや怖い印象になった彼が言い切る前に、またドアベルが鳴って扉が開く。

 今度入ってきたのは、少々ふくよかで仕立ての良さそうな服を着た男性とその従者らしい青年の二人。


「何やら騒がしいですね?」


 男性はあまり好ましくない――にやついた笑みを浮かべながら、店内を見回して言った後、取り押さえられた先程の男性二人を見て少し固まった。


 確かにお店の中で、今まさに取り押さえられた人がいたら驚くだろう。


 慌てて「いらっしゃいませ」と言いながら、捕まった人とお客さんの間に立つ。

 そこまで広くない店内なので、ちょっと密集し過ぎ感があるけど仕方ない。


「おやおや。ガラの悪い客が来てしまったようですね」

「お見苦しい所を申し訳ありません。何かご入用な物がありましたら――」

「こうならないためにも、大手の看板を借りておいたほうがいいんじゃないですか?」


 必要な物があれば、案内しますよと言い切る前に、こちらの事など気にせずに彼は続ける。


 さらにお店の商品を見回してから、親切心ですよと言いたそうな笑みを浮かべて提案をしてきた。


「大手商会の――例えばクリボッタ商店の傘下に入ってはいかがかな?

 見たところ、品薄のはずの水薬が不自然に安いですね。適正価格に対しての勉強も出来ますよ?

 それに従業員が子供ばかりで頼りなさそうですから……有名所の下に着けば用心棒も派遣してもらえます。ね、便利でしょう?」


 上から目線の口調に、思わず眉をしかめてしまう。

 接客としては失格だと分かってるけど、流石にこの物言いはどうかと。


 何より彼の口調は、予め言うべき事を考えて来たものを口にしているように感じる。

 それと先程の様子から考えると――


(……もしかして、そこの捕まった人たちをけしかけてきた?)


 あまり人を疑いたくはないが、流れからみてそんな風に感じる。

 何よりうちの子を侮辱するのは止めて頂きたい。


 私は怒りを胸に、彼へにこりと微笑む。


「当店の従業員達は、幼くてもちゃんと教育を受けております。何も問題ありません。

 それに値段もちゃんと適正料金を調べた上で決定していますし、その値段でちゃんと利益も出ています」


 私の渾身の笑みは、圧を感じるみんなの笑顔を参考しただけあって、とても効果があったのだろう。

 彼は少し後ずさって気圧されているようだ。


 だが、私みたいな小娘の圧ではそこまで効果はないようで、なおも彼は食い下がる。


「そんなはずはありません。最近は薬草が取れなくなってきているから、どこも水薬は品薄のはずです!」

「そうですね。確かに最近は薬草の入手が困難になっていると聞いています。

 ですが当店では、独自の入手ルートがございます。だから安定供給が可能で、値段も上げる必要がないだけですよ。

 それに、売る量も一日に一定数しか用意していません。早いもの勝ちになってしまうので、そこまで周囲に迷惑はかけていないはずですが」


 そもそも、他のお店では水薬が品薄なのだから殆ど置いてないのだし、値段が安い分早く売り切れるうちの薬が他の店の迷惑にはならないと思う。

 どうしても必要なら、多少高くても買わざる得ないのだから。


「ですがねぇ」


 尚も言い続けようとする男性に、クロード様が肩をとんとんと叩く。


「今私は話を――!?」


 今まで彼は他のお客さん達を殆ど見ていなかったのだろうか。

 クロード様の顔を見て、一瞬固まる。


 多分彼が騎士団の人間だと知っていたのだろう。

 あからさまに動揺をし始め、そこへクロード様が冷え冷えとした笑みを浮かべて言った。


「親切心での忠告は素晴らしいと思うが、今我々は買い物中でね。

 申し訳ないが、そういった話は後日にしてもらえないかな。

 彼等を詰め所へ連れて行くという仕事もあるから、早めに買い物を済ませないといけないんだ」


 そう言って視線を先程捕まえた男性達に向ける。


 一連の流れが私の予想通り、この人の差金であるならば予想外の展開だろう。

 多分、最初の男性二人に嫌がらせをさせて、自分が助けて恩を売る予定だったんでしょうね。


 何度かどうするか悩んで、捕縛された男性と、私やクロード様に視線を向けているうちに、彼が固まった。

 彼の視線を追いかけた先にいるのは――セドリック様。


 どうやらこの人は、領主様の顔を知っているらしい。


「し、失礼しました!! ごゆっくりどうぞ!!」


 そう言って、瞬く間に逃げて行った。

 付いてきた従者らしい青年は、少しオロオロしてから彼を追いかけて出て行く。


 扉のドアベルが、ガランガランと盛大に揺られ――店内に静けさが戻った。


「……なんだったんでしょう、アレ」

「大方、良さげな商店を自分が囲もうって思ってる奴の差金だろうね。

 正直なところ、大量生産出来ればきっと大儲け出来るだろうし。ここの商品の価値が分かる奴ならそういう行動するのも分からなくはない。

 ただ、ああいう手段で取り込もうとする所はろくでもないから気をつけたほうが良い」


(そんな身勝手な……)


 勝手に自分の都合で、こちらを巻き込むのは止めて欲しい。

 どうやって対策を取れば良いのだろうか。

 お店を開く時に、常にウォードに店に居てもらう――という手段がまっさきに浮かぶ。


 けど、彼にも都合があるだろうし……。


 かといって、これ以上クロード様やセドリック様に何かしてもらう訳にはいかない。

 領主一族が一個人を優遇してはならないのだ。例え懇意にしてようとも。

 一応お店を開いたりする時のは、取引だったからまだ良いけど、これ以上は流石に無理。


 とすると――


「ねぇ、シアちゃん。ちょっと提案があるんだけどどうかな」


 悩んでいると、クロード様が声を掛けてくる。


 彼の提案は他の店でも利用してるシステムに加入するかどうかだった。


 内容としては、騎士団の巡回ルートにお店を入れるという事。

 対価として、月に売上から一定額の納税をしなければならない。


 もちろん、巡回ルートだから多少の変化を混ぜるとはいっても、常にお店に居る訳ではないので、隙きを突かれる可能性はある。

 だが、それでもある程度の牽制にはなるので、危険度はかなり減るという。


 出費は痛いけど、子供達とお客さんの安全のためなら安いものだ。


 私はその提案を受け入れ、契約書を交わす。

 これで一安心。


 ――そう思っていたのだけど……。



お読みいただきありがとうございます。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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