表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/88

15/土の精霊



 念入りに薬草を掻き分けながら、芋虫退治を念入りに行う。


 気がつけば、芋虫の死骸の山ができていた。


 オズちゃんはガクガク震えながら、木の陰に隠れている。


 ……ごめんね。


「なんかすげぇ居たな」

「流石に気持ち悪いですね……」

「えっと……埋めるか燃やすかしましょうか。

 オズちゃんが木の陰から出てきてくれないし」


 ちらりと視線を向ければ、二人共納得顔で頷く。

 正直私もこれだけの山となると、気持ち悪いと思う。


 問題は埋めるのも、燃やすのもオズちゃんが一番上手ということだけど。

 どちらも魔術でいつもやってもらっているし。


 とはいえ、アレだけ怯えてる彼女に手伝ってもらうのは申し訳ない。


 二人も流石にオズちゃんが虫を苦手である事に気づいたのだろう。

 声を掛けるのをためらっているのがよく分かる。


「……どうにか穴を掘りますかね」


 私の持ってる爆弾は、相変わらず凍らせる物と、音が派手な威嚇用の二種類だけ。

 これでは穴は掘れないし、出来たとしても大穴が空いてしまう。


 手頃な木の棒を使って掘ろうとした時、小人のおじいさんが私を見上げているのに気づいた。


「あ、もう少し待ってくださいね。

 これであら方退治出来たのですが、最後にこの死骸を埋めちゃうので」

『それならせんで良い。それくらいはわしがやる』


 そう言って、おじいさんが手をぽんと叩くと突然死骸の山の下に穴が空いた。当然落下していく芋虫達。

 もう一度おじいさんが手を叩くと穴はすぐに塞がった。残っているのは、何もなくなった地面だけ。


「おじいさん凄いですね」

『ふぉっふぉっふぉ』


 楽しそうに笑うおじいさんを、なんとなく微笑ましく見ていると妙な視線を感じたので顔をあげる。


 ウォードとジャスさんの二人が――あと、遠くからオズちゃんが私を驚いた目で見ていた。


「えっと……何か?」

「い、今いきなり穴が空かなかったか?」

「空きましたね?」


 何を当然の事を言うのだろう。


「そんでもって芋虫の山が消えたよな?」

「はい。もうありませんね。凄いですよね」


 驚く二人の意図が良く分からない。

 見た通りだと思うのだけど……。


「シアさんが……やったのですか?」

「っていうか、さっきから何独り言しゃべってるんだ?」

「えっと……?」


 言葉の通りだと、彼等には小人のおじいさんが見えていないのだろか。


 そういえば最初に見た時、おじいさんは「見えるのか」と驚いていた気がする。


「……もしかしてこちらにいる、小さいおじいさんが見えません?」


 おじいさんの近くでしゃがみこんで、手でこの辺りと示すが、二人共目を細めるだけで、何も言わない。


『仕方ないのぅ』


 おじいさんが呟いてから、手をぱんと叩く。

 特に何か変わった感じはしなかったけど、ジャスさんとウォードにとっては何か違いが出たらしい。


「うわっ!? なんかいる!?」

「し、シアさんっ!! そこを離れて下さい!!」


 驚くジャスさんに、私の腕を取って引き寄せるウォード。


「もしかして見えてなかったんですか?」

「っていうか、見えてたなら言えよ!?」


 確かに芋虫退治に熱中していて、説明していなかった気がする。


「えっと、このおじいさんはこの薬草を育ててる人……人なんですかね?」

「明らかに違うだろ!?」


 叫ぶジャスさんに、こくこくと頷くウォード。


「はぁ……とりあえず頼むから、害がなさそうでも報告はしてくれよ。びっくりするだろ」

「すみません。芋虫退治に熱中してました」

「――そいつ土の精霊よ」


 ふいにオズちゃんが声を掛けて来た。

 どうやら死骸の山が消えて、やっと落ち着いたみたい。


「土の精霊……そうなんですか?」

『おう。そこの娘っ子の言う通り、わしゃ土の精霊”ノーム”じゃ』

「精霊さんでしたか……。えっと、私はシアと申します。

 ――ところで、先程の約束通り、薬草を分けて頂いてもいいですか?」

『約束だしの、構わんぞい。

 じゃが、あまり量を持っていかれると困る。

 最近あの芋虫がしょっちゅう来ては、この薬草を喰いよるんでな。

 今日はおんし達が退治してくれたから良いが、育てるのに時間がかかるのでの』

「はい。分かってます」

「――ねぇ、ちょっといい?」


 実際にどれくらい貰って良いのか、教えてもらおうとした時オズちゃんが声を掛けてくる。


「どうかしました?」

「ノームに質問なんだけど、視覚のごまかしは人が入ってこないようにしてたのよね?」

『そうじゃよ。完全に隔離してないのは、動物たちのためじゃな。生きていく為には薬草は必要じゃろう。

 稀に人間が入ってきてもまぁ、少し持っていく位ならば、文句も言わんが……根こそぎ持っていくようなら、攻撃しようと思って見ておったぞ』


 ……危なかった。

 いや一応、量を採るつもりはなかったから大丈夫だったかな……?


「なら、魔術の強化はしなくていいわね。

 代わりと言っちゃ何だけど、虫除けしたら良いんじゃないの?」

『それが出来るなら苦労せんわい。わしに出来るのは土いじりじゃぞ』

「……あ、それならウンディーネに力を借りたら出来るかもしれないですね」


 そう言って、私は髪を抜いて錬成瓶に入れ、魔力の液体を作り上げてウンディーネを呼び出す。


『こんにちは契約者。――あら。ノームではありませんか。久しいですね』

『直接あうのは久しぶりじゃな。お主、この娘っ子と契約しておったのか』

『えぇ、そうですよ。……所で何か御用ですか?』

「あのね、ウンディーネ。ノームさんが育ててる薬草を食べる害虫がいるの。

 近寄らなくなるように防虫剤作るから、それを強化することって出来る?」

『ぼうちゅうざい……?

 良く分かりませんが、元が水に属するのであれば強化は可能かと』


 液体を基盤に作る予定だったから、問題はなさそう。……良かった。

 ほっと胸をなでおろして、ノームさんを見る。


「では後日防虫剤を用意しますので、それまでは芋虫退治を頑張って下さい」

『……おんし、わざわざまた来るのか?』

「芋虫被害は身につまされますし……。その時にまた、少しだけ薬草を分けて頂ければ嬉しいです」


 にこりと微笑んで言う。

 完全に無償というわけにはいかないけど、どうやら森全体で薬草不足みたいだし、ここで確実にある程度手に入るのならば十分私にとって利はある。


『……なるほどの。おい、水の』

『なんでしょう? ノーム』

『面白い人間を見つけたの』

『えぇ。お気に入りです』


 ……私は彼等にとって愛玩動物か何かなんだろうか。

 精霊の感覚って良く分からない……。

 でも長く生きる彼等から見れば、私は子供も子供なんだろうし仕方ないのかな。


『ふぉっふぉっふぉ。では、おんしが次に来る時を楽しみに待っておるぞぃ』

「はい。ではその時にはまた薬草を少し分けてくださいね」


 三人(?)で笑いあって、薬草を分けてもらってから帰路に着く。

 ちなみに、オズちゃん達三人はとても生ぬるい視線で私達を見守っていた。


 精霊と親しげに話すのがそんなに不思議なのだろうか。


 ともあれ、結構な量をノームさんから頂けた。大変ありがたい。

 お陰で籠の中身は一杯になっている。これで当分採取には向かわなくて済むだろう。


(――と言っても、防虫剤届けに行くからまた採取はすると思うけど)


 そんな事を考えながら、皆と一緒に森の中を歩いて街を目指す。


(それにしても、こんな風に薬草が不足すると困るわね)


 私達が採取したのは街から比較的近い距離だ。

 だから、奥の方ならまだ生えているだろうけど、経験の浅い冒険者達では採取するのは危険だと思う。


(……ノームさんみたいに種とか蒔いたら、育つかな?)


 森の中で適当に種を、蒔きながら歩くのはどうだろう。

 育ち切る前に鳥や動物に食べられる可能性は高いけれど、自生に期待するだけよりは良いかもしれない。


(あ、でも野生の種より薬草園みたいな所から、種貰ったりした方が芽吹く可能性は上がるかな……?)


 実家の領地では、ハーブティ用の薬草園もそれなりに存在した。

 ならば、この領地でもそういった業者の人達がいるだろう。


(今度クロード様に相談してみようかな)


 何にせよ、まずはノームさんのお手伝いからだ。


(お店開店への道のりはまだ遠いね……)


 それでも一歩一歩前へは進んでいる。

 まずは、ゆっくりでも良いから進んでいこう。



お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ