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13/森で採取



「お師匠様。採取に行きたいので護衛にジャスさんを雇わせてください!」


 ある日仕事から帰ってから私は言った。


「え、ちょっといきなり何よ?」


 面を食らった様子でお師匠様は問い直す。


「えっとですね、水薬を作りたいのですけど、素材が足らなくなってきたのです。

 だから採取に行くので、護衛にジャスさんを雇いたいのです」

「今までオズと二人で行ってたんじゃないの?」


 確かに今までは二人で散歩程度の感覚で採取に行っていた。


 ただ、それだと効率が悪い。


 オズちゃんも魔術の触媒の材料が欲しいので、お互いに警戒役を交代しながらになる。

 そうなると、日帰りという前提を崩さない限りは大した量が手に入らない。

 ウォードが仲間になってくれたので、問題ないといえば無いけれど……。

 ジャスさんも薬草が見分けられるらしいし、何より彼に少しでもお仕事を回して稼いでもらいたいなという下心もある。


「今、お店に向けて水薬を貯めてるから量が必要なんです」

「ふぅん……まぁ、構わないわよ。何人で行くの?」


 私のもう一つの目的に気付いているみたいだ。

 でも許可を貰えたので少しほっとした。


「オズちゃんとウォードの二人とジャスさんを含めての三人を予定してます」

「ちゃんと前衛が居るわけね。なら問題ないわね。

 許可は出すけど、あの子に拒否する権利はあるんだから、ちゃんと説明なさいね」

「はい」


 皆で外に出るのは久しぶり。

 あのピクニック以来だし、楽しみだな。


 頬がゆるむのを感じていると、お師匠様が少し怖い顔で見ているのに気づく。


「街の外は危険だっていうのを絶対に忘れないように。

 それと、貴女とジャスは絶対に怪我しちゃいけないことを肝に銘じておきなさい」


 お師匠様に詰め寄られて、私はこくこくと首を縦に振るのだった。



* * *



 お師匠様から許可を得た数日後、予定通り森へ私達は採取に向う。

 幸い今の所魔物や動物に襲われる事はないので順調だ。


「やっぱ森の中は涼しいわねー」


 歩きながらオズちゃんがしみじみと言う。


 確かに森の中は、日陰が多いし街中よりも過ごしやすい。

 街と違って塀がないからかな。


 少なくとも風通しは良いし。


「街の中は凄く暑いものね」

「あー泳ぎたーい!!」

「確かに」

「良いですね。でもこの辺りだと、どこで泳げますかね?」


 口々に同意する三人を立ち止まって見る。


「……皆泳げるの?」


 当然のように泳ぐ発言をする皆に思わず尋ねる。


 実家では泳ぐ機会がそもそもなかったので、泳ぎ方がさっぱり分からない。


「昔師匠と一緒に、水辺で魔術の実験してた時に覚えたわね」

「自分は修行の一環で」

「前に川で溺れかけたんで、自力で覚えてどうにかした」


 ……ジャスさんだけ何かが違う気がする。

 でも必要は上達の母ともいうし、それで泳げるようになったのは凄い。


「――あ、ちょい待ち」


 ジャスさんは言うなり、すぐ横の茂みの方へ入っていく。

 ややあって、彼は薬草を手にして戻ってきた。


「これ必要な奴だろ?」

「はい。ありがとうございます、ジャスさん」


 受け取って丁寧に籠へとしまう。


「よく見つけるわねー」

「確かに」


 感心するオズちゃんとウォード。

 私としても凄いとは思う――のだけど、なんだろう。少し負けて悔しい。


 この森の夏は初めてで、まだ自生している植物の分布を覚えきれてないのが原因だ。

 冬と春先なら……負けないのに。


 自分でも少し子供っぽいと思うが、数少ない自分の得意分野だからだろうか。


「――真面目にやっているんだな」

「そりゃまぁ……。真面目にやらないと自由になれないしな」

「……そうだな。――この間は、奴隷だからと失礼な態度だった。すまない」


 そう言って、丁寧に腰を折って謝罪するウォード。

 見てるだけで分かる。


 彼の今の言葉に嘘偽りはなく、本当に心から謝っているのだろう。


「――いや、いいよ。初対面だったし、罪人奴隷相手ならああなるのも仕方ないだろ?」


 困ったように笑って、謝罪を受け取るジャスさん。

 それから二人して何やら雑談を始めた。


「良かったわね、シア」

「えぇ、本当に」


 ウォードは元々子供達の件もあって、ジャスさんに謝りたいが、機会がないと私に相談していた。

 今日一緒に外に出ると言うことで、謝る機会をずっと伺ってたのだろう。


 街を出てから今まで、少しだけギクシャクした空気だったけど落ち着きそうだ。


 少し気になっていた事がどうにか落ち着いて、荷が降りた気持ちになった。



* * *



 その後も、森の中を歩いていく。

 度々、ジャスさんが薬草を見つけ、見分け方をウォードが彼に聞いたりする場面があった。


 そしてある程度進んだ所で、ジャスさんとウォードには周囲の見張りを頼み、私とオズちゃんは二人で採取に専念する。


 夏の森は初めてで、知識としては知っていても中々見つけにくい。


 これでは、ジャスさんに任せて私達が護衛に回ったほうが良いのではなかろうか。


(でもそれじゃ護衛の仕事じゃないし、そもそも道中見つけてくれてたんだから、それで十分よね)


 私としても一応本職である自負がある。

 なんとなく人様に任せるのはやっぱり悔しいので、もう少しないかなと探していく。


「――あんまりないわねー」

「うん。ジャスさんが道中探してた時は、比較的たくさんあるのかなって思ってたけど……」

「彼が見つけたのって、毎回変な所に生えてた奴だったし、そういう所気にしながら探してみる?」

「うぅーん……」


 目立つ所に自生した物は、確かに他の人にも採取されやすい。

 そういう意味では確かにそうかも、とは思う。


 籠の中に入っている薬草は予想より少ない。

 それでも遠出した分、普段の採取よりは多いけれど……。


「これって、この間の魔石事件の影響かな……?」

「あぁー。なるほどね」


 確か魔物が多く出てきてしまった分、水薬の材料として薬草の需要が高くなっていた。

 それに、魔物や他の動物にしてみても、薬草は自身の怪我を治すのに役に立つ。


 つまり森全体で薬草が減っているのかもしれない。


 それなら、ジャスさんが見つけたような、見えにくい所が残っていて、わかりやすく自生している分が減ったのも納得行く。


「うーん……一応それなりには採取できたし、これで良しとするしかないかな……」


 落胆した声で、私が呟いた時だった。


「おーい。ちょっとこっちこいよ」


 ジャスさんの声が響く。

 二人で声の方へと向かうと――彼は良く分からない状態になっていた。


 なんと言えば良いのか、彼はどこからか顔と腕を出して手招きをしているのだが、上半身の斜め半分と下半身が見えない。

 不自然に途切れているように見える。


「じゃ、ジャスさん……? それ大丈夫なんですか……?」


 かすれた声が口から溢れる。

 当の本人は、私の言ってる意味がわからないようで不思議そうだ。


 そうこうしてると、ウォードもやって来た。

 彼も同じくぎょっとしている。


 動じてないのはオズちゃんだけだ。


「ふーん? 結界か何か? それとも視覚だけごまかしてるのかしら……。ジャス、あんた何かやった?」

「特にはなんも」


 そう言いながら、こちら側へと歩くとジャスさんの身体が五体満足で見えるようになった。


「じゃあ、視覚をごまかしてるだけね。――中には何があったの?」

「薬草がいっぱい生えてた。だから呼んだんだが……なんか、問題だったか?」


 どうやら彼自身は自分の身に起きていた事が理解出来ていないらしい。

 なので、オズちゃんが懇切丁寧に説明し、彼女も自分の杖を、先程ジャスさんが居た辺りに伸ばして実演する。


 伸ばした杖は、ある一定の位置から完全に見えなくなった。


「うわっ!? なんだこれっ!?」


 驚いたのはこっちです。ジャスさん……。


 オズちゃんは盛大に溜息を着いてからじろりとした目で彼に言った。


「あんたね、視覚をごまかしてるだけみたいだから良いけど、不審な物見つけたらまずは皆を呼びなさいよね」

「……すまん。なんとなく進んだら、普通に薬草が一杯生えてたんで違和感とかなくってな……」

「これが魔物とかの罠っていう可能性だってあるんだからね。――まぁ、あんたの説明だと本当に偶然入っただけみたいだけど……」


 そう言ってオズちゃんはもう一度盛大にため息を付いた。




お読み頂き有難うございます。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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