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12/頑張り過ぎたら休憩



 一般的に、街の中の安全が確保された肉体労働を朝から夕方まで行うことで得られる対価が八十G。

 冒険者ギルドで、護衛の依頼をすると一日最低賃金がだいたい三百六十G。


 さて、三十万G稼ぐにはどれくらいの日数が必要か?


(……計算しようとも思えないくらいに時間がかかる……)


 どうしたら良いんだろう……?


 現時点でジャスさんの借金は増えていくばかり。

 授業料をゼロにしているお師匠様の修行方針に口を挟む気はない。

 実際冒険者として稼ぐ方が、多分地道に仕事をするよりも確実に稼げるはず。


(リスクさえ度外視すれば……だけど)


 『危険を冒す者』が冒険者の名前の由来。


 つまり、相応のリスクがあるからこその収入。

 そのためにお師匠様は、出来うる限りの技術を与えようとしているのだ。


(だから時間が掛かるのはしょうがない……。ジャスさんの安全を少しでも上げるためだもの)


 今まで何度も少しだけ不満に思っていたことを思い出しては、それを肯定して気持ちを整理する。


(不満なんて抱いちゃダメ……)


 正しい選択なのだ。

 焦って、命が危うくなるより余程良いのだ。


 何度も自分に言い聞かせて、深く深呼吸を何度かする。


(……冷静になって考えよう)


 三十万Gという金額は確かに高額だ。

 ただし、その中には今回子供達の生活にかかる費用も掛かっている。


 ならば逆に考えると、彼らがお金を稼いでその分の借金を払えれば多少は軽減するということ。

 総額から見れば大した額じゃないかもしれないけど、少しづつでも前進するのは大事だろう。


(そのためにはお店を開いて、彼らに仕事を与えなきゃ……)


 焦りだけが募ってく。


 毎日毎日、開店支度に薬を作る。

 素材を取りに行く間も惜しんで作る。

 足らなくなったなら、強行軍も辞さないで取りに行く。

 子供達の教育も継続して続けていく。


 そんな日々を繰り返していたある日――



* * *



 ――目が覚めるとベッドの上に私はいた。

 ただし、ちゃんとお布団に入っているわけではなく、上に倒れ込むようにして寝ていたみたい。


(身体が痛い……)


 起き上がりながら、走る痛みに顔を少し歪める。

 変な体勢で寝ていたせいだろう。


(……今何時だろう……)


 ぼんやりとした頭で周囲を見ると、窓の外は真っ暗だった。


(えぇと……)


 意識を手放す直前の事を思い出す。

 自分の行動は……――あぁ、そうだった。


 確か夕食も済ませて、寝るまでの時間で錬金術のレシピについて考えようかなと思ったけれど、少し眠くて仮眠しようとしてた……はず。

 とすると日付が変わっている可能性はあるが、丸一日寝ていたということはないはず。


 何より、それなら誰かが起こしに来るだろうし。


 ベッドに座り直し、後ろに倒れ込む。


「……頑張りすぎたかな」


 ぽつりと呟く。

 そこで足元から「にゃぁ」とラフィークの声が聞こえた。

 まるで「本当にね」と言ってるような諌める鳴き声。


「にゃぁ」


 すりすりと顔に頬ずりしてから、私のおでこにてしりと足を乗せる。

 ラフィークのこれは、多分私を怒ってるのだろう。


「……はい。ごめんなさい」


 私だけが頑張っても多分無理なのだ。

 それに多分ジャスさんも、私が勝手に彼の為に頑張ることをきっと望まない。


 かといって、子供達に今以上の努力を求めるのも間違っているだろう。


「はー……」


 ため息を付いて、ラフィークを抱き上げて胸の上に乗せる。


(ちょっと気分切り替えたほうが良いわね)


 ラフィークを落とさぬように、抱きかかえてから身体を起こす。

 ランプに火を灯すと、部屋が明るくなった。


「お茶にしようか」


 幸いなことに部屋にポットとカップもあるし、茶葉もある。

 自作のポットは水を入れれば温める機能があるため、部屋を出る必要はない。

 後必要なものは、水だけ。


 ラフィークを降ろして、自分の髪を数本抜く。

 錬成瓶で魔力を抽出した液体を生み出してから、指輪に垂らす。


 浄化の雫がはめ込まれた指輪が、淡く輝いてそこから小さなウンディーネが現れた。


『契約者。お久しぶりですね』

「えぇ、久しぶり。この頃会いに行けなくてごめんなさい。

 それから、申し訳ないのだけど、お水をこの中に入れてもらっても?」

『構いませんよ』


 お願いすると彼女はポットに水を生み出して満たしてくれた。

 水を温めてお湯にしてから茶葉を入れ、少し蒸らしてからカップを二つ取り出して注ぎ込む。


 そっと指輪を外してテーブルにそっと置いて、お茶をウンディーネの前へ動かす。


「良かったら、一緒にお茶してもらえないかしら」

『喜んで。――なんだかお疲れのようですね』

「ちょっと頑張りすぎちゃって……。

 私が頑張ってもあまり意味がないんだよねって、ちょっと気づいたところよ」

『なんだか難しそうですね』

「どうなんだろう……? 勝手に私がやってることとも取れるから……」


 誰かに頼まれたわけじゃない。

 勝手に焦って、勝手にやっただけだ。


『では、そういう時こそゆったりとした方がいいですね』


 そういってお茶からたぷんと、お茶を少しだけ浮かせて小さな雫にして、自分の元へと引き寄せ飲むウンディーネ。

 私も香りを堪能してから一口飲み干す。


 常備してあるのはハーブティ。

 それも寝る時用の安眠効果と鎮静効果のある物だ。


 温かい液体が身体を通っていく。

 香りも合わせて、少し気持ちが落ち着いてきた。


「はぁ……どうしたら良いんでしょうね」

『相談なら乗りますよ? 愚痴を言うだけでも多少気持ちが楽になると聞きます』


 相談……愚痴……。


 言われて考えてみるが、愚痴というほどの愚痴はない。

 しいていうなら、自分が役に立たないのが悲しいということだろうか。


 でも、そういう問題じゃない気がする。

 となれば――


「うーん……そう……ね。

 お金を稼ぐ方法……かな……?」

『それはお役に立てそうもありませんね』


 即答するウンディーネ。

 そもそも貨幣概念を持たない彼女に、期待するのがお門違いだろう。


「まぁ、そうよね」


 苦笑しながら言う。


(でも、ウンディーネのお陰で私の錬金術の幅が広がったのよね)


 契約者だからと、彼女は私に協力してくれる。

 氷の爆弾や、浄化の雫による解毒がその筆頭だ。他にも保冷石の素材を用意してもらっているし。


(他の精霊と契約出来たら、もう少し広がるかな……)


 出来ること、作れる物が広がれば今よりも、きっと色んな人の役に立てるだろう。

 問題はウンディーネ以外の精霊に関して、情報を持っていないという事。


「そういえば、ウンディーネって他の精霊の事って知ってる?」

『知ってますけど、何か用事でも?』

「えっとね、他の精霊と契約出来たら嬉しいなって」


 問題は契約に必要な条件ってなんだろうか。

 ウンディーネの時は恐らく魔物退治が、ある種の条件として見なされて、契約が結べたんだと思う。


 人となりも知らない相手と契約するほど、精霊だってお人好しでは無いだろうし。

 とはいえ”出来ることが広がるから”という理由で「友人になりましょう」という考えは良くないかな……?


『知り合いに居ますよ、精霊』

「もしよければ、紹介して欲しいんだけど……」

『良いですよ。でも契約を結ぶつもりなら火の精霊はお勧めしません』

「知り合いなのに、止めた方が良いと思うの?」

『知り合いだからこそ、彼が嫌いなのです』


 水の精霊だから火の精霊が嫌い……何となく分かるような分からないような。

 逆に仲の良い精霊はと聞くと、植物や土の精霊と仲が良いらしい。


 それは確かによく分かる。


 そんな雑談をしながら、私はまったりと過ごして眠りについた。




お読み頂き有難うございます。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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