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07/教育はじめました



「では、教育するに辺り最低限の心構えを教えるのでしっかりと覚えて下さい」


 そう言ってウォードさんが話し始める。

 こういった事は女性である私やオズちゃんよりも、自分が適任と彼が言ったので任せたのだけど……。


 あの、私の温情とジャスの希望で教育を施すので真面目にやるようにって……。

 真面目にやってもらえないのは困るけど、そんな上から目線な……しかも子供相手に……少々大人気ないのでは?


 しかし前もってウォードさんには、自分が何を言おうと口を挟まないようにと言われてるので、黙ってみるしかない。


「――ここまではよろしいですね?」


 有無をいわさない口調で子供達に確認するように言う。

 不満そうではあるものの、ジャスさんが見守っているからか、異議は出ない。


「では、まず礼儀作法から覚えていただきます」


 礼儀作法と聞いて嫌そうな顔をする子供達に、彼は諭すように理由を説明していく。


「いいですか、礼儀作法――マナーとは身を守るための鎧です。

 マナーがなってない事を原因に攻撃する者は、残念ながら確実にいるのです。

 しかし、礼儀を守った上で攻撃をしてくるような相手であれば、こちらが攻撃する権利を得られます」


 ……それは何か違う。


「そもそも礼儀作法を守っていれば、大抵の場合、揉め事は起きません。

 面倒事を極力避けるためにも、徹底的に覚えてもらいます。異論も異議も認めません」


 はっきり言い切るウォードさん。

 でも、子供達は「なるほど」と納得顔でしきりに頷いている。


(……やる気が上がったのは良いこと……よね。

 きっと、彼等向けに理由を用意したと思えば……)


 そう考える事にした。



* * *



 彼等が住む予定の家は、我が家とご近所の家。

 数年前まではお店をやっていたそうだが、最近になってご主人が息子夫婦の所に行くとかで、店舗を畳んだと言う。


 立地条件は良くなかったものの、昔からのお店だったためか、それなりに繁盛していたらしい。

 だが、今から新規でお店を開くには条件が悪くて中々借り手がいなかった。

 そういった理由もあって、比較的安く借りることが出来た。まさに渡りに船。


 今回の家賃は、とりあえずお師匠様経由でジャスさんの借金に加算される。

 本当は私も資金を出したいのだけど、彼が拒否したためそうなった。


 間取りとしては一階が店舗で、二階が居住区になっている。

 そこそこ広いので、合計十人の子供が暮らす分には問題ない。


 しかし将来的には、男女で分けたり、個室を用意する必要があると思うと少し手狭だろうか。


 ――とはいえ、それが気になるのは数年後。

 その時になってから考えれば良いのだろう。


 まずは衛生概念を徹底的に。病気を防ぐ為にも掃除はとても大事。

 近所に付近の住民なら自由に使える井戸がある。

 毎朝当番制で瓶に水を入れてもらい、手洗いを徹底してもらう。


 この家には幸運にも、小さなお風呂もついてたので、数日に一度はお風呂に入るように言ってある。

 問題は燃料だけど、それはお師匠様に教えてもらった保冷石の逆、保温石を用意する予定。


 お水に入れておけばじんわりと暖かくなっていく品だ。

 これからは暑くなるので、多少ぬるくてもなんとかなるだろう。

 最悪、我が家のお風呂に入ってもらうか、火傷に注意が必要だけど、熱した石をいくつか入れてお湯にする方法もある。


 ヴィオレちゃんを始めとした女性陣は、やはりお風呂に入れると嬉しいらしく喜んでいた。

 気持ちはよく分かる。


 それから、礼儀作法の教育が終わると次は文字の勉強に入った。

 最初は自分の名前から。石筆と小さめの黒板を用意して、全員に配布する。


 慣れるのに時間がかかりそうなので、他にも何か文字を覚えるために道具が必要かもしれない。

 一番良いのは、本を読んであげることだろうか。

 子供向けの童話とかが売っていればいいけど……本は高いので悩ましい。


 ある程度文字に慣れてきたら、今度は計算。

 一桁の数字同士の計算から進めていく。


 不思議なことにこれは比較的皆すんなり覚えた。


 なぜかと思い、ジャスさんに聞いてみると彼が教えていたらしい。


「物を買うのとか、最低限計算出来ないとごまかされるんだよ。

 だから、簡単な一桁は大体みんな出来る。二桁は上の奴だけだけどな」

「なるほど……」


 身近な物、必要な物であれば覚えやすいという事だろうか。

 計算に関してはもう一歩先に進んでも良いようだ。


 文字や計算以外の教育は日々に必要な知識。


 その筆頭は料理。


「――そうそう。包丁を使う時は気をつけてね。

 それからそっちを煮込んで……塩は入れすぎるのはいけないけど、もったいないからと少なすぎても美味しくないからね」

「……これくらいでいいですか?」

「味見して、調節するのよ」


 マーサに教えてもらったように、子供達に教えてあげる。

 材料を買って作るという発想がなかったらしく、初めて作ったスープは皆凄く喜んでいた。



* * *



 こうして子供達に教育をしていると、あっという間に日々が過ぎていく。

 気がつけば雨季が終わり、本格的な夏がやってきている。


「大分暑くなってきたわねー」

「えぇ……本当に。街中ってこんなに暑くなるんだね……」


 実家は比較的開けた所に建っていたからか、暑いには暑いけれどここまでではなかった。

 だが、街では建物が多いせいか風の通りが悪い。

 大通りならば良いが、建物に入ってたり路地となるとすぐに熱がこもってしまう。


「もう少し保冷石作ったほうが良いかな……」

「っていうか、アレ売ったら? 絶対売れるわよ?」


 確かに保冷石の材料は、ウンディーネに水の精霊の力を込めた水をもらえば比較的簡単に作れる。

 とはいえ、値段設定が難しい。安くしてもいいが、相場を荒らすわけには……というかそもそもの問題があった。


「……どこで売るの?」


 現状売る当てというものがない。

 どこかのお店に卸すというのも手なのだろうが、魔術道具を売るお店に行ったこともないし……。


「こことか」

「はい?」

「この建物、元々お店だったんでしょ?

 なら、お店開くのに必要なものが最低限あるんじゃない?」

「そうはそうかもしれないけど……」

「お店を手伝わせれば、子供達も一応働ける事になるからお給料出せるし」


 それ自体は歓迎することだろう。

 問題は、給金を出せるほど収益が出るだろうか。


「今も髪の美容液は同僚に売ってるんでしょ?」

「でも別にたくさんは売ってないし……」

「まぁ、"そうしろ"って言うわけじゃないけど、そういうのも手かなって。

 せっかく魔術道具も作れるんだし、特に保冷石は欲しがる人多いはずよ。暑いもん」


 確かにこの暑さは辛い。

 具合を悪くする人も出るだろう。


 それを考えれば、広く人に行き渡らせるために売るというのは悪い話ではないはず。


「……お店かぁ……」


 お店に必要な物はなんだろう。

 そして物価を荒らさない方法はなんだろう?


(あぁ……でも……)


 自分の作った品が誰かの役に立つ。

 それはとても素晴らしい事だと思う。


(……ちょっと真面目に考えてみようかな)




お読み頂き有難うございました。


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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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