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05/ジャスのお願い



 最初はどうなるかと思ったけど、ピクニックは成功したと思う。

 やはり楽しく過ごせる時間というのは、貴重なものだし本当に良かった。


 ジャスさんは明日からまたお師匠様の修行が待っているし、いい休日になっただろうか。


 ちらりと横目で彼を伺う。


 すると彼と目が合った。


 どうやら相談したい事があるらしい。

 聞いてみると、それは私個人でどうにかするには手に余る内容だった。


 自分なりに考えてみたけど、正直なところ、私はまだ世間知らずからまだ脱せれてない。

 だから、自分で考えた結果が何か問題の原因になる可能性があるかもと考えると、不安になる。


(やっぱりこういう時は相談するのが一番よね)


 そうと決まれば、声をかけるだけ。

 ……残念ながら私が相談できそうな友人はオズちゃんとウォードさんの二人だけだったけど。


 でも二人共頼りになりそうだし、きっと大丈夫!



* * *



「――というわけで、相談したいことがあるの」

「いくらでも乗りましょう」

「良いけど、何を相談したいの?」


 目をキラキラさせて即答してくれるウォードさんと、首を傾げるオズちゃん。


 まずは二人にジャスさんからの相談内容を説明していく。


 ジャスさんはこの街の裏通りにいる子供達――浮浪児というか孤児達と一緒に暮らしていたらしい。

 盗賊団に入ったのも、その子達を守るためにやむを得なくだったという。


 子供達と一緒に居た時は、自分を筆頭にあまり人がやりたがらない仕事をもらって、必死に働いて日々を過ごしていた。

 盗賊となってからも、見張り付きではあるが顔を出しては援助をしていたらしい。


 ……きっとそれが盗賊団側がある意味でジャスさんを縛ってたのだろう。


 しかし、盗賊団が壊滅して彼は開放されたが、今度は奴隷になってしまった。

 お師匠様が主だから、もちろん子供達に会いに行くことを止めたりはしないし、子供達への援助もしてくれる。


 でも、現在ジャスさんは修行の最中であり、お金を稼げているわけじゃない。

 優しいが甘くはないお師匠様は、援助をしてはくれるけど、それに掛かる費用は彼の借金に加算していると聞く。


 それ自体は別に良いと彼は言っていたが、誰かに頼りながら生きていくのは良くないと考えたのだろう。

 だから、私に子供達が誰かにただ頼るだけではなく、自分達の足で立って生きていける手助けをして欲しい。

 ――もしくはそのためのアイディアが欲しいと言った。


 私も大賛成。

 自分が子供達なら、大事な人の足枷になってるのは嫌だと思うし、個人的にも早く奴隷から解放されて欲しい。

 そのためには、やはり子供達の自立が必要だ。


 状況と相談内容を説明し終えて、二人の様子を伺う。


「なるほどねー。良いわよ。力になれるか分かんないけど」


 オズちゃんは快諾してくれた。

 ちらりとウォードさんの方を見ると、何やらぶつぶつと呟いている。


「――それならそうと、言えばいいと言うのに……」


 かろうじで分かったのはどこか拗ねてる様な、悪い事をしてしまったような声音だけ。


「えぇと……その、二人共相談に乗ってくれる……?」

「さっきも言ったけど、良いわよ」

「――微力ながら、私も全力でご協力致します」

「ありがとう」


 ほっとして改めて話を切り出した。


 黒板と石筆を取り出して問題を書き出す。


 まず生活するのに必要なのは衣食住だ。


 現状、衣はボロボロの古い服を着回しで、食はほぼ満足に食べられない状態。住に至っては路上。

 ……こうしてみると、あまりの酷さに眉をひそめてしまう。


 イングリッド領では確か、孤児達には孤児院があってちゃんと生活していたはず。

 確かにそんなに良い暮らしは出来ていないだろうけど、農業には人手が必須なので彼らにも仕事があったし、幼くても大事な労働者として衣食住が与えられていると聞いた。


「とりあえず……この領での孤児ってどういう扱いなのかしら?」


 疑問に答えてくれたのは、オズちゃんだ。

 この領でも当然だが孤児院があり、孤児たちはそこに行けば最低限の衣食住は保証されているらしい。


 だが、その孤児院は開拓村の一つにある。

 開拓村とは、街の外側にある小さな村の事を言う。

 当然街の外だから、魔物の被害に合うことも少なくはない。


 一応孤児院や、借金奴隷となってしまった人たちが向かう開拓村は、街に近い比較的安全な地域ではあるけど、危険はそれなりにある。

 何より問題として、孤児院に入ってしまうと基本的に成人するまで出てこられないし、開拓村は外からの訪問が原則禁止らしい。

 そうなっては、ジャスさんが子供達に会うことも出来なくなる。

 子供達の方もそういった環境を受け入れ難いかもしれない。


 しかし、選択肢としてはありかもしれないので、一応提案として候補に入れておこう。


「んー……とりあえず無償はアウトよね」

「他の孤児達の手前、それは止めたほうが無難だと思いますよ、オズさん」


 そういう部分は確かにある。

 何より、複数人の子供を無償で養っていけるだけの資金もないし。


「じゃあ、つまり仕事を与えればいい……のよね?」

「そう……なる、ね?」


 彼女の問いかけに肯定しながら考える。

 問題はその”仕事”をどうするか。


「――彼等に出来そうな仕事……やはり肉体労働でしょうか?」

「でも、子供の力だとそういう仕事はほとんどもらえないんじゃ……?」

「かといって、技術もないもんねぇ」


 溜息をつくように言うオズちゃん。

 要するに”何も出来ない人間が出来る仕事が少ない”のが問題な訳で……。


「――となると、仕事ができるように、教育が必要ということよね……」

「教育? 何を教えるの? 場所は?」

「それと、誰がそれを教えるのですか?」


 具体的にと問われると、すぐには答えが出てこなくて言葉に詰まる。


 私が雇えれば良いのだろうけど、長期で子供たちを養える程の賃金を出すことは出来ないし、やってもらいたい仕事も特にない。


 ――いや、発想を変えよう。


 とりあえず仕事内容はさておいて、私が教えられる事ってなんだろうか。


 錬金術は駄目だ。

 お師匠様が錬金術師であることを隠せと言ってる以上、教えることはできない。


 私が人様に教えられそうな事……家事全般……?

 でもそれも別にプロというほどの水準ではないし……。


「シアさん。お茶をどうぞ」

「――あ、ありがとう」


 いつの間にか入れたらしいお茶を、ウォードさんから受け取って一口。

 心地よい香りが、考えごとで少し波立っていた心を落ち着かせてくれた。


(……流石グレゴリーの孫ね、教育が行き届いてる)


 だからこそ、彼は私に仕えるよりもっと立場のある人に仕えて、その人を支えて欲しいのだけど……。


 ――彼のことはおいおい考えよう。

 もしかしたら時間が経てば気持ちも変わるかもしれないし。


 街に来た時の事を思い出す。

 もともと私は実家を出た後は、どこかで住み込みの仕事をすればいいかなとぼんやりと考えていた。

 人が多い土地だし、家事の雑用系の仕事ならそれなりに求人があると思ったから。


 結局盗賊団に誘拐されかけて、それは頓挫した。


 まぁ、結果的に考えれば事務仕事だというのに、結構なお給金を頂ける受付業務に就けたわけだけど……。


 ふと違和感に気づいて、二人の顔を見る。


「どうかしたの?」

「あの、ちょっと質問なんだけど、計算とか文字の読み書きって一般教養……よね?」


 私の問に、二人が固まる。

 そして、お互いに顔を見合わせてから、首を横に振って言った。


「一般的に、文字の読み書きができる人は少数ですよ」

「数字くらいなら読める人はいるけど、あんまり桁の多い計算とかはほとんどの人は苦手ね」

「計算や文字の読み書きは、商人の子供なら見習いのうちにやりますが……後は貴族階級や魔術師などの特殊な職業の人だけです。

 一般人はほとんど読み書きはできませんし、大きな桁の計算も出来ません」


 ……やっぱりそうだったんだ。

 そんな環境ならば、冒険者ギルドで受付嬢の皆さんに大歓迎されるのも納得が行く。


「それじゃ、どうやって勉強するの?」

「必要ないもの。買い物で大きな桁を計算する必要ってあんまりないし……。

 うちの魔術師ギルドには図書館があるし、一般人も入館料を払えば入れるけど、ほとんど利用者いないらしいわ。

 日々の生活で手一杯なのに、勉強してる余裕もそのための資金もツテもないのよ」


 なるほど……。

 確かに領地の民は基本的に農業で忙しいし、重労働だから仕事の後に勉強というのも辛いだろう。

 それは開拓領にだって当てはまるのかもしれない。


「なら……――っていうはどうかな?」


 自分の考えを告げると、二人はさらにそれを補正する意見を出してくれる。

 ああでもない、こうでもないとお互いに意見を出し合って、そのために必要な物を考えて書き出していく。


 黒板をみっちり書き込んだ結論を見て、私達は満足げに頷いた。


 ――よし。これで大丈夫!


 後は彼らが受け入れてくれれば良いんだけど……。

 そのためにはまず、ジャスさんをお師匠様から借りないとね。


お読み頂き有難うございました。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
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