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少年07

 討伐は無事終わった。

 盗賊団側には死傷者は出たものの、騎士団側には大きな被害はない。


 氷漬けにされた頭目であるアロガンは、解凍した後に処刑という決定が下される。

 これは、協力者であった少女を隠匿する目的があった――のだが、知っているのはごく僅かな一部の人間だけだった。


 また、誘拐されていた少女達も”商品”だったためか、乱暴はされていなかったらしい。

 下働きとして奴隷のように扱われていたもの達は、余罪がないのを確認した後に希望があれば故郷へ帰ったり、一時的にメーレの街に身を寄せた。

 なお、故郷へ帰るものたちの路銀は、盗賊団の備蓄から消費されている。


 そして――


* * *


 ジャスは居心地の悪さに、挙動不審になっていた。

 理由は当然、目の前にいる領主セドリックのせいだ。


 流石に場所は執務室ではないものの、騎士団の詰め所の尋問室に領主がいるなんて誰も思わないだろう。

 極秘で来たと聞いたが、ジャスとしてはそんな事より、領主がなぜ自分に会いに来たのか、という方が重要だった。


 向かい合わせの空間に二人。少し離れた所にはオレンジの髪色のクロードもいる。

 しかし、ジャスはその人物があの夜、氷の壁から助け出した立派な鎧を着込んでいた騎士と同一人物だとは気づけない。


 沈黙に耐えかねたのはジャスだった。


「……あの、何か御用……ですか?」

「それ以外に理由はないだろう?」


 にこりと微笑みながらいうセドリック。

 しかし、その笑顔を威圧感の塊としかジャスは感じられない。


 余計に萎縮してしまう彼を、背後で立ってるクロードは心の中で笑ってしまう。

 あの夜、大胆にも不意打ちを決めた彼はどこに行ったのだろうか、と。


「――さて。君の生い立ちについては、彼女に軽く聞かせてもらった。

 そして、その行いと罪についてもだ」


 低い威厳のある声に告げられてびくりと身を揺らすジャス。


「本来ならば、盗賊は等しく縛り首である。

 しかし――君の場合は、情状酌量の余地があるとみなす。

 監視下での盗賊討伐の手伝い。

 ――それから監視の許可を得た上で持ち場を離れ、頭目の確保に尽力をした事。

 評価しよう。その上で君に問おう。どちらの罰を選ぶかを」

「……選ぶ?」


 敬語のことなど忘れ、思ったことを口にするジャスに、苦笑しながらクロードが説明を始めた。


「うちの領では、開拓のため一般罪人には開拓村での労働についてもらってるんだ。

 村では買い物も出来るし、雑居だが部屋を充てがわれ、食事も出るし、わずかながら賃金が出る。

 無論、逃亡防止のための魔術道具(マジック・アイテム)を身に着けてもらうことになるし、村を自由に出ることは出来ないけどね。

 それと、開拓村はそれなりの危険を伴う。

 ――まぁ、そこは盗賊団に居た君ならば理解出来ているだろうな。

 けど、警備はちゃんとついてるし、君が送られるのは比較的安全な開拓村になると思う」


 ジャスが頷くと、セドリックは次を促す。


「もう一つの罰は、奴隷落ちってやつだな。

 うちの領じゃ基本的に一般人の人身売買……身売りによる奴隷は違法だ。

 けれど、奴隷が全くいないわけじゃない。

 それが”罪人奴隷”って奴になる。これは法の裁きの結果、発生するものだ。

 罪人奴隷は買い上げた主人に、労働でその代金分を稼がない限りは開放されない。

 つまり、買った奴次第で進退が決まるって事だ。

 大抵は肉体労働の仕事の人手に使われるから、結構きっついな。

 一応まぁ、それほど酷い扱いをする奴に買われないようにこっちも多少配慮はするけど、期限までに買い手が他にいなきゃそういう所に行く可能性もあるぜ」


 これだけ聞いてると、選択肢など一つしかないように思える。

 だが、選択肢と言うだけなのだから、奴隷の方にもメリットがあるのだろうか。


 そう考えて、ジャスはクロードを見る。

 クロードは苦笑しながら頷いて話を続けた。


「奴隷の利点はまぁ、主人によっては扱いも酷くはないだろう。

 それに、開拓村みたいに危険があることも少ないと思うぜ」

「――では、ジャス君。

 君はどちらにするかね」


 ジャスは射抜くような眼光に貫かれたような気がする。


(……どっちかって言われたら……)


 自分の運の悪さを自覚しているジャスは、奴隷に落ちたらきっとろくな主人に出会えないだろうと思う。

 しかし、それでも望みが叶うなら――そう思い、確認することにした。


「……どっちのが早く終る……終わりますか?」

「そうだな。若い君には辛いかもしれないが、開拓村の労働であれば十年。真面目にやっても七年はかかるだろうな」


 七年。

 それは今の半分の人生を費やす計算になる。


 それでは長すぎる。

 彼女と約束をしたのだ。


「……じゃあ、奴隷の方は?」

「ふむ。

 ――金額や買い手にもよるだろうが、長くて五年という所か」


 長くて五年。

 開拓村の労働よりは短いが、それでも十分長い。


 それにあくまでそれは可能性だ。

 実際にはろくでもない主人に当たって、もっと伸びる可能性だってある。


 だけど――


「――奴隷でいい」

「おいおい。良いのか?

 開拓村と違って、周りが一般人の時に、奴隷ってだけで嫌がらせされるかもしれないぜ?」

「別に良い。そういうのは慣れてるし。

 それに――約束したんだ。少しでも早く終わらせたい」


 そう言って、ジャスは笑った。

 憑き物の落ちたような、年相応の無邪気な笑み。


 その表情を見て、セドリックは内心苦笑する。

 彼の予想通りになったな、と。

お読み頂きありがとうございます。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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