34/討伐と不審火
討伐隊は司令官としてクロード様、各部隊の長たる騎士三名、兵士四十六名と追加の有志数名で構成されている。
もちろん、騎士や兵士が総出でだと、街の警備の問題があるので、討伐団に組まれるのは全体の三分の一ほどの人数らしい。
当然、追加の有志とは私とオズちゃんとグレゴリーの孫の三名。
現在私達は盗賊団の拠点へと向かっていた。
盗賊団の拠点は、ジャスさんが居た場所もそうだったらしいけど、かつて開拓村として作った村の廃墟を使っていると言う。
廃墟になった原因は、大体魔物に襲われてしまったから。
けど、かつては人が住んでいたから、水源などの生きるのに必要な資源が揃っている上に、魔物対策用の塀がある。
例え壊れていても素地があれば、修理もそこまで難しくない。
なのでそういった廃村は度々、盗賊や表立って街を歩けないような犯罪者が住み着いているという。
討伐に当たっての作戦はこうだ。
まず、五十人中二十名を、囮を兼ねた正面突破要員として配置。
そして十名一組の部隊を三つ作り、それぞれ挟撃用に二部隊を配置して、残った一部隊が後方支援兼状況に応じて各所に人員を割く。
当然ながら、私が所属するのは支援部隊。
オズちゃんは正面部隊。
囮を兼ねるなら、門を破壊可能な魔術師が配置されるのは分かる。
騎士団の皆さんもちゃんとオズちゃんを守ってくれるだろうけど……ちょっと心配。
ちなみにグレゴリーの孫は挟撃の部隊に配置されると聞いた。会わないことを祈りたい。
そして――すでに部隊ごとに別れており、私は後方支援部隊として馬に乗っていた。
* * *
暗い森の中。
ほぅほぅと梟の鳴き声を聞きながら私は問いかけた。
「あの、所で……クロード様」
「何だ?」
低い声が頭の上から聞こえる。
「……どうして私はこの位置にいるんでしょう……?」
私は今、何故か領主一族としてのクロード様と一緒に馬に乗っているのだ。
領主一族として、盗賊討伐のための指揮を取る役目があり、鎧も立派でひと目見て将だと分かるだろう。
そんな方の馬に何故私が同乗してるのだろうか。そう問いかけると不思議そうに首を傾げる。
「婦女子を歩かせるより、乗せたほうが早いだろう?」
そういえばオズちゃんも何方かの馬に乗せてもらってたけど……。いや、そうではなくて。
「なぜ、貴方様の馬なのでしょうか」
全員ではないけど、馬に乗っている兵士は他にも数人いる。
もうほぼ確信されてるとはいえ、一応他の兵士の面々から見たら私はただの一般市民。
そんな小娘をなぜ領主の息子と同乗させるのかと問いてるんですが。
「父上に言い渡されているからだ」
「……領主様に?」
「うむ。怪我をさせるなと命じられた。だから一番安全な場所に配置している」
ちゃんと戦力になれると証明したのに。
というか、セドリック様……特別扱いするのはどうかと思うのですが。
まぁ、害というか周囲の視線が気になる程度ではあるけど……。
「所でもう一つ質問をしても宜しいでしょうか?」
「なんだろうか」
「討伐の場合、包囲網を作った方が良かったのでは?」
今のままでは東西南北で言う、南が正面部隊、東西を挟撃部隊が配置されて、北がどの部隊もいない事になる。
そこから逃げられては意味が無いのではと思って聞いてみたが、それで問題はないらしい。
完全に包囲出来る程度の人員はいるけれど、包囲が完全であればあるほど、囲まれた側は手段を選ばなくなってしまうという。
要するに、どうせ死ぬなら死なばもろともという事なのだろうか。
なので、わざと一方向開けておき、その一方向には罠を配置してあるらしい。
説明されれば「確かに」と納得出来るけど、ちょっと怖いな。戦術と言うものだろうけども。
「それに今回は、どうやら何人か女性が誘拐されてるみたいだしね。
下手に刺激して人質にされるのは困る。理想は慌てて逃げて、罠に嵌ってくれる事だけど」
小さくぼそりと、私に聞こえるように言う。
私としてはジャスさんみたいに、無理やり従えられてる人達の安否も気にして欲しい所だけど……女性は確かに心配だ。
誘拐された時に言ってたみたいに「商品」にさせられてしまうのだろうか。
考え込んでいると、遠くで爆発音のようなものが響く。
「――と、始まったみたいだ」
その言葉に私ははっとして物見鏡という、遠くを見るための道具を取り出した。
これは観測鏡という鏡と一対になっている品で、遠く離れた場所を見れる道具だ。
余ってた素材で夜でも使える様に改造した自信作。もちろん拡大だって出来る。
鏡に視線を向けたその先では――戦いが始まっていた。
* * *
正門はオズちゃんが壊したらしく、所々焦げているので火炎系の魔術を使ったのだろう。
周囲には飛び火したようで、少しだけ火の手が見えた。
火事に慌てているのは下働きだろうか。
明らかに武装してはおらず、水をかけようとしたけど兵士達に見つかって次々に縄で縛られていた。
なだれ込むように廃村へと侵入していく兵士達とオズちゃん。
常にオズちゃんの周囲には二人の兵士が付き添っており、彼女が魔術を行使するための時間を稼いだり、近寄らせないように気をつけてるように見えた。
村の中央付近にある建物から人が何人か出て来る。
全員武装しているみたいだけど、鎧を着込む暇はなかったみたいで、武器を持ってるだけだった。
とりあえず、相手の武装が完全でないなら奇襲は成功したと見て良いのかな?
防具がなければ、少しの傷で恐怖が生まれ、恐怖が生まれれば統制が崩れたり、投降する人も出るだろうし。
戦況を確認していると、今度は西門と東門でも爆発が起きた。
多分、魔術道具か魔術師が居たのだろう。
もうもうと土埃が上がって、兵士達がそれぞれ突撃する。
一気呵成の勢いで、どんどん盗賊団と思しき人達が倒れていく。
その中でも抜きん出ているのは、両手に剣を持った人物だ。
何故かその人物は他の兵士達と違い、鎧は身につけずにどこか、燕尾服を思わせるコートを着ている。
ばったばったとなぎ倒すその姿は、こんなに遠くから見ていても鬼気迫っていた。
* * *
騎士や兵士でない有志は私とオズちゃんと、もう一人だけ。
つまり、あの鬼気迫る二刀流の人物がグレゴリーの孫というわけだ。
……必死に助けようとしてくれてるのは分かるけど……なんか怖いな。
実際には捕まっても居ないので、八つ当たりに近い行為というのも原因かも知れない。
とはいえ、それを彼は知らないのだから、私のために頑張ってくれてるんだろう。
……でもやっぱり怖い。
このまま会わないうちにグレゴリーから手紙こないかな。見つかったよって。
「どうかしたか?」
私が怖がってるのが伝わったのだろうか。
すぐ上から声が聞こえてきた。
「いえ。ちょっと……。一人騎士でも兵士でもない人が居るなって思って」
「あぁ……。一般参加の彼か」
それだけて伝わったのだろう。
どんな勢いで、あの手紙を持ってきたのか想像したくないな。
現実逃避する気持ちで、私はまた物見鏡を覗く。
見た限り、作戦はうまく行ってるのだろう。どんどん縄で縛られていく人が増えていくし、北門から逃げ出す人も多く見える。
あちらには罠があるというし、きっとパニック状態の人が入ったらすぐ捕まるだろう。
……そういえば、誰が罠なんて貼ってるんだろう?
騎士団にもそういうのが得意な人がいるんだろうか。
そんな事を考えながら村の周囲を見ていると、少し離れた所で一瞬だけ明かりが見えた気がした。
「あれ?」
「どうかしたか?」
「……少し待って下さい」
私は物見鏡の拡大倍率を上げていく。
拡大倍率を上げれば上げるほど映る景色は荒くなるけど……かろうじでそれは見えた。
何本かの木がちらちらと燃えている。
当然だが、今は村を攻め落としてる最中。
そんな離れた場所に火をつける者など騎士団には居ないだろう。
「あの、此処なんですけど」
私は物見鏡をクロード様によく見えるように差し出してからそこを指す。
彼も怪訝に思ったのだろう。
眉をひそめてから、部下の兵士二名に命令を出した。
辿り着くまでどれ位だろう?
魔物か、人か。
どちらでも問題だけど……。
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