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30/彼の罪


 ジャスさん、オズちゃん、お師匠様。

 三人の様子がおかしい。


 しかし、不思議に思ってるのは私だけのようで、オズちゃんとお師匠様はわかり合ってるように頷き合っている。

 なんで私だけ仲間はずれなんだろう……。ラフィークも前足だけ私の膝にのせて「やれやれ」と言ってるみたいだし。


 どうしたものかと思っていると、妙に息を切らせたお師匠様が言う。


「――か、彼のために朝食を持ってきてあげなさい」


 そっぽを向いたままで言う。

 ずっと口元に手を抑えたままだ。


「でも……」

「その間に彼がここにいる経緯とか細かく説明しておいてあげるから」


 むぅ。

 ……でも、確かにずっと彼は寝たきりだった。

 そろそろお腹も減っている頃合いだろう。


 お師匠様もそう言って、少し多めに朝食を作ってくれてみたいだし、ここで押し問答するのも時間の無駄かな。


「分かりました。ではすぐに戻ってきますね、ジャスさん」


 にこりと微笑んで言うと、すぐにそっぽを向かれました。

 ……お友達になったのに……。

 何故そんなに余所余所しいの? 寂しいのだけど?



* * *



 スープを温め直して持ってくると、三人の様子は元に戻っていた。

 何よりだけど、本当に原因は何だったのだろう?


 内心首を傾げながらも、ジャスさんにスープとスプーンを手渡す。

 小さく「呪いの解呪と……飯、ありがとう」とお礼を言ってくれて。

 それが凄く嬉しいと感じた。どうしてだろう?



* * *



 盗賊団に入った経緯。

 抜けられなかった理由。


 ジャスさんは食べ終わると、自分の簡単な身の上話をしてくれた。


『……そ、その時はその時考えるからいいんです!』

『へーへー。それで大丈夫っていう人生送ってたんなら幸せだよな』


 以前商隊の馬車に揺られながら交わした言葉。

 そう言っていた理由が分かった。


 多分、ぼかしてはっきり口にしてない事もあると思う。

 言いたくないのか、聞かせない方が良い事なのかは分からない。

 だけど、どちらにせよ辛い過去があるのだろう。


 ……本当に、私は幸せ者だったんだな。


 今にして思う。

 例え継母様に嫌われてはいても、私を大事にしてくれる人達が傍にいた。

 それだけで――いや、それだけは確かに幸せな事だったんだ。


「――それで、貴方はどうするつもり?」


 重い沈黙の中、お師匠様が問いかける。


「出頭するつもりです。……それだけの事はしてきたし」

「そう。――盗賊が捕まったらどうなるかちゃんと、分かってる?」

「……一応」


 私はこの街に来てまだ日が浅い。

 地域や領によって罰則は異なるらしい。

 我が領では、近年は財産の没収と服役刑になった者位しか知らない。ひとえにお父様の執政の成果だとは思う。

 でも、メレピアンティナではどうなるんだろう……?


 私が問いかけるように視線をオズちゃんに向けると、肩をすくめて彼女は言う。


「この街じゃ、財産の没収、罪状によっては死刑か奴隷落ちね」

「そんなっ!?」


 死刑に奴隷だなんて……!?

 確かに人の命を奪った者ならば、死刑になっても仕方ないのかもしれない。

 だけど、彼は出来る範囲で頑張っていたのに。

 そんなのあんまりだ。


「じゃあ、どうするの? あんた、悪い事をした奴にも事情があったんだからって全部無罪放免になったほうが良いと思ってる?

 殺された人は? 商品やら財産を奪われて露頭に迷った人だっているかも知れないでしょ?」


 それは確かにそうだ。

 罪を償う必要はあるだろう。


 頭では分かってる。

 あの路地裏でだって、私は兵士に突き出した方が良いのではと考えていたのだ。


 事情があっても”悪い事”は”悪い事”だと、ちゃんと分かってる。


 それでも心が納得してくれない。


 助けを求めるように、お師匠様を見ても首を横に振るだけ。

 ジャスさんを見ても――同じように首を横に振るだけ。


 彼はどうなるか分かっていて、受け入れようとしてる。

 そんなの嫌だ。せっかくお友達になれたのに……!!


 私は混乱の極みだったと思う。

 感情論だけが胸を支配していて、涙だって浮かべてた。


 ――彼の言葉を聞くまでは。


「悪い、さっきのセリフは撤回する。

 やっぱり友達にはなれない……だから、もう、俺に関わるな」


 そっぽを向いたまま紡がれた、突き放したような言葉。

 それだけで私の頭は急速に冷えていった。


 ……今、なんて言ったの?


 お友達になったばかりの大事な人がそれを撤回したあげく、もう”関わるな”と私に言ったの?


 冷えた頭で波立った胸に渦巻く感情は収まった。

 けれど、代わりにふつふつと熱く燃えるような感情が生まれてくる。


 この感覚には覚えがあった。

 そう、あの夜ジャスさんが盗賊の仲間に理不尽な攻撃を受けた時だ。


 ――つまりは怒り。


 私は大切な友人に拒絶されて怒っている。

 例え撤回されようと、私は彼を友人だと思っているのだ。

 それが周囲にも伝わったのだろう。三人と一匹は顔をこわばらせているし。


 頭の中が真っ赤に塗られた気分だわ。

 ……えぇ、えぇ。怒ってますとも。


 私は笑顔でジャスさんを見る。

 これだけ怒ってるのに、何故か自然と笑顔になるのだから不思議ね。


「な、なんだ……? もしかして逃がすために落とした事を怒ってる……のか?

 それとも、路地裏で逃げたのを怒ってるのか?」


 どちらも違います。

 落としたのはただの手段。あの状況では最適解だったでしょう。

 裏路地で逃げられたのも呪いがある以上、仕方ないでしょう。


 ――私はそんな事で怒ってないですよ?


 ことさら笑みを深めると、びくりと身を震わせて彼は少し私から距離を取る。


 そう……そうですか。ふふふふ……。

 分かりましたとも。

 そっちがその気なら、私も手段は選びません。


「分かりました。

 ではジャスさんの希望通り出頭していただきましょう。

 ただし、私が”捕まえた賞金首”として。――それくらい構いませんよね?」


 にこりと微笑みながら尋ねると、ジャスさんはこくこくと必死に首を縦に振った。

 うん。なら問題ないですね。


「シ、シア? あんた大丈夫? 顔が怖いわよ?」


 オズちゃんが若干引き気味に声をかけてくる。


 おかしいな。

 普通に笑顔のはずなのだけど。


「大丈夫ですよ?

 えぇ。私はとっても冷静です。

 ジャスさんがそういう酷いことを言うのなら、私にだって考えがあるんです。

 それを実行するだけですとも」


「そ、そう……えぇと、捕まえた賞金首としてって言ってたけど、冒険者ギルドじゃないの?

 冒険者ギルドで賞金払うんじゃぁ?」


 確かに受付嬢としての業務でも、冒険者ギルドに連行された賞金首は、地下の牢に一度入れることになっている。

 その上で、賞金を払ってから騎士団に連絡を入れるのだ。


 しかし、それでは私の願いは希望は叶わない。


 直接騎士団に行かなきゃならないのだ。


「いいえ、オズちゃん。騎士団に行きます。

 私にはやるべきことがあるんです」


 罪を犯した者が無罪放免なんて、確かに問題があるだろう。

 しかし、事情がある者、罪に対して贖いをした者にはその罪の軽減が認められている。


 地域や領によって刑は違えど、このシステムはどこだって対応しているはずだ。


 ならば出来る事はたった一つだけ。


 ――ジャスさんの恩赦をもぎ取るんだ!!




お読み頂きありがとうございます。

本日中にもう一話更新予定です。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
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