少年04
少年はうなされていた。
何とも言えない不快感が、体を這いずるように蠢いてると言えばいいのだろうか。
逃げてる間はあまり感じなかった物だ。
では――なぜこんな事になったのか。
それはきっと自分を看病してる存在がいるからだろうと、彼は考えた。
これは呪いだ。
あの日命令違反をした自分へ罰として課せられた呪い。
自分の希少な能力を、手放さないための。
自分自身の招いた結果――だから、仕方ない。
霞んだ視界に、金色が動いた。
誰だろうと目を開けると、彼が見たこともないほど顔の整った人物が少し離れた場所にいる。
こういうのを掛け値なしの美人というのだろう。
ぼんやりとそんな事を彼が考えていると、美人も気づいたのか少年に近寄ってきた。
「あら、気づいたのね。どう? 吐き気とかは平気?」
やや想定よりも低い声に、少しだけ驚きながら少年は頷く。
「そう。ならいいの。もう少し踏ん張りなさい。呪いを解いてあげるから」
呪いを解く、という言葉に眉をしかめる。
なぜ、この人物が自分の呪いに気づいているのか。
なぜ、この人物は見ず知らずの自分の呪いを解こうとしているのか。
「どうしてって顔してるわね。まぁ、簡単にいうと、うちの弟子の希望だからよ」
弟子というのはきっと彼女だろうか。
この時初めて、少年は目覚めた時に彼女がいなかったことに少し落胆していた自分に気づいた。
何のことはない、彼女は師匠に自分を委ねたのだろう。
彼女が信頼してる人物ならば、きっと呪いは解ける。
それは喜ばしいことだ。
……その彼女が今この場にいないことだけが、少し寂しかったが。
「貴方の呪いを解く道具を作ってるだけよ」
どこかにやついた顔で言ってくる美人に、少年は少し腹が立ったが、自分のために解呪道具を作ってるのが彼女だと聞いて嬉しかった。
――理由はよくわからない。
「まぁ、何にせよ、貴方はこの後呪いから開放されたらどうするのか、ちゃんと考えるのね」
そう言って、口に何かが流し込まれる。
とろみがかったそれは、少し苦い。
「ちゃんと飲みなさい。そして寝なさい。
体力を回復させないと、あの子の解呪が間に合わなくて死んじゃうわよ。
そしたらあの子絶対、後悔して、苦しんで、わんわん泣いちゃうんだから。女を泣かす男は最低よ」
そう言われて、自分が死んだ時に彼女がどうするのか想像してみた。
きっと、美人の言う通りに後悔して、苦しんで、自分にすがってわんわんと泣くだろう。
(それは……嫌だな)
苦いそれを我慢して飲み続けると、とろんとまぶたが降りて来る。
「お休み。寝ながら考えなさい。今後どうするのか」
微睡みに落ちながら、彼は美人の言葉の意味をぼんやりと考え続けた。
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