21/パーティ結成?
彼女の言葉が信じられなくて、思わず心の中で反芻する。
……間違いでないなら、彼女は今「あたしと組まない?」と言ってくれた……のよね?
「だから、あたしと冒険者としてパーティを組まない?」
「えぇと……ごめんなさい。
確かに同性が一人いると心強いです。
けど――だけど。
私にはどうしてもやらないといけない目的があって……最低限、それに協力してくれる人じゃないと困るんです」
「目的? 言ってみなよ」
ううん。
言っていいのかな……でも同年代の同性って凄く貴重だし……。
彼女は最低ランクのFだからまだ駆け出し。有望かどうかはよく分からないけど……私の希望に沿ってる貴重な人材だと思う。
それに街中での捜索くらいなら、付き合ってくれるかも……?
少し迷ってから、私の目的を彼女に話すことにした。
理由はラフィークが警戒していない事と、彼女が幼馴染にどこか似た空気を纏っていたから。
私が説明している間、彼女は静かに――そして真面目に聞いてくれている。
一応盗賊団の一員を助けるというのは、あまり公言してはいけない話だと思っていたけど……良かった。
この話を馬鹿にしたり、くだらないとか言う人じゃなくて。
――それだけでも、話しても良いと決めた私の感覚は正しかったんだと思う。
「――なるほどね。
よくそんな話あたしにしてくれたわね」
「……一応、これでも人を見て話したつもりですよ?」
お互いに苦笑して、それから笑い合う。
「あたしの方はさ、魔術師としての一応一人前にはなったんだけど……まぁ、なったからってどこかに士官するとか雇われるっていうのはちょっと違う気がしてさ。
冒険者になろうって思ったのよ。
ほら、魔術使えれば魔物とも戦えるし、使う機会が多ければ技術は磨けるし」
「なるほど。……でもただの採取依頼を受けてま……受けてたよね?」
「うん。流石に前衛なしで、魔物と積極的に戦う討伐依頼は受けるのは無謀かなーって。
それにまぁ、やっぱ同性がいないと不安っちゃー不安だし」
なるほど。
私は目的のために仲間(もしくは協力者)が欲しい。彼女は一人で限界が出てきたから同性の仲間が欲しい、って事になるのね。
「あんたは、魔術道具師見習いで水薬なんかも作れるんでしょ?」
どこからその情報が漏れたのだろう……?
――もしかして金庫へ行った時? うん。ありえそう。
「えぇ。そうです」
本当は錬金術師見習いなんだけど、お師匠様からそう名乗ってはいけないと固く命じられてる。
お師匠様が意味もないことを言うはずがないので、何か理由があるんだろうけど……理由は教えてくれてない。
私の小さな嘘に気づいてないのか、オズさんは私をキラキラと期待した目で見て言う。
「ならさ。魔力を回復する薬なんかも作れるんでしょ?
一応あたしも回復系は使えるんだけど、やっぱり魔力枯渇だけはどうしようもないし……。
どうかなって思うんだけど? 一緒に組まない?」
「――さっきも言ったけど、私の目的は絶対に譲れませんよ?」
彼を助ける。
それだけは絶対に譲れない。
そもそもそのために冒険者になろうと思ったのだし。
「ん。いいよ」
あっさりと。
彼女は頷いた。
え? こ、今度こそ聞き違い?
「だから、良いってば」
「ほ、本当に……良いの?」
「話を聞いた限りじゃ、その彼は盗賊団にいてもそこまで悪いヤツじゃなさそうだし。
――あんたのその顔で嘘ついてるとは思えないしね」
……人を選んだつもりだけど、彼女も私を「大丈夫だろう」って選んでくれてたんだ。
なんか……嬉しい。
「その、えぇと……それじゃ……お願いしま……す?」
「ん。こちらこそよろしくね。えっと……シア、で良かったわよね?」
「はい。オズさん。よろしくお願いします」
「さん付けは止めてちょーだい。こっちもシアって呼び捨てにするから、そっちもそうして」
「う……分かりました。オズ……ちゃん」
「……ちゃん付けもちょっと」
「何かつけないと言いにくくて……こちらもおいおい気をつけます。いえ、気をつけるね」
そう言ってお互いに笑い合う。
なんだろう。ぽかぽかする感じで、とっても胸がわくわくするというかドキドキするというか。
初めての仲間。
その響きだけで意味もなくはしゃぎたくなる。――変な人認定されるからしないけど。
オズちゃんの方も似たような気持ちなのか、顔が少々にやけてる。
……私もにやけてるかも。
傍から見たら多分怪しい二人組に見えると思う。
けど、それもそんな長いことじゃない。
「にゃー!」
何故なら自分も紹介しろと不満そうにラフィークが鳴いたからだ。
私は改めてオズちゃんにもラフィークを紹介し、作戦を練ることにした。
受付から街の地図を借りてにらめっこして、彼がいそうな所はどこかを相談しながら考える。
残念ながら大きい街ほど、治安の悪い地域があると言う。
広ければ広いほど、そういった地域が複数増えていくらしい。
――オズちゃんがある程度地理を知っていて、危険度の低そうな場所から探す。
お師匠様に怒られない範囲で、彼女にも負担の少ない計画となるとこの辺りが限界だろう。
……そこで見つからなかったら、また別の計画を立てないといけないけど。
もうすぐ夕方になるし、前回の件もあるから仕事を放り出すわけにも行かないという事で、明日の朝二人で探す約束をした。
――どうか、明日彼が見つかりますように。
* * *
あの後仕事を終えて、お師匠様の待つ家へ帰るとすでに夕食の準備をしてくれていたのか、いい匂いが漂って来ていた。
弟子は師匠の面倒を見るものだ、と言ってた割にお師匠様は食事の支度をこのように度々してくれる。
……私の作った食事が美味しくないからだろうか……それとも、受付嬢のバイトで帰りが遅いからかな……後者だと思いたい。
でもお師匠様の作ったご飯は凄く美味しいからなぁ……。やっぱり美味しくないのかも……。
そんな事を考えながら、鍵を開けて扉を開ける。
「ただいま帰りました」
「あら。おかえりなさい。シア。もう夕食の準備が出来てるわよ」
「ありがとう存じます。お師匠様」
今夜の夕食はロールキャベツだった。
トマトベースのスープでコトコトと煮込まれていて凄く美味しそう。
席について手を合わせ、お祈りをしてから夕食を頂く。
よく煮込まれていて、少しくたくたになったキャベツがとてもスープに合って……やっぱり、お師匠様が食事を作りたがるのは自身で作った方が美味しいからかも……。
「そういえば明日はバイトの日だっけ?」
「へ? あ、いえ。明日はちょっと……その、お師匠様。
一人で街の中を歩くのは禁止されましたけど、誰かと一緒なら街の中を見ても良いですか?」
「どういうこと?」
「えっと……今日、魔術師の女の子……オズちゃんって言うんですけど、その子と――」
――街中で彼を一緒に探してもらう予定なんです。
そう言おうとして、思わず止める。
……なぜ、目頭を抑えているんですか? お師匠様。
「お、お師匠様……?」
「――悪いわね。貴女に友達が出来たのかと思ったら……」
友達……?
オズちゃんは仲間になってくれる人であって友達ではないような。
……そういえば私、友達いないな……。
さして長くない人生ではあるけど、主従関係ばかりだったし、お師匠様とは師弟関係だし……。他の受付嬢の方々は同僚、と言った方がしっくりするし。
……友達いない子って心配されてたのか……。
確かにギルドに向かう途中や、ギルドのパーティメンバー同士の仲の良さそうな姿を見ていると憧れるモノはあるけど……。
「――良いわ」
「はい?」
「本当は、仲間にどうかなと目をつけた子と会わせようかと思ったけど、明日はその子と一緒に遊んでらっしゃい。
せっかくなんだから、楽しんでくるのよ。
――そうね。どうせだから、夕食はうちで食べてもらいなさい。作っておいてあげるわ」
いえ。彼の捜索に向かうので、別に楽しむ要素はないと思うんですけど。
――そう思ったけど。
嬉しそうに、楽しそうに語るお師匠様に言えなかったのは仕方ないと思う。
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