20/ちょっとした再会
早く仲間を見つけたい。
いや、一時的に協力してくれる人だって構わないのに。
そうは思ったけど、良い人物が見つからない。
まず第一に、ほとんどの男性冒険者はお師匠様を怖がってるようで、私にあまり近づいてこない。
頼りになりそうな人たちはだいたい年上だし、そういう冒険者は腕が良い分、難しい依頼に振り分けられてる。
私みたいな足手まといを仲間には入れられないだろう。
となると、将来有望でかつ、冒険者として初心者である人材が望ましい。
それに出来れば同性が一人は欲しい所だ。
贅沢なのは分かっているけど、どうにかならないかな。
ため息が自然と出て来る。
……受付嬢の仕事が無駄だとは思わない。
冒険者さんに私が探しているから、情報が欲しいとお願いできるから。
そして毎日帰ってくる時に何か情報があれば、買い取る。
情報収取をしたいと言う意味でなら、受付嬢は都合の良い仕事だと思う。
……けど、全く情報が手に入らない今。
焦燥感ばかりが募る。
そのせいでミスも多いから注意を受けちゃうし。
……この書類、不備がないかもう一度確認しておくかな……。
そう考えて、書類に目を通そうとした時。駆け足が聞こえて来る。
顔をあげると、鮮やかな黄緑色の髪を肩ほどで揃えた女の子が目の前にいた。
――この間の彼女……よね?
なるほど。
冒険者をやっていたのなら、年上らしい男性と口論してたのも頷ける。
しかし……。
太もも程度の長さのズボンはいかがなものかと……。
一応靴下が長いから肌は露出してないけど……。
これが普通。これが普通。
冷静に考えて外で活動するなら、これも理にかなってる。
そういう事にしておこう。
「本日はどのような――」
「あーーー!! この間の!!
ヤダ。あんたが受付令嬢だったの?」
受付令嬢……?受付嬢じゃなくて……?
私が首を傾げていると、彼女は笑顔でハキハキと話し始める。
「いやー。この間はごめんね?
昔っから血の気が多くてさぁ……師匠にもよく叱られるんだけど……。
それにしても、あんたが受付令嬢かぁ……でも言われてみれば確かにそれっぽいわね。
噂が出た辺りから、一度見てみたかったんだけどあんたの受付、一番混んでるからさぁー」
矢継ぎ早に話題が変わる。
ちょ、ちょっと待って。
「あ、あの!」
「ん? あ、あたしの要件?それは――」
「いえ、お時間が空いてるなら、先にお聞きたいしたいのですけど」
「え、何を?」
「受付令嬢ってなんですか……? 受付嬢の間違いではなくて……?」
私の聞き違いであって欲しい。
切に、切に願う。
「え、あんたの二つ名だけど?」
「ふた……つな……?」
「うん。二つ名って分かる? まあ、名前以外の呼び名と思ってくれればいいけど。
あんたの場合、他の受付嬢よりもお嬢様っぽいから受付令嬢って名前になったんじゃない?」
あぅあぅあぅあぅ……。
お師匠様のせいで悪目立ちしてるんだと思ったのに……。
まさか自分自身のせいだったとは……。
「あ、それでこれ、採取依頼のだから見てもらえる?」
私ががっくりしている間も、彼女は話し続ける。
……ううん。落ち込んでる場合じゃないよね。お仕事しないと。
「はい。では確認するので少々お待ち下さい」
「そういえばさー。
あんたなんで受付嬢なんてやってるの?」
「ちょっと色々あって……えぇと……あ、この依頼ですね」
えぇと……うん。依頼内容と採取してきた品物は合ってる。
それから請け負った冒険者の名前が……。
「あ、冒険者証のメダルを見せて頂けますか?」
「はいはい。どうぞ」
渡されたメダルにはFのマークと名前が書き込まれている。
「お名前をお願いします」
「オズよ」
「――はい。確認が取れました。
今、報酬の準備をしますね」
「おっけー。所で色々あって、って言ったけど何があったの?」
ぐいぐい来る人だなぁ……。
まぁ、お仕事を優先しても怒らないみたいなのでいいか。
「ちょっと目的の為に冒険者になろうかなと思って……。
その上でパーティメンバーを見つけるのに最適とある方々に言われまして」
「なるほどー」
「ちょっと報酬を取りに席を外しますね」
一言断りを入れてから、報酬を引き出すために金庫部屋へと向かう。
入り口の水晶に手を触れて、金庫を開ける。
金庫には両壁際にタグのついた革袋がたくさん置かれていて、中央奥には大きな水晶が置かれていた。
この大きな水晶は、金庫水晶と呼ばれる貨幣をしまうことが出来る水晶で、たくさんのコインを保管する時に使う。
とはいえ、こちらに入れるのはギルドの資金で、依頼料というか冒険者への報酬は壁際の棚に置かれた革袋にそれぞれ入ってる。
依頼書のタグを探して依頼者からの報酬を取り出す。
一応書類内容とタグの再確認。うん。間違ってないね。
報酬を持って戻ると、オズさんは私を見つけて手をひらひらを振ってくれていた。
「お待たせしましたオズさん。こちら報酬となっております。
ご確認お願いしますね」
「ん。ありがと」
革袋からトレーに中身を取り出して置くと、オズさんは代金を確認してにっこりと笑う。
「おっけー。ちゃんと報酬受け取ったわ。
――で、ちょっと話がしたいんだけど時間ある?」
混み合う時間にはまだ早い。
けど、一応就業時間中だから、勝手に席を外して良いの……?
ちらりと他の受付の方へ視線を向けると「どうぞ」と言いたそうに頷いてくれる。
……問題ないなら、せっかく同年代の女の子相手だし、ちょっとお話してみようかな。
一人で外に出るのは怒られるし、正直焦ってるこの気持を切り替えたい。
「はい。構いませんよ」
「じゃあ、あっちのテーブルで待っててよ。なんか飲み物買ってくるから」
「はい。――あ、いえ。お代を先に渡しますね。紅茶でお願いします」
「ん。了解」
以前はここに紅茶はなかった。むしろお酒類ばっかりだった。
確かにここで飲食する人の大半が男性で、仕事の打ち上げみたいな場面が多いから、需要があるのは分かる。
でもお酒を飲む気にはなれなくて、私がお願いして置くようになったのだ。
――ちなみに、それなりに需要があるようで概ね好評らしい。
適当に空いたテーブルを選んで座って待っていると、両手にカップを持ったオズさんがやって来た。
「おまたせー」
「ありがとう存じます」
軽く頭を下げて会釈する。
――なんでそんな顔してこちらを見るんですか……。
こう、あり得ないモノを見るような目で……流石に傷つくんだけど。
「いや……二つ名の理由も分かるなって。
とりあえず、その丁寧口調止めてくれない? こう、背筋がムズムズする」
「と言われても……とりあえず順次直していきます。――あ、いえ。順次直す……ね」
周囲にいる人がお師匠様だったり、職場で受付ばかりしてたから丁寧口調を止めろと言われてもすぐにはちょっと……。
そもそも丁寧口調ってなんだっけ……? ようするに、グレゴリーや幼馴染に対するような口調で話せってことよね……?
「おーい。考え込んでる?
あたしの声聞こえてるー?」
「え? あ、はい。すみませ……えぇと……」
「……口調はとりあえず、だんだんで良いわよ」
「あ、すみ……ご、ごめんなさい。
えぇと、それで何の話をしてました?聞いてませ……なかったです。じゃなくて、聞いてなかったわ」
ああ、もぅ。
いきなり口調を改めるのって大変。
「あたしが悪かった。本当おいおいでいいから。
で、えーっと、あんた仲間を募集してるのよね?」
「えぇ。まぁ」
街中に多分潜伏してるはずの彼を見つける。
その手伝いをしてくれる人がいるなら、私としては自分の作る薬を無料で提供してもいいと思う。
……まだ街中にいてくれるといいんだけどな。
外に逃げちゃってたら……見つけるのも、彼が無事である可能性も低くなっちゃう。
「んで、その募集が今の所成果なしなのよね?
――じゃ、あたしと組まない?」
はい?
なんだか凄く気楽に言われた気が……。
それとも聞き間違い……?
お読み頂きありがとうございます。