19/仲間募集中
パーティ。
それは、冒険者達が複数人でまとまって行動を取るためのグループの単位。
よほど強い人ならともかく、野外で一人で寝泊まりして、警戒して……なんていうのは体力的にも気力的にも辛い。
だから、徒党を組むというと語弊があるけど、複数人で行動するパーティという概念が生まれた。
パーティのメンバーは仲間であり、大抵の場合一つの依頼を一緒に行い、お互いを補助する。
報酬は山分けになるけど、一人で行動して死ぬよりは余程良いと言えよう。
なるほど。
確かにパーティなら仲間同士助け合うのは基本。
信頼を積み重ねた上で相談すれば、報酬というかお礼は必要だろうけど、普通に雇うよりも安く上がるかもしれない。
でも、私がパーティを組んだ所で役に立てる気がしない……。
私がそう言うと彼女は、にこやかに笑う。
採取系の依頼では知識のある私は役に立つ。
そして、探索や依頼の最中に薬を提供出来るなら、購入費が浮く分助かる。
更に言うなら、外で採取依頼なら、自分の必要な物も採取出来て一石二鳥だと。
それはそれは丁寧に、熱烈に説き伏せられて。
ぐんぐんと、自分も冒険者になったらいいんじゃない? そんな気持ちになってくる。
彼女の言う通り、それもいいかな……と思った。
「でも、私冒険者に知り合いの人なんていないですし……」
「そう! だから私達のお願いと貴女の希望を叶える良い提案があるのよ!」
待ってましたとばかりに、身を乗り出して言う。
……あれ。気がついたら周囲に他の受付嬢の方々も集まってるんですけど!?
お仕事は!? それなりに人が並んでましたよね!?
「サージュさんのお弟子さんなら騒動の抑止力になるわ!」
「文字が読めるなら、読めない冒険者への案内だって出来るわね!」
「しかも計算が出来るんでしょう? 帳簿付けが全然終わらなくて、定時上がりができなかったの!!」
「ちゃんとバイト代も出すわ!」
「受付嬢なら、貴女に力を貸してくれる冒険者との顔つなぎだって出来るわよ!」
「「「「「だから受付嬢のバイトをしてくれない??」」」」」
五人もの受付嬢の方々に、目をキラキラさせつつも、切実に訴えられて。
――私は頷く事しかできなかった……。
……お小遣い稼ぎが出来るようになったと思おう……。
* * *
一応お師匠様にも了解を得て、毎日仕事には来れない事も了承してもらい、私は受付嬢の職についた。
最大で週に三日。前もって連絡を入れてから入る形です。
ちなみにお給料は日給百G。一般的な肉体労働のお仕事の場合だと、日雇いで平均して八十G。
肉体労働でもないお仕事で、これだけの額を頂けるとあっては、しっかり頑張らないと。
……そういえば、最初抑止力ってどういう意味だろうと思ってたけど……。
「私の弟子に変なちょっかい出したら……分かってるわよね?」
という、お師匠様の一言で意味が分かった。
たったそれだけなのに、その場にいた殆どの冒険者がしゃっと背筋を伸ばしてこくこくと頷いていたから。
正直異様な光景だったけど、お師匠様が凄いんだなと納得するしかない。
ちゃんと「今居ない冒険者にも伝えておくように」と言ってたので、余程の事がない限り私の安全は確保されたと思う。
なので安心して、今日も今日とて冒険者の方々に依頼案内やら、文字を読めない人に説明の日々。
……錬金術やりたいなぁ。
皆さん素直に聞いてくれるし、特に喧嘩が起きたりもしてないので比較的安定してるけど……。
ちなみに受付嬢のお姉さん方は、私のバイトの日にはお休みが取りやすくなったとかで、いつも感謝されている。
一週間に三日しか出てないのにこんなに感謝されるなんて……。人材不足って大変。
それはさておき。冒険者ギルドには混み合う時間が一日に二回ある。
まずは、朝。
朝一番には新しい依頼が張り出される。
割のいい仕事を取り合う冒険者で大忙しでちょっとした戦いだ。
それは、受付も冒険者も同じ事だろう。
次は夕方。
夕方になると城壁の門が閉まる。
基本的に門が閉まってしまうと誰も街の中へは入れない。
だから閉まる直前に、日帰りで済む依頼を受けた人や、個人的に探索に向かった冒険者達が、慌てて帰ってくる。
なので昼間は比較的暇だ。
もちろんそれなりに人は居るけれど、朝夕の混み具合に比べたら静寂といって良いくらい。
そもそも、受付の仕事はないしね。お昼時って。相談とか読み書きができない冒険者は来るけど。
こくり、と紅茶を一飲。
ゆったりとした時間は大切だね。
でも、暇なのは落ち着かない……。
訓練場で走り込みというのも、一応仕事中だから駄目だろうし……。
ため息をついていると近くに人の気配。
そちらを見ると、受付嬢仲間のイーズさんが立っていた。
「シアちゃんー。
これ貼っておいてくれない?」
「はい? 分かりました」
そう言って渡された羊皮紙。
軽く中身を確認すると、幾つかのお知らせに賞金首の手配書だ。
ふんふん。ほほぅ。
今度腕相撲大会なるものをやるのか……娯楽は大事だね。
それから……地下訓練場での無料訓練のお知らせ……。
――これ、お師匠様関連かしら……? まぁいいか。
で、賞金首かぁ……あれ?
ちょっと待って。
手配の知らせを何度も読み直す。
心臓が跳ねた気がした。
最近、街道利用者を襲う盗賊団がいる。
とある冒険者がその盗賊団の一味を一度は捕縛したが、門番へ受け渡す時に突然魔物が現れて、そのどさくさに紛れ逃げられたという。
――重要なのはその後。
逃げた盗賊の特徴だった。
年の頃なら、十四~十五前後。
長い黒髪に黒目の少年。
朧げな記憶が蘇る。
はっきりとは思い出せなくても、確かに彼は黒髪黒目だった。
「ごめんなさい! 私ちょっと席を外します!!」
「え? し、シアちゃん!? ちょっと!?」
言うだけ言ってカウンターを出て、外へと走り出す。
――見つけなくちゃ!!
街を走る。
まずは、捕縛した門番への聞き込みだ。
勢いのまま持ってきた手配書を見せて訪ねる。
残念ながら彼の居場所は分からないという。まぁ、当然よね。そのための手配書だし。
聞けたのは盗賊団についてだけだ。
かの盗賊団が暴れ始めたのは、去年の夏頃。
何度も捕まえようと騎士団や冒険者へ依頼を出すも、あと少しという所で毎回魔物が途中で乱入して有耶無耶になる事から、かの盗賊団には『魔物呼び』と言う名前がつけられたらしい。
これは、盗賊団側も魔物の被害を受けるのも原因と言う。
――つまり、これって誰か魔力の強い人が羅喉石を外したせい……?
私のペンダントと一緒についてた誰かの石は、その人物がつけてた物じゃない……?
そう思って門番に周囲に羅喉石が落ちているかもと進言しておいた。
見つかれば、私の考えは正しい事になるだろう。
結局手に入った情報は、盗賊団の名前と手口だけで他にめぼしいものはなかった。
その後も私は街の中を走り回って聞き込みをしたけれど。
新しい情報なんて、手に入らなくて。
彼を捕まえたっていう冒険者に聞き込みにも行ったけども、門番さんに聞いた情報と変わらない。
しかも、私は気づいていなかったけど、どうやら治安の悪い場所にも入り込んでたらしい。
こってりとお師匠様に危険な場所へ一人で行ったことを怒られた。
それから、イーズさんにもいきなり仕事を放り出して出ていってしまったことを大変怒られた。
当然ながら、その日のお給料はなし。
それと一日はタダ働きをする事を約束させられる。
その代わりといってはなんだけど、私の事情を聞いて指名手配のちらしに少しだけ追加してもらえた。
一つ、必ず生きて捕まえる事。そうでなければ賞金はなし。
二つ、見つけたら私に連絡を入れる事。
――これで、誰かが見つけたとしても彼の命の保証は少し出来たと思う。
願わくば自分の手で……とは考えるけど。
今回の一件でお師匠様の許可なしに一人で街中を出歩く事を禁止させられてしまった。
……早急に仲間が必要だ……。
お読み頂きありがとうございます。
※賃金のあたりを見直しました。




