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16/新しい家、新しい街

 キラキラと朝日に光る金髪は、艷やかでとても長くて美しい。

 紅茶を口に含む。少し俯くとまつ毛が影を作るほどに長くて、凄く優雅な所作だ。

 そして、透き通るような美しくも白い肌。継母様がみたらきっと羨むだろうな。


 ――お師匠様ってこんなに美人な方だったんですね……。


 きっと着飾って出歩けば、道行く人みんなが振り返る。

 その上で女性の服を着ていたら、勘違いする男性もきっと続出するでしょう。

 いや、着飾らなくても、そう言う可能性はあるかも。


 ……お師匠様ったら恐ろしい。


 いっそ名工が作った人形と言われた方がしっくりするほどの完璧な美しさ。

 こんなに綺麗な人、初めてみました。


 ……でも普段のウサギ姿の方が私は好きだわ。

 だってもっふもふで大変愛らしいし……あと男性だと流石に緊張します。

 異性とか関係ない域の美しさですけど。


 ――そういえばここに来た時、ウサギ姿のお師匠様とはいえ、着替えとかをさせてくれたような……。


 ……まぁ、これだけ美しい人です。

 私みたいな娘の着替えなど気にも留めないでしょう。

 そう言うことにしておきましょう。えぇ。


 ……それにしても、お師匠様が男性だったなんて……。

 いつか一緒に眠ってもふもふを堪能するという野望は捨てざるを得ませんね。くぅ……。


「さて。さっき説明した通り、私はたまにこの姿になるの。

 驚かせてごめんなさいね」

「い、いえ。驚きはしましたけど……お師匠様がお師匠様であるなら別に」


 でもいつかもふもふ動物になるためのお薬開発はしてみたいです。

 ときめきます……あれ? もふりたいなら誰かに飲ませないといけないのかしら?


「……何か変な事考えてない?」

「……」

「こら。視線をそらさないの。

 ……はぁ。新しい物を作りたいなら、緊急時以外は私にレシピを見せてから作るように」

「……かしこまりました」


 無念です。

 人様を実験台にする勇気はないので、どちらにせよ作るかどうか怪しいですが。


「さて。

 じゃあ、今日の家事はお休みしていいわ。というか別の場所の掃除をしてもらうわ」

「別の場所……ですか?」


 この家はそれほど大きくない。

 もともとはお師匠様だけが生活していた家だ。

 物置になってた客間を私の部屋として与えていただいて、あとは居間、お師匠様の部屋。調合室と素材倉庫とキッチン。それだけ。

 どの部屋も毎日きちんとお掃除しているので、割と綺麗に整ってると思うのだけど……。


「そうよ。春になったら冒険者ギルドへ行ってもらうって言ったでしょ?」

「はい。最初にお話して頂いた時にそうおっしゃっていました。

 でもそれとお掃除が、どう関係あるのでしょう?」

「――ま。言葉でいうより見せたほうが早いわね。こっちにいらっしゃい」


 そう言ってお師匠様は立ち上がり、壁へと歩く。

 ……そこにはタペストリーしかないですよ?


「これをめくると……ほら」


 タペストリーの裏にあったのは扉。

 普通の扉と違うのはドアノブが無いことだろうか。


 本来ならドアノブがあるだろう位置に、大きな宝石らしき石が取り付けられており、扉がただの木だから見ていて違和感が凄い。


「その扉は……?」

「とりあえずこの宝石に手を触れてちょうだい」


 言われた通りに触れる。

 その上からお師匠様の大きな手が重ねられた。

 すると宝石が手の中で光り出して、ゆっくりと浮き上がり始める。

 ……ほ、宝石部分が押し出てドアノブになった……?


「こ、これは……?」

「魔力パターンの登録をしてるの。

 誰でも使えるようだと困る物だからね。――ん。終わったわ。ドアノブを回して開けてご覧なさい」


 回してご覧なさいと言われても……。

 この向こう側は壁では……?


 そう思いながらドアノブを回して扉を押す。

 扉の向こうにあるのは壁のはずなのに、何故か扉は押せた。


「え……部屋……?」


 暗くて分かりにくいけど、部屋だ。

 書斎……だろうか。かなり埃っぽい。


「やだ。かなり埃っぽいわね。

 口元を布で覆ったほうが良さそうよ」


 そう言いながらお師匠様はどこからかスカーフを取り出して渡してくれた。

 私もそれで口元を覆ってから中に入る。


 暗い。

 きょろきょろと周囲を見ている間に、しゃっというカーテンの開く音。

 突然眩しい光が差し込んで、思わず目を細める。

 カーテンを開くならせめて一言欲しいです。目が、目がしぱしぱします……!


「ほらこっちに来てご覧なさい」


 声を頼りに手さぐりするようにしつつ進む。

 途中でお師匠様に手を取られ、特にぶつかることなく窓辺へとやってきた。


 そして窓から見える光景に絶句する。


 ……街だわ。

 それもうちの領とは比較にならないほど大きい街。

 農耕地帯は窓から見える視界にはなく、たくさんの建物ばかり。

 しかもその建物も平屋ではなく、二階や三階建が多い。

 ここからでは見えないけど、きっと道を見ればたくさんの人が歩いてるだろう。それくらいの規模の街だし。


 ……でも変。

 お師匠様のお家は森の中にある。


 冬の間行っていた持久力トレーニングの時も、風景は森しかなかったはずだ。

 扉を隔てた向こう側にこんな大きな街があるはずがない。


 首を捻っていると、背後からくすくすという笑い声が聞こえた。


 ……あるはずがなくとも、こうして現実にあるのだから、これはお師匠様が用意した物。

 つまりは錬金術の産物ということだろうか。


「お察しの通り、錬金術で空間と空間を結ぶ魔術道具(マジック・アイテム)の効果よ。

 勝手に誰かが使うと困るから、魔力登録での鍵をかけてあったの」

「……お師匠様は本当に凄いですね。

 これが普及したら、きっと流通は変わります」


 しみじみ言うと、お師匠様は少し真面目な声音で言う。


「流通なんてさせないわよ」

「……ですよね」


 苦笑しながら私も頷く。


 冬の座学授業の間、口を酸っぱくして言われた。


『便利を求めても、便利に慣れすぎるな』


 これがお師匠様の信念だ。


 確かに人は便利さを求めて、いろいろな道具を作る。

 そうして文明は発展してきたし、人は新しい物を作ろうと努力するから。


 だけど、便利すぎる道具はいけない。

 その道具に頼り切りになり、いざその道具がなくなった時に何も出来なくなってしまう。

 仮に普及させるならば、せめてある程度の職人が同じものを一定量作れる程度の物でなければならない。


 一人の天才で支えられた文明は、その一人が死ぬことで一気に衰退してしまうからだと、お師匠様は言う。


 それに、と思う。

 この扉はそれだけの問題じゃない。

 仮に誰もが作れるようになったら悪用される可能性が高いだろう。


 流通は確かに良くなる。

 けど護衛の仕事がなくなるし、万が一内緒で設置することが出来たなら。


 ――きっと争い事に利用される。


 座学の中で、何度も争いの歴史を教えられた。

 それは、自分が作った物で起きるだろう変化を、自分で考えられるようにするため。

 ……少なくとも、そういう意図だと私は思ってる。


 だから、便利だけど諦めるしかない。


 でも残念。

 これがあれば、気軽にいろいろな所に行けるのに。


「――ま、ともあれ。

 今日はこの家を掃除してもらうわよ。

 流石に広いから私も手伝うけど。わかった?」

「はい。お師匠様。でも……」

「どうかした?」

「お師匠様のせっかくのきれいな髪が汚れてしまうので、一度結った方が良いのでは?」

「あー……そうねぇ。三つ編みにでもしようかしら」

「では! 私が!!」

「じゃあ、お願い」


 やりました!

 お師匠様のつやっつやな髪に触れる好機です!


* * *


 結論を言うと、自分の髪質に絶望しました。

 なんですかあのサラサラ感。

 するすると手から滑っていくし、まるで絹に触れてるような手触り。

 それに比べて自分の物は……。


 ……いつか髪用の美容品作ろう……。

お読み頂きありがとうございます。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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