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15.5/純粋培養されたひよこ娘


「お、おし……おししょ……」


 んー……。何よ……。押しって何? それも推し? 何を推すっていうのよ……。

 どうでもいいけど、眠いんだからもう少し寝かせなさい。


 ごろんと布団を持って寝返りをうつ。

 ……おかしい。寒いわ。


 薄っすらと目を開ければ、自分の手がもふもふしていない。

 スラッとしつつも、少々ごつい感じの手。


 ……あらやだ。

 私の手じゃない。


 ……そうか。もう季節が変わっていたわね。


「おおおおお……ししょ……さ、さま……?」


 動揺しながら私を『師匠』と呼ぶ声にそちらを見れば、扉にもたれ掛かるようにこちらを見ているシアの姿。


 ……そういえば、私の性別の事やらたまにこうなる事は、言ってなかったわね。


「おはよう。シア」

「……あ、あの……お師匠様なのです……か?」


 恐る恐る問う彼女に、私は頷く。


「……えぇとその……せ、説明をして頂けますか……?」


 この子、今ので私がサージュだというのを疑わないのねぇ。

 状況証拠的に考えれば、それしか無いだろうけど。


 とりあえず軽く状況を説明する。


 私がもともと人間であった事。

 昔実験でミスをして人の姿からあのウサギの姿へと変わってしまった事。

 けれど、季節に一度くらいの頻度で、脈絡なく元の姿に戻る事。


 それを伝えると、若干期待した目で私を見る彼女。

 ……なんでそんなに目がキラキラしているの。


「では、動物に変身するお薬的なものが錬金術で作れるのですか?」

「……期待してる所悪いけど、教えないわよ。それにちょっと違うし……。

 というかそもそも、せっかく可愛い見た目してるのに動物になんてなろうとしないの!」


 まったくこの子はおかしい。

 そもそも最初から変なのは分かっていたけど。


 まず、子供サイズのウサギという私の姿に驚いても、不気味なものを見るではなくキラキラとした憧れ――違うわね。愛玩動物を見る目ね――をしてきたし。

 普通は驚いた上で、化け物扱いされるのだけどね。


 世の中に獣人は居るけど、それでも人と同じ姿に種族ごとに動物の特徴が出る程度。

 そもそもウサギが大きくなったような見た目の獣人はいない。


 つまりは異端だということ。

 そして、人ってのは理解できない物を見れば普通、怯えたり不気味がったりするのだけど……。


 この子は普通に受け入れて、その上出会って少しの私に弟子入り希望をするんだから……変もここに極まれりよね。


 まぁ、そんな変な子を受け入れた私も変わってるのだろうけど。


 ……だって、この子見た目だけなら美しいし。

 身の上話を聞いたら、ヘビー過ぎて追い出しにくいし……。

 こんな天然を放置したら確実にのたれ死ぬのが目に見えてるし……。

 全属性持ちの錬金術師とか、すごい面白そうだったし……。


 そんな事を考えていると、何やら言いたそうにシアがこちらを見ている。

 顔を赤らめて、そして訝しげに首を傾げ、私の方をチラチラと……あ。私の性別のことかしら。


「もしかして私の性別を女だと思ってたのかしら?」

「は、はい……そ、その……口調が……」


 ……そうね。彼女の人生で男が女性口調っていう事態に出会ったことはないでしょうね。

 こんな口調になったのって、美しいものが好きだったせいで、男口調のがさつさが気に食わなくなっただけなのだけど。

 子供の頃、周囲に女性しかいなかったっていうのも原因かしらね。


「男の言葉使いって美しくないから、私はこういう口調なの。ただそれだけよ」

「そう……ですか」


 それにしてもシアの顔が赤い。

 風邪か何かで熱でもあるのかしら?


 昨日までの彼女の行動を思い出してみる。

 けど、具合を悪くする兆候はなかったように思う。

 ならば別の原因という事になるけど……。


 ……そういえば、私今ほぼ裸だったわね。腰の布団だけだわ。

 確かに若い女の子には目の毒ね。私ったら美しいし。


「着替えるから、扉閉めてくれるかしら?」

「は、はいっ! 失礼致しました!!」


 ばたん、と勢いよく閉められる扉。


 ――あの子大丈夫かしら……。というか、よくあの説明で納得するわね……。


 人用の服を取り出しながら着替えつつ考える。


 あの子は変というより正しく言うなら、純粋すぎるのだと思う。

 もっと言うのなら純粋培養されて育った子。


 普通本で知識を蓄えたタイプは、普通本に載っていないようなイレギュラーに弱いものだ。

 しかし、あの子は違う。

 本の知識は知識で、現実には現実で知らないことがあるというのを頭で理解している。

 だから例え常識外のことが起きたとしても、自身の目で見たことを素直に受け入れてしまう。


 そしてあの子は我慢強すぎる。

 辛いと、苦しいと思っても口には出さず、耐えようとする癖があるからだろう。

 頑張り屋と言えばそうだが、度も過ぎれば身体の毒だ。


 元婚約者に婚約解消をされていなければ、恐らく自分の我を通すという選択肢がすら考えつかなかったろう。

 自分の立場を理解し、それに準ずるというのは大事かもしれないが、それでは人としての自由はないと同義だ。


 きっと、彼女は一度信じた相手をよほどのことがない限り不審に思わないし、疑わない。

 ……ついでにいうと、危険感知はできても、年頃の女の子としての危機管理が出来るとも思えないわね。


 今後は冒険者ギルドに登録して、採取をしつつ仕事をこなしてもらって人慣れさせようと考えてたのだけど……。


 あの子を一人で放逐して大丈夫だろうか。


 正直な所、常識というのは生活の中で身につけるものだ。

 そのためには、出来るだけいろんな人間と過ごした方が良い。

 だから冒険者ギルドで仕事をさせようと思っていたのだけど……。


 なんかあの子、最初甘い顔してた男とかにホイホイついていって痛い目を見そうなのよね……。

 使い魔君がいるから、そうそう危険なことにはならないと思うけど……。


 ちょっとお守りを幾つか用意してあげた方がいいかもしれない。

 それくらいなら、師匠の餞別って事で変じゃないでしょう。


 そんな事を考えながら、部屋を出る。


 ――なんだかあの子の親になった気分だわ。

 せいぜい過保護にならない程度に、成長を見守りましょうか。



お読み頂きありがとうございます。


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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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